僕達が付き合うことになったのはついこの間のこと。学校の帰りに、ポロッと出てしまった言葉がきっかけ。慌てて否定したけれど、僕達は同じ気持ちだった。それを知って、そのまま僕達は付き合うことになったんだ。
 これは、まだ始まったばかりの物語。初めてだらけの空白のストーリー。




いペ





 休日はあまり共に過ごすことが出来なくなった二人にとって、唯一の一緒に居られる日だった。学校というものに通い始めれば、小さい頃より遊べなくなるのも当然。学校のある平日は登下校は一緒に出来ても他の時間は一緒に過ごせないのも仕方のない話だ。
 今日はそんな休日。どうしようかと尋ねたところ、久しぶりに出掛けないかという話になった。適当に時間を決めると二人は約束通りの時間に街中で会った。どちらかが時間に遅れることもなく、早く来ていて少し待つといったくらい。いつもの光景と同じである。
 同じなのだが、どうもいつもと違う。歩き始めたのはいいのだけれど会話があまり続かない。会話をすれども少しキャッチボールをするだけに終わってしまうという状態が続いている。


「最近、クラスとかどう?」

「いつもと変わらないよ。トランクスくんの方は?」

「オレの方も別にないな」


 何かと話題を探しものの一区切りついたところから話が広がらない。広げようとはしてもなかなか上手くいかないのだ。少し前まではどんなに些細な話でもその話を広げていくことが出来た。けれど、今はそれがどうも上手くいかない。続けようとしても、どうしても前のように続けることが出来ないでいたのだ。


「………………」


 それから沈黙がやってくる。普通に話していたいのにそれが出来ない。どうすればいいのだろうかと考えていると、今度はそれが沈黙になってしまう。沈黙を作りたいなどとはこれっぽっちも思っていないのに。
 この沈黙のままでいるのが気まずくなって「あのさ」と声を上げれば二つの声が同時に重なる。それに驚いてつい互いの顔を見てしまう。どうやら、考えていたことは同じだったらしい。


「何だよ」

「トランクスくんこそ」

「オレはいいよ」

「ボクは後でいいから」


 どちらからともなく譲り合う。何もここまで譲り合いたいと思っているわけではないが。自分が譲れば相手も同じように譲ってくる。こんなことを繰り返しても仕方がないと思い出したトランクスの方が一呼吸を置いてから話を始めた。


「じゃあ言うけど。お前さ、オレといて楽しい?」


 最初、トランクスが何を言いたいのか分からなかった。言葉の意味が分からなかったわけではない。ただ、いつもそんなことを聞いてたりしないのに突然聞いてくるものだから。どうしてそんなことを聞くのだろうと疑問を浮かべる。
 とりあえず、思ったままに「楽しいけど、どうして?」と疑問をまた投げ返す。急にそんなことを言い出したのはどうしてなのか知りたくて。何かそう思うわせるようなことをしたのだろうか、と頭の片隅では考えながら答えを待った。


「悟天があまり楽しそうじゃなかったから」


 その答えを聞いて目を丸くした。まさかそんな答えが返ってくるとは思わなかったからだ。
 悟天はトランクスと一緒にいることがつまらないわけではない。むしろその逆で、一緒にいれば楽しいし、一緒にいられるのは嬉しい。今日だって休日で久しぶりに出掛けて二人で一緒に過ごせると前日からずっと楽しみで仕方がなかったのだ。それだけに自分が楽しそうではないと言われたのには驚いた。自分ではそんなつもりなど全然なかったのだから。
 それを証明するように、悟天は慌ててトランクスの言葉を否定した。


「そんなことないよ! ただ、なんていうか、緊張しちゃって………」


 今までも小さい頃から一緒に遊んでいた。けれど、今日のように緊張していたことはなかった。自分でも、どうしてこんなに緊張するんだろうと思っていた。緊張する理由が思い当たらなかったのだ。トランクスは悟天にとっては昔から知ってる相手で、一緒に遊ぶのだってこれが初めてではない。何回目だろうかと考えても分からないくらいに遊んだことがある。それだけよく知る相手なのに、緊張してしまうのは自分でも不思議だったのだ。
 そんな悟天の言葉を聞いてトランクスも驚いた。あの悟天が緊張するなんて考えられなかったから。それからさっきまでの会話のことを思い返して一つの結論を見つけた。どうして上手く会話を続けることが出来なかったのだろうかという答えを。


「そういうことだったのかよ……」


 呟いた声は悟天にまでしっかり届いていた。その意味が掴めずにトランクスのことをじっと見つめる。その視線に気が付くと悟天が言いたいことを理解して説明をしてくれた。


「オレも緊張してたからさ。だから、いつものようにいかなかったみたいだな」


 会話が上手く続かなかったのもそのせいだと言う。二人共、今日は緊張してしまっていた。緊張してしまったために普通に話したいのに普通に話せずにいたのだ。そうしようとしても上手くいかないのも緊張していたのが関係している。そこが違っただけで、全部がいつもとは違ってしまっていたのだ。
 そのことを悟天もやっと理解した。それと同時に緊張していたのは自分だけではなかったことに安心した。自分が緊張していることも不思議でおかしと思っていたけれど、それがトランクスも同じなら自分だけがおかしいわけではなかったのだと分かったから。


「こんな風に出掛けるのは初めてだったし」


 トランクスの言うこんな風とは付き合い始めてという意味だ。今までも一緒に遊ぶことはよくあったけれど、それは友達として遊んでいた日々だった。けれど、今日はそれとは違っていた。付き合うことになってから、初めて一緒に遊ぶ日。あまり意識しているつもりはなかったけれど、付き合っているということを意外と意識していたらしい。それで、いつも通りのつもりが緊張してしまった。それが、全ての答えだ。


「そういえばそうだよね」


 納得するように悟天も話す。自分では気づかなかったけれど、言われてみればその通りだと納得することが出来る。
 幼馴染の親友という相手が、付き合っている恋人にもなった。
 相手のことを好きだと知ってから時々相手をそんな風に見ることがなかったわけではない。けれど、付き合っていないのと付き合っているのとでは違っていた。元々、好きだと思っていたのだから付き合うことになったのは嬉しいことだった。それなのにこんなにも意識してしまう自分にもまた驚いたものだ。次の日に一緒に学校に行く時は、互いに相手に変なことを言わないようにと無駄に思っていたような気がする。


「まだ一ヶ月も経ってないんだよね、ボク達」

「ついこの間からだもんな」


 一ヶ月どころか半月さえ経っていない。今日は二人が付き合い始めてから最初の休日なのだ。日にちでいえば、もうすぐ一週間という辺り。まだまだ始まったばかりだ。
 それよりも前から相手のことは好きだったけれど、そのことを言えなかったのはこの関係が崩れてしまうことを恐れていたから。自分達は同じ男で相手は大切な親友だった。もしそんなことを言ってしまって親友でもいられなくなるのは嫌だった。だから勇気を持てずにしまっていた気持ち。
 それが偶然零れ落ちて、同じ気持ちだったと知ったから。今は付き合ってここにいる。


「付き合いは長いけど、こっちの付き合いは短いよな」

「うん。始まったばかりだもんね」


 長い間一緒にいるせいか、分かっているはずなのに分かっていなかった。お互いに近い存在だったから。付き合っているという意識はあっても今までと同じという考えを持っていなかったといったら嘘になる。そう思っていながらも付き合っているという意識がないわけではなかった。それが緊張となって今日の会ったばかりの頃のようになってしまったのだ。
 それも分かってしまえば話は別。いくら付き合いが長くても恋愛対象としての付き合いは日が浅い。そのことに気付いて理解することが出来ればいつもと変わらない。この関係は少し変わっても自分達が変わるわけではないのだから。


「それで、これからどうする?」


 最初の緊張も解けて自然といつもの調子で話す。悟天も同じようにして「何か食べたい」なんて話している。相変わらずの答えにトランクスは笑いながら「何が食べたいんだよ」と返している。何にしようかと考えている悟天は今までと変わらない姿だった。もうギクシャクしたような様子は残っていない。
 一つに決めきれなかった悟天が何でもいいと話せば、場所に悩む必要はない。どこに行っても同じだということは長い付き合いで知っている。


「なら、行こうぜ。どこでもお前の好きなところに」

「本当!? じゃぁ、早く行こう!」


 はしゃぐ悟天にトランクスは微笑みながら着いて行く。早速あの店に行こうと言い出している悟天に分かったと言えば走ってそこまで向かっている。着いてからは「トランクスくん、早く!」とせかすものだから「店は逃げねぇよ」といつもと同じような会話を繰り広げていた。



 この物語はまだ始まったばかり。真っ白なページに、このストーリーを書き加えよう。
 まだまだ先の長いこの物語に。ゆっくりと二人のストーリーを綴っていこう。










fin




「トルエン」のめちる様に差し上げたものです。
付き合い始めたばかりでギクシャクしている二人でした。