今日は大晦日。誰からそういう話になったのかは定かではないが一年の終わりであるこの日にみんなで集まろうという話になり、場所は必然的に大勢が集まれるカプセルコーポレーションに決まる。沢山の料理が並びいつものメンバーが集まった今日は、大晦日なのだからと夜まで騒ごうと盛り上がっている。
 そんな中、大人の話にも飽きてきた悟天が「ねぇ、トランクスくん」と話しかけてきた。それをきっかけに二人はこっそりとこの場を抜け出す。そのまま外に出てみると空には一面の星が広がっていた。


「凄い星の数だな」

「うん。それにしても、外はやっぱり寒いね」


 眼前に広がる無数の星に目を奪われる。だが、同時に先程まで室内にいたこともあって冬の寒さを肌で感じる。温かい室内にいた分、余計に寒さを感じてしまうのだろう。
 みんなと一緒にいるのも楽しいけれど、大人は大人で今年も色々なことがあったと話を始めてしまっては段々と退屈になってきてしまった。あの場にいても悟天とトランクスは結局二人で遊んでいるだけ。それならいっそのことあの場を離れて外へ出てしまおうと思ったのだ。
 小さい二人が母に早く寝なさいと注意されないのは今日が大晦日だから。年を越すその時までは特別に起きていても良いという許しが出ている。せっかく遅くまで遊んでいられる許可が出ているのだからと、二人はこの時間を一緒に過ごそうとここまで来たのだ。


「あまり寒いようなら中に戻るか?」

「ううん、大丈夫だよ」

「そうか? でもあまり無理はするなよ」


 わざわざ悟天の体を気遣ってくれる幼馴染に「うん」と肯定を返す。こんなことで風邪を引いてしまってもあとが大変なだけだ。そうなるくらいなら家の中に戻ってみんなと過ごす方が良いだろう。トランクスのそんな気持ちが分かっているからこそ、無理はしないようにしないとなと悟天は心の中で思う。
 そんなことを考えながら空を眺めていると、ふとあることを思いついた。悟天はそれを楽しそうにトランクスに話し出す。


「ねぇねぇ、トランクスくん! カウントダウンっていうのしようよ!」


 突然そんな提案をしてきた悟天に思わず「は?」と聞き返してしまった。別に言葉の意味が分からなかったわけではない。だが、悟天の口からそんな言葉が出てくるとは思わなかったのだ。
 トランクスに聞き返されたことを聞こえなかったのかと勘違いした悟天はもう一度、カウントダウンしようよと繰り返した。大晦日は一年の終わりと新しい年が始まりが隣り合わせになっている。そのことから多くのテレビ局がカウントダウンの番組を行い年の変わり目を盛り上げている。勿論、悟天もテレビでカウントダウンというのを見たことがあるからこそ、この提案をしたのだ。


「カウントダウンをするのは良いけどさ、悟天。お前、カウントダウンの意味分かってるのか?」


 悟天がやりたいというのならカウントダウンをすることくらい構わない。しかし問題は悟天がカウントダウンの意味をきちんと理解しているのかという点だ。
 そもそも、提案をしてきたのが悟天なのだから分かっているのではないだろうか。普通はそう思うところなのだが、悟天はたまにその言葉の意味を微妙に勘違いしていることがあるのだ。だからもしかしたら今もそうなのでは、と気になりあえてその意味を確認するように尋ねた。
 トランクスに了承の返事をもらえたことに喜びながら、続けられた質問には「知ってるよ」とはっきり答えた。そして悟天は得意気にその意味の説明を始める。


「カウントダウンって数字を数えるんでしょ? それで、数字を全部数え終わったら次の日になってるんだよね!」


 その説明を聞きながらトランクスは悟天の説明を頭の中でもう一度考えた。一見、合っているような気もするけれどどこか間違った解釈をしているようにも思う。数字を数え終わったら次の日になるのは確かなのだが、何か変な気がするのだ。
 これは一応説明した方がいいのかもしれないと一応トランクスからもカウントダウンの意味を説明する。説明というよりは悟天の説明に対する補足というべきかもしれない。


「まあそうなんだけど、数え終わったらって言ってもただ数えれば良いんじゃないんだぜ? 次の日になる時間は決まってるんだから。ちゃんと時間を確認しないとカウントダウンは出来ない、って分かってるよな?」

「いつでも良いんじゃないの?」

「それじゃあ意味ないだろ。日付が変わるちょっと前からやらないと」


 言われてみればその通りだと悟天も納得をする。やっぱり少しだけ勘違いをしていたようだ。冷静に考えれば分かることなのだが、ただカウントダウンをやりたいだけだった悟天はそこまで考えていなかったらしい。それもまた悟天らしいといえば悟天らしいけれど。
 それなら次の日になるちょっと前からやろうと悟天は先程の提案を少し修正した。それを聞いたトランクスは「ちょっと待ってろ」とだけ言って一度家の中に戻る。それから数分もしないうちに戻ってきた幼馴染に悟天は何をしに行ってたんだろうと疑問を浮かべながら青を見た。それに気付いたトランクスは楽しげに笑いながら何かを取り出す。


「時間が分からないと意味がないだろ? だから確認するためにな」


 トランクスの手にあったのは小さな腕時計。ここには時計がないからこのままではカウントダウンが出来ない。だから彼は家から時計を持ってきてくれたのだ。
 これでカウントダウンの準備はばっちりだ。近付いてくる時間に悟天はなんだか楽しくなってくる。カウントダウンなんてただ時間を数えるだけのことだけれど、他の誰も見ていない場所で二人だけで行う。それが楽しいような面白いことのような。こっそり抜け出して二人だけでやるからこそ、特別な感じがするのかもしれない。
 それも相手がこの幼馴染だからだろうか。家族みんなでやったとしても初めてのことに胸が高鳴るだろう。でも、この幼馴染とやる方がそれ以上に楽しめるような、一緒に出来ることが嬉しいような気がする。最初からトランクスと一緒にやろうとしているからそう思うのか、そうでなくてもそう思ったのかは分からないけれど。


「あと一分だな」


 そう言ったトランクスの方を見れば、時計を悟天にも見えるようにしてくれた。持ってきたのは腕時計なのにそれをしないでいるのは二人で一緒に時間を見られるように。
 悟天も時計を覗いてみると、時刻はトランクスの言ったように新年まで残り一分を切っていた。こうして見ている間も秒針が一秒ずつ刻まれている。刻一刻と次の日までの、新年へのカウントダウンは始まっていた。
 あと五十秒、四十秒、三十秒。時計は止まることを知らずに動き続けている。


「今年は色々あったな。色々ありすぎて時間が流れるのも早かった気がする」


 空を見てながら呟いた。一年を振り返れば、今年がこれまで以上に様々な出来事のあった年だったことは一目瞭然。

 平和だった日々に現れた強敵。ソイツを倒すために修行をして強くなって、みんなと一緒になって戦った。
 その戦いも既に終わり、今は平和な日常が戻った。けれど、地球上の殆どの人が忘れても自分達はしっかり覚えているのだ。戦うのは楽しくても遥かに強い敵と戦うのに恐怖が全くなかったわけではない。二人はまだ子供なのだから。

 そんな出来事も終わってしまえば過去のこと。戦闘民族である戦士の血を引いている二人は戦いが嫌いではなかった。小さな戦士として自分達の星を守ったのだ。
 恐ろしい敵にも出会うことになったけれど、平和ばかりで何もなかった今までと比べれば充実した日々を過ごしたということになるのだろうか。平和が一番であることは十分に分かっているけれども。


「そうだよね。この一年はなんだか特別みたいだった」


 夜空に浮かぶ星を見ながら話す。
 この一年は何も強敵と戦ってばかりの毎日だったわけではない。天下一武道会に出たことも思い出の一つだ。自分達以外は大したことはなかったが武道会というものが楽しかった。
 悟天が見たことのなかった父親に会ったのもあの時だ。平和な日々の中で仲間が全員で揃うことが出来た。そんな嬉しい出来事だって沢山あった。
 星の数ほどの出会いがある、なんていうけれどもあながち嘘でもないのかもしれない。そう思うくらいに多くの人々と出会い、多くの人達と関わった年だった。


「あと十秒。カウントダウン、しなくていいのか?」

「するよ! えっと……あと五秒!」


 話している間にも時は流れて、気が付けば残りはあと僅かとなっていた。慌てて残りの時間でカウントダウンを始める。

 四秒、三秒、二秒、一秒。

 時計の長針と短針、秒針の全てが重なる。今まで、この一年を過ごした年とは別れを告げて新しい一年を迎える瞬間。年を越した最初の一日目。
 家の中からは元気な声が聞こえてくる。夜中であろうとお構いなしなのはどこの家も同じだろう。今日だけは許される騒がしさ。その様子を想像するとおかしくて、同時に言わなければいけない言葉の存在を思い出す。


「あけましておめでとう、悟天」

「あけましておめでとう、トランクスくん」


 重なった声に一瞬驚いて、それから笑い合う。考えていたことは、同じだったのかもしれない。笑い合いながら同じこの時間を共有する。


「またよろしくな」

「うん!」


 そう言い合って新しい一年が幕を明けた。











新年最初の言葉はお互いに。大切なキミに贈ろう
僕等の時を刻む時計がまた新たな時を刻み始めた