春の風に吹かれて



 風が流れる。通り過ぎる風は丁度いいくらいの暖かさだった。その暖かさが春になったことを教えてくれている。
 やっと、この学校を卒業する日がやってきた。長かったこの学校での生活に終止符が打たれる。


「トランクスくん!」


 聞き慣れた声が聞こえてくる。この声を此処でこうして聞けるのもこれで最後。それも今日がこの学校の卒業式で、トランクスはその卒業生だから。


「悟天か」


 その姿を視界に捕らえてその名を呼ぶ。
 走ってきた悟天は肩を揺らしながら呼吸を整える。体力のある悟天が肩で呼吸をしているということはそれほどまで急いできたのだろう。そうでなければ彼は息一つ乱すことはない。


「卒業式終わってどこに行ったのかと思ったら、こんな所にいたんだ……」

「クラスの話も終わったからな」

「おかげで探すの大変だったんだよ!」


 どうやら悟天はトランクスを探していたらしい。心当たりのある場所を探して漸くここに辿りついたのだろうか。
 否、もしかしたら教室の次にはここに来ていたのかもしれない。よくこの場所に来ていることを悟天は知っていたのだから。


「どうかしたのか?」

「どうかしたのか、じゃないよ!」


 何が言いたいのかいまいち真意が掴めずにトランクスは悟天のことを見る。すると、その視線に気付いた悟天がゆっくり口を開く。


「トランクスくんはもうこの学校卒業しちゃうから……。別の学校になっちゃうんだもん」

「そうだな。でも、仕方ないだろ」

「そうだけど、せっかく同じ学校になったのに…………」


 この中学校に入学してやっとトランクスと同じ学校に通えることになった悟天。小学校には通っていなかったからこれが初めての学校生活だった。
 そこでトランクスと同じ学校に来たのだが、二人は一歳年の違う幼馴染。トランクスが卒業をすれば二人は別の学校になってしまう。それは仕方のないことだけれども出来ることなら一緒の学校に通いたい。それが悟天の気持ちだった。


「最後くらい笑って送り出せないものかよ」

「だって……!」


 卒業したら別の学校になってしまう。おめでとうって笑って送り出せるのが一番なのだろう。けれど、それもなかなか上手くはいかなくて、大きい方の気持ちが先にきてしまう。
 そんな悟天を見ながら、トランクスはいつもの調子で話す。


「別にもう一生会えないわけじゃないだろ」

「分かってるけど……」

「それに、同じ学校に通いたいなら同じ学校に来ればいいだろ?」


 言われてきょとんとした。同じ学校に通えなくなるというのに同じ学校に来ればいいと言う。その意味が分からずに答えを求めれば、笑ってすぐに答えを教えてくれた。


「待っててやるから。ちゃんと勉強して、同じ学校に進学してこいよ」


 来年、悟天が高校受験をする時に。
 それまで、ずっと待っているから。そうしたら、また一緒の学校に通えるから。


「そうすれば、また一緒の学校になれるだろ?」


 その言葉を聞いて悟天の表情が明るくなる。


「それなら、ちゃんと待っててよ?」

「分かってるよ」

「絶対だからね!」

「ずっと待っててやるよ」


 埋められない一年は、どうやっても埋められない。それならば、その一年をずっと待っていよう。そうすれば、また交わることが出来るのだから。
 早くその日が来ますように。
 そう天に願い、その日が来ることを夢に見る。遠くない未来の日を。










fin