「暑い……」


 ついそんな風に感じてしまうのも無理はない。空を見上げれば澄み渡った青色の中で太陽が輝きを放っている。まさに快晴。
 更に季節は夏。暑いと感じないわけがない。気温はとうに三十度を超えている。


「夏だからしょうがないよ」

「でも、実際この気温は暑いと思うよ」


 この温度でもし暑いと言う人が居るならば、どうしてそんなことが言えるのかと問いたいくらいだ。夏が暑いのは当然で、それも春夏秋冬という季節の変化があるからこそ。この暑さに文句を言いたくなってもどうしようもないのも仕方のない話だ。


「それもそうだな。だけど、そんなことばかり言っていても仕方ないだろ?」

「それは分かるけど…………」


 いくら暑い暑いと言い続けたって涼しくなるわけではない。この暑さは季節特有のものなのだから諦めるしかないのだ。体感気温では暑いと感じたところで別に死んだりなどはしないように人間の体は出来ている。


「悟飯さんは大丈夫なの?」

「うーん……。暑いことは暑いけど、そういう所でも修行とかしてきてるからね」


 そう感じはしても過ごせない気温じゃないよ。
 そんな風に話す悟飯にやっぱり凄いなとトランクスは思う。戦いに場所や天候は関係ない。色んな場所で戦い修行をしているとどんな環境でも過ごせないことはないと思うようになる。いくら暑さを感じても全く過ごせないというまではいかない。今日は暑い、ただそう思うくらいだ。


「暑いと言っていても仕方ないからな。修行を始めるか?」


 そう尋ねるがいつものような元気さはなくなっているようで、トランクスは「うん」と言って頷いた。戦いに場所も何も関係ないとはいえ、悟飯だって暑くないといえば嘘になる。まだ幼いこの子に毎日修行ばかりをすることもないかと考える。それから「仕方ないな」と呟いて悟飯はトランクスのことを見た。


「今日はちょっと休憩しようか」


 突然の提案に「え?」と疑問を浮かべていると、悟飯はすぐ傍にあった海の方に歩いて行く。目の前まで着くと「早くおいで」と言われてトランクスも悟飯の隣までやってくる。
 目の前に広がる海は空の青よりももっと深い青の色をしていた。太陽の光が反射してキラキラ光る海。綺麗だななんて思っていると「行こうか」と言いながら手を引かれた。そんな行動に驚いて顔を上げる。


「たまには修行はなしでゆっくり休むのもいいだろ?」


 そんな提案をしてくる悟飯。予想外の提案にトランクスは海と悟飯のことを交互に見ている。


「せっかく海もあることだからな」


 そう言って笑顔を向ける。続けて「どうする?」と尋ねられた。
 修行をしたくないわけではないがこの気温には参ってしまう。悟飯の言うようにたまには休息の時間も悪くないかもしれない。せっかく悟飯が提案してくれたことだ。今日はこの青い海で休むのもいいだろう。


「そうですね、たまにはいいですよね」


 こうやって過ごすのも。そう答えて笑う。
 トランクスの答えに悟飯は楽しそうに「決まりだな」と言った。それから二人で海に入る。広い海は程よい冷たさで気持ちがいい。

 修行の合間の休息。たまにはこんな日もいいかもしれない。戦うことを考えずに楽しく過ごす。大切な人と笑い合える時間。
 これからもこんな時間を守っていけるように。この時間を大切にするために。
 休息の時間が終わったらまた修行の再開だ。










fin