「おい、悟天。さっさとしろよ」

「待ってよ」


 悟天も高校生になり、トランクスと同じ学校に通うようになって数ヶ月。学校の帰りはいつも一緒に帰っている。学年も違えばクラスも違う。なかなか一緒に過ごせる時間はない。唯一、この登下校の時間は二人が一緒に過ごせる時間なのだ。


「トランクスくん、いつも早いよね」

「お前が遅いんだろ」

「ボクじゃなくて先生の話が長いんだよ」


 今日は部活もなく、先に終わったトランクスが悟天が終わるのを待っていたのだ。先生の話が終わり、号令を掛け終わると次々と出て行く生徒。その中で悟天も鞄を持つと、廊下で待つトランクスの元に急いだ。それが冒頭の会話である。


「いつも時間かかるよな」

「しょうがないじゃないか。ボクが悪いんじゃないもん」


 待たされていたトランクスは文句を言う。けれど、悟天だって担任に文句を言いたい。悟天が好きで遅くなっているのではないのだから。先生も手短に話を終わらせてくれれば良いのにと思うのはいつものことだ。その思いとは逆に先生はいつも丁寧に話をしてくれている。
 そんな文句ばかりを連ねていても仕方がない。いくら担任がどうであろうとこの一年間は担任は変わらない。それに、ちょっと話は長いけれど別に悪い先生ではないのだ。


「それは分かってるけど、オレだって長い時間待つのは面倒だって話」

「だからごめんってば」

「お前が謝ることもないだろ」


 トランクスが言えば「でも待たせちゃったから」と悟天は返した。いくら担任の話のせいとはいえ、この場にその担任がいるわけでもない。
 「そういえばさ」とトランクスが口を開くと悟天は「何?」と彼を見た。


「この間のテスト、どうだったんだ?」

「あーテスト……」


 段々と声が小さくなっていく様子にトランクスはなんとなくその意味を察した。元々良い点であるとは思ってはいなかったが、これは結構酷かったのだろうか。


「前の時、チチさんに怒られたんだよな」

「そうなんだよね。お母さんにちゃんと勉強しろって言われて」

「それでどうしたんだよ」

「だから友達と一緒に勉強したりして頑張ったよ」


 前回はあまりにも点数が悪くて母親のチチに散々怒られたのだ。それを踏まえて今回はしっかり勉強しなければいけないと悟天も思ったわけだ。それで友達と一緒にみんなで勉強をして、やってくるテストに備えていた。


「結果は?」

「赤点はなかったよ。勉強したから。でも、あまり良いとは言えないような……」


 赤点を回避出来ただけでも良かったのだろう。悟天の話を聞きながらトランクスはそんな風に思う。
 いくら勉強をしたといっても友達同士で集まってやったのだ。それでも集中してやっていれば問題はないのだろうが、悟天とその友達でどんな勉強会になったのかは点数からして想像が出来なくもない。


「友達と勉強するより悟飯さんに聞いた方が良かったんじゃないのか?」

「でも、兄ちゃんは忙しそうだったからさ……」


 悟飯に聞けば大体のことは教えてくれただろう。けれど、悟飯も自分の仕事があるのだ。聞けば教えてくれないことはないだろうが、そんな中で教えてもらうのもと思ってやめた。自分でどうにかしようかと思っていたところで友達の提案があったから一緒に勉強をすることに落ち着いたのだ。
 だからといって、どうしてそこで友達と勉強をすることを取ってしまったのか。悟天ならそうなるかとも思うけれど。トランクスは一つ溜め息を吐いた。


「だったらオレのところに来れば良かっただろ」

「トランクスくんだってテスト勉強忙しいでしょ」


 同じ学校に通っているのだからテストの日は当然同じなのだ。悟天がテスト勉強をする時にはトランクスだって自分の勉強があるはずなのだ。だからトランクスには頼まないでいた。
 けれど、その結果がこれなのだ。赤点でないだけマシだがこれではチチに怒られてしまうかもしれないのも事実である。


「オレだって自分の勉強あるけど、お前の勉強も見れるよ」

「だけどさ、大変じゃない?」

「なら、チチさんに怒られても良いのかよ」


 そう言われると「うー……」と言葉に詰まる。好きで怒られたいなんて誰も思わないだろう。


「オレは大丈夫だから次からオレのところに来いよ」

「本当に良いの?」


 トランクスの勉強のことが気になって尋ねれば「別に嫌なら良いけど」とトランクスは言った。それを聞いて「嫌じゃないよ!!」とすぐに否定をする。そこまで言ってしまえばあとはどうするかはもう決まりだ。


「それなら次のテストはオレが見てやるよ」

「ありがとう、トランクスくん!」


 クラスの友達には悪いけれどその方が確実に点数が取れるのは間違いない。それに、トランクスと一緒に過ごせる時間が増えるのも嬉しい。それは悟天だけではなくトランクスも同じだ。だからこそこうして提案をしていたのだ。
 なかなかとれない二人の時間。少しでも多くの時間を共に過ごしたい。
 それを叶えるためにも二人で勉強をするのは効率が良い。悟天のためにやることではあるがそれで二人共が嬉しく思える。


「どうする? オレの家寄ってくか?」


 ふとトランクスが尋ねる。断る理由は何一つない。


「うん!!」


 笑顔で頷くとトランクスも微笑み返す。そうと決まれば二人で真っ直ぐにトランクスの家へと向かう。


 同じ学校。けれどあまり一緒に過ごせない現実。
 勉強という目的があってもそれで一緒の時間が増えるのであれば嬉しい。少しでもたくさんの時間を共に過ごせること。
 それが僕らの幸せ。









fin