「ねえねえトランクスくん! 流れ星を探しにいこうよ!」
いつものように遊びにやって来た悟天はいきなりそんな話題を持ち出した。悟天が唐突に何かを言い出すなんてことは今に始まったことではないが「流れ星?」とその内の一つの単語をトランクスは聞き返す。それに力強く頷いた悟天は更に続ける。
「昨日兄ちゃんに聞いたんだけど、流れ星に願い事をすると叶うんだって!」
「それって星が消えるまでに三回願いを言えたらってヤツか?」
トランクスが尋ねればそうそうと悟天はまた頷く。確かにその話はトランクスも聞いたことがある。実際に試したことはないけれど、星に願うだけで望みが叶うのが本当ならばとても凄いことだ。だから流れ星を探しに行こうよという悟天の話は幼馴染の興味を惹くには十分だった。
「良いぜ。じゃあこれから流れ星を探しに行くか!」
「本当!?」
ぱあと表情を明るくする悟天にああとトランクスが答えれば「なら早く行こうよ!」と今度は急かし始める。普通ならば夜まで待って星を探すところだが、武空術の使える二人にはもっと簡単な方法がある。ここから地球の裏側辺りに飛んでしまえば良いのだ。要は今が夜である場所まで移動すれば今すぐにでも星を探すことが出来る。
そうと決まればやることは一つだ。
「よし、行くぞ悟天!」
「うん!」
勢いよく地面を蹴った二人はあっという間に空へと飛び上がる。目指す場所は今この時間でも星が見える場所。とにかくその場所までひたすら真っ直ぐに突き進む。
□ □ □
やがて頭上には溢れんばかりの星が広がる荒野に辿り着いたところで彼等は地面に降りた。少しばかり肌寒いけれどこれくらいなら許容範囲だ。近くにあった石の上に座った二人はすっと空を見上げる。
「わー凄いね。これならきっと流れ星もいっぱい見つかるよ」
こんなに星があるのだからすぐにでも見つかるのではないだろうか。そう思った悟天だが「なかなか見つからないから願い事が叶うんだろ」とトランクスは逆の意見を述べる。誰でもすぐに見つけられるのであれば楽に沢山の願い事が叶えられることになってしまう。難しいからこそ願いが叶うのだろうと。
言われてみればそうかもしれないと納得した悟天は「とにかく流れ星を見逃さないようにするんだぞ」と注意した幼馴染にこくりと首を縦に振った。流れ星が流れるのは一瞬。見つけても気を抜いたらあっという間に消えてしまう。
「ところで、トランクスくんはどんな願い事をするの?」
二人の目的は星にお願いをすることだ。当然その願い事は考えているだろう。トランクスがどのような願い事をするつもりなのか気になった悟天はそのまま尋ねる。
「そうだな……そういうお前は?」
「ボク? やっぱりおもちゃとお菓子かな」
なんだか似たようなやり取りをした覚えがあるのは気のせいではないだろう。あれは天下一武道会に参加した時のことだ。優勝賞金をもらったらどうしようかという話を試合の前にした覚えがある。
だが、あの時と違うのは今回はお金で買えるものでなくても良いということだ。何せ今回は星に願いを叶えてもらうのだ。そうなるともっと別の願い事をするべきではないかと思えてくる。
「それも良いけど、今回はもっと凄い願い事でもきっと大丈夫だぜ」
だからそれを悟天にも伝えるが「えっ、凄い願いって?」と疑問が返ってきた。どうやら幼馴染には今の説明だけでは理解してもらえなかったらしい。
そうだなと考えたトランクスは「パパ達より強くなりたいとか」と身近で分かりやすい例えを口にした。それを聞いた悟天は「ボクがお父さんより強くなれるの!?」と驚愕した表情を見せる。全く想像が出来ないとでも言いたげなそれは正直トランクスにも想像は出来なかった。しかし星に頼めば何でも叶うのだ。そういったことも可能だろう。
「へえ! じゃあさ、どんなに食べてもなくならないイチゴ大福なんてのも有りかな!?」
「まあ平気だとは思うけど、食べ物以外にねぇの?」
好きなものが食べたい気持ちはトランクスにも分からなくもないけれど、どうせなら他の願い事はないのだろうか。食べてもなくならないイチゴ大福も普通では有り得ないものではあるものの先程から悟天の願い事は食べ物ばかりだ。違う願い事はないのかと言いたくもなるだろう。
「うーんと、ボク専用の遊園地とか?」
「それあんま変わんなくねぇ?」
そうかなと言いながらきらりと輝く何か。あ、と声が出たのは光それが見えたのと同時だった。
「流れ星!!」
「願い事!!」
二つの声が重なる。そして二人は流れ星に向かって願い事を三回。反射的に目を瞑りながら唱えて再び空を見上げた時には数秒前と変わらぬ景色がそこに広がっていた。
「トランクスくん、願い事言えた?」
「……多分。お前は?」
「ボクも多分、言えたかな……?」
目を瞑ってしまったが故に最後の願い事を言い終えた時に流れ星がそこにあったのかどうかは確認出来なかった。失敗したと思うがもう遅い。
けれど急いで願い事を唱えたのだからおそらくは間に合っただろう。そう結論付けたトランクスはよしと立ち上がった。
「なら帰るか。あまり遅くなったらママ達が心配するだろうし」
時計を持ってきてはいないけれどそれなりに時間は経っているだろう。ちゃんと願い事を言えたかどうかは定かではないもののきっと大丈夫なはずだ。それならばそろそろ帰るべきだろう。
トランクスの言葉にそうだねと悟天も頷いて立ち上がったところで二人は来た道を戻る。その最中、悟天はもう一度トランクスにどんな願い事をしたのかと尋ねた。結局、トランクスがどんな願い事をするのかは聞けず仕舞いだ。
だがトランクスは秘密だと言って教えてくれなかった。えー! と文句を言った悟天に「願い事は人に言ったら叶わないんだぞ」と説明してやれば「そうなの?」と聞き返されたから「そうだぜ」とトランクスは肯定する。
「だからお前もさっきした願い事は人に話しちゃダメだからな」
「うん、分かった!」
じゃあ今日のことも二人だけの秘密だねと笑い合って空を飛ぶ。
西の都に戻ることにはすっかり空はオレンジ色に変わっていた。それじゃあまた明日、そう言って別れた二人は翌日も一緒に遊ぶ予定である。それが幼馴染である二人にとっての日常。
星に願いを
(トランクスくんと一緒にいられますように)
(悟天と一緒にいられますように)
それがあの時、突然現れた流れ星に
咄嗟に願った僕等の願い事