昨日もいつもと同じように悟天と一緒に遊んだ。それで帰る時には「明日はトランクス君の家に行くね」と言われた。
だからオレは悟天が来るのを家で待ってるってワケ。それまで適当に過ごしてようかと思って本棚から数冊ほど本を取り出しては読み始めていく。ふと、悟天の気がこっちに向かっていることに気が付いて手にしていた本を置く。それから間もなくして家のチャイムが鳴り、すぐにドアを開けて悟天を迎え入れるとそのままオレの部屋へと向かった。
勘違いとこの気持ち
「ねぇ、トランクス君」
悟天がオレの家に来てまず何をしようかって話になった。ゲームをしたいって悟天が言うから、やっていいとだけ答えてオレはさっきまで読んでいた本に手を伸ばした。了承を得た悟天はといえば、喜んでゲームの準備を始めた。電源を入れてからはゲームの世界に入り込んでいただろう。やっていたのがRPGゲームなのだから尚更だ。
そんな悟天がいつの間にかゲームをやめて話しかけてきた。特に気にもせずに「何だよ」と言葉だけで返したら、次の瞬間にはとんでもない言葉が悟天の口から発されていた。
「ボクとデートしようよ」
は? コイツ、今なんて言った?
オレの聞き間違えでなければ、悟天はデートをしようって言ったはず。言ったはずだけれど、その言葉をすんなりいいですよなんて返せない。返せるはずがない。
それよりも、今の言葉が聞き間違えなんじゃないかっていう疑問が生まれる。だって、ありえないだろ? 悟天がオレにデートをしようなんて。それ以前に、そう言うこと事態がおかしいんだけどさ。
「何言ってるんだよ、お前」
「だから、ボクとデートしようって言ってるんだよ」
どうやらさっきの言葉は聞き間違えではないらしい。
それが分かったからって問題が解決するわけではない。むしろその逆。これを悟天が本気で言ってるのなら問題だ。世間一般的に考えて、どうみても問題になるとしか思えない。
でも、相手は悟天だ。まずはどうしてそんな話になったのかってことから聞いていこう。順を追って話を聞いていけば、コイツが言った意味も理解出来るかもしれない。まぁ、今の時点でなんとなく予想が出来たけど。それはそれでオレの予想が正しいのか確認する必要がある。
「何で急にそんな話になるんだよ……」
「何でって、トランクス君が好きだからだよ」
一瞬、コイツの笑顔にドキッとした。
何にとか何でって聞かれても上手く答えられる自信はない。だけど、あまりにも綺麗な笑顔だったから。一瞬だけどその笑顔にドキッとしてしまったんだ。
そんな気持ちを一度だけだけど抱きながらもオレはさっき立てた予想について考えてみる。この悟天の言葉を聞く限り、これ以上聞かなくてもオレの予想は確かだろう。そうは思うけれど一応本人に直接聞いておこう。絶対にこの予想が外れていない自信はあるけど、もしものことがあるかもしれないから。
「あのさ、悟天。一つ聞いてもいいか?」
最初にそう尋ねれば「うん」とすぐに返事は返ってきた。それを聞いて今度は質問を投げかける。予想したことの答えとなる質問を。
「デートの意味、知ってるか?」
オレがそんな質問をすれば、悟天はきょとんとした様子でオレのことを見た。それから少しして「知ってるよ」と言うものだから「それなら説明してみろよ」と返してやった。きっと予想通りの答えが返ってくるだろうと思いながら、オレは悟天が口を開く様子を見ていた。
「デートって、好きな人と色んな所で楽しく遊んで過ごすことでしょ?」
………やっぱりな。
予想は見事に的中していた。いくらデートしようと誘ってきたとはいえ、相手はあの悟天だ。悟天が本当にデートの意味を知ってるとは考えづらい。だからオレは何か勘違いしてるんだろうと思った。好きな人と一緒に遊ぶとか過ごすとかっていうような。そんな勘違いをしていたなら悟天がさっきオレに言ったことだって納得出来る。
どうしてこんな間違いするかな。そう思いながらも悟天だから仕方ないかと納得する。どうせ“デート”って言葉も悟飯さんに聞いたんじゃないかな。それで好きな人と一緒にどうのこうのって聞いたんだろうな。もしかしたら悟飯さんがそんな話をしているのを聞いて悟空さんとかに聞いたのかもしれないけど、答えは大して変わらないだろう。
「あのな、デートっていうのは好きな人でも男と女がやるものなの。好きな人なら誰でもいいってワケじゃねぇんだぜ?」
「えー! そうなの!?」
「当たり前だろ。そう簡単に誰とでもデート出来るわけじゃねぇの」
これくらい説明すれば大丈夫だろう。悟天の中では男と女っていう単語が抜けてたみたいだし。好きな人と楽しく遊んで過ごすっていうのは間違いでもなうからな。肝心な部分が抜けてたけど。でも、これで悟天のデートっていうものの勘違いもなくなったんだもんな。
もし、このことを知らなかったら。悟天は誰とでもデートをしたのかと思うと、嫌だなって思う。どこかで気付くだろうけどさ。それでも、一回でもそんなことがあったらなんて考えたくもない。
そこまで考えて、自分は何を考えてるんだろうと思ったからそれ以上考えるのはやめた。もしなんてことはこれで絶対にないんだから考えるだけ無駄でもある。だったらそんなことをわざわざ考えることなんてしない方がいいだろう。
「じゃあ、ボクとトランクス君はデート出来ないの?」
「そういうこと。分かったか?」
オレがそう言えば、悟天は小さな声で「うん」と言いながら頷いた。だからこれで分かってくれたんだろうけど、なんかオレが悪いことしたように思うっていうか……。だって、目の前に居る悟天がしゅんとしていて、まるで捨てられた子犬みたいになってる。これじゃぁオレが悪いことしたみたいじゃん。実際そんなことしてないけどさ。
でも、こんな悟天をこのままにしておくことも出来ない。さっきまでとは全然違う様子なんだぜ? オレは、さっきまでの楽しそうな悟天の方がいい。こんな風に落ち込ませたいなんて思っていない。
どうすれば、悟天がまた元気な姿に戻ってくれるんだろうか。
そんなことを考え始める。早くいつものような悟天に戻って欲しいから。悟天がこんな顔をしてるのもオレが言ったことのせいだって分かってるけど、それはそれで知っておく必要のことだったんだもんな。じゃあどうすればいいのかってことが問題だけど。そういえば、元々コイツがデートをしようって言った理由っていうのは遊びに行きたかったってことだよな。それなら、結果的にデートじゃなくてもいいってことだから…………。
「なら、今からどこか楽しいトコにでも遊びに行くか?」
それを聞いた途端。悟天の表情が一気に明るくなった。
さっき見せていた色はどこに消えたのか。もしかしたらあれは嘘だったんじゃないかって思うくらい。そう思わないのは、コイツがそんな嘘をつけるほど器用じゃないって知っているから。
「うん!」
いつもの調子に戻った悟天に、やっぱりこの方が悟天らしいななんて思う。悟天には笑顔の方が似合ってる。
あまりにも嬉しそうにするものだからつられてこっちまで嬉しくなってしまう。嬉しいことは分かち合いたいとか、悲しいことは分かち合いたいとか。そんな言葉があるけど、あれはあながち嘘じゃないかもしれない。だって、今のオレは悟天が嬉しそうにしているのが嬉しいんだから。
どうせ遊びに行くなら、早いほうがいい。ぐずぐずしてたら日が暮れるのは分かりきっているんだ。だから「行くぞ」って声をかけて飛び出したら、悟天は「待ってよ」と言いながらオレの後を追ってきた。どことは決めてないけど楽しい所へ遊びに行く為に一緒に空を飛ぶ。
デートの意味は男女が一緒に楽しく遊んで過ごすこと。家族や友達、誰とでも出来るものではない。限られた人とのことでしかデートと呼ぶことはできない。
けれど、一緒に楽しく遊んで過ごすことくらい誰にだって出来る。それがデートと呼ばないだけで、やっていることは同じ。そんなことを始めるのもこの幼馴染の勘違いから。こんな勘違いをしているとは思わなかったけど、この勘違いから一緒に遊びに行くことに発展したわけでもある。その本当の意味も知ったことだし今回はこれで良しとしよう。
時々感じたこの気持ち。
この気持ちの答えを今はまだ知らない。けれど、いつかその答えを知る日がやってくるだろう。いつの日か、その答えに気づく時がやってくる。
それまでは、この関係をずっと続けていられますように…………。
fin