今、この世界で願うこと。
人造人間の脅威がなくなること? 世界が平和になること?
それとも、もっと他の願いがあるのかもしれない。
貴方にとってそれは何ですか?
この世界に望むこと
「悟飯さんの願いって何ですか?」
修行の間の休憩時間。弟子にそんな質問を投げ掛けられて何だろうなと考えてみる。答えを返すよりも先に、その弟子が願いであるだろうという予想の言葉を並べてみる。
「人造人間を倒して、この世界が平和になることですか?」
そう。今、この世界は人造人間によって恐怖に脅かされている。あの二人の存在がこの地球上全ての人にどれだけの恐怖を与えているか。そんなことは当の本人達は全く知らないだろう。何しろ殺戮を楽しんでいるような連中だ。こっちの気持ちになってみろという方が無謀である。
この世界をその恐怖から救うため、人造人間と戦うためにこうして修行をしているのだ。いつまでもこんな世界を続けていくわけにはいかない。何よりも、命を掛けて人造人間と戦った仲間達のためにもアイツ等を倒さないわけにはいかない。
「そうだね。そのためにも修行をしてるんだもんな」
あの日からずっと修行を続け、度々人造人間と戦ってきた。戦ってきたといってもまだ倒せるほどの力はないから毎回それを止めることしか出来なかったけれど。それでは意味がないからとこうして修行を続けているわけだ。
最近はそんな悟飯と一緒に戦いたいと言ったトランクスに修行をつけている日々を送っている。あのべジータの息子なだけあって成長が早い。きっと、自分を超える戦士になるだろうと悟飯は心の中で思っている。
「でも、それとは違う願いもあるかな」
「他の願い、ですか………?」
この他に願いがあるとは思っていなかったのか、トランクスは不思議そうな表情をしている。いかにもそれは何かと聞きたそうである。
その答えを教えるよりも先に悟飯は同じ質問を聞き返してみる。
「そういうトランクスはどうなんだ?」
全く同じ質問をされて驚いた様子を見せながらもトランクスは考える。考えてみたところで一番最初に思いついた答えはさっき自分が言った言葉だった。
「やっぱり、ボクはこの世界が平和になって欲しいです」
この世界を平和にしたい。そう思うからこうして修行をしている。人造人間を倒したいと、この世界に平和を取り戻したいと、そう願っているのだ。
だからその答えが出るのは予想通りだった。悟飯だってそれは一番に思い浮かぶ願いである。こんな世の中を生きているのだから、この願いが一番始めに出てくるのも当然といえば当然。この地球上の人々は、人造人間の居ない平和な世界を望んでいるだろうといっても過言ではない。
「他にはないのか?」
あえて他の答えも求めてみる。願いといっても一つとは限られていない。もっと別の答えがあるのかもしれないと思って聞いているのだ。
というよりも、これとは違う答えがあって欲しいとも思っている。こんな世界で願いといってもそう思いつくものはないかもしれないけれど、それでもこの願いとは別の願いがあるのもいいと思っている。
「他にって言われても…………」
頭を悩ませているトランクスにやっぱり難しい質問だったかと悟飯は考える。こんな時代に生まれてきたのだ。その彼に他の願いを見つけろという方が難しいのかもしれない。平和な時代であれば願いや夢もあったかもしれないが、こんな時代に生まれ育った彼には夢なんてものを見つける暇なんてなかっただろう。今だって平和な世界にするために努力をしている真っ最中なのだ。
その事実に少しばかり寂しさを感じる。難しいものとはいえ、一つくらいは別の願いや夢を持って欲しいと思ってしまう。悟飯も昔は学者になりたいという夢を持っていた。こんな世の中になってからはその夢を追うことを諦めてしまったが、夢があることはいいことだと思う。
「オレは、トランクスやブルマさん達とこれからも一緒に居たいっていうのも一つの願いだな」
今、一緒に居る人達。その人達とこれからも一緒に居たいと願うのは、一緒に居られるからこそだ。親しい人達を失っているからこそ、余計にそう思ってしまうのかもしれない。もしかしたら他のどんな願いよりこの願いが一番ではないかとも思う。せっかく一緒に居られるのだからその時間を大切にしたいと思うのと同じように、こうしてこの時間を共に過ごせることが素晴らしいことだということも知っているから。
ただそれだけのことが願いであるのかと思うかもしれない。けれど、悟飯にとってはそれも重要な願いの一つだ。これだけのことでも幸せなことなのだ。
「たったそれだけのことでも、オレにとっては幸せなことだからな」
確かに人造人間を倒すことも大切だ。この世界が平和になることも望んでいる。それでも、それが叶うより何より大切なのは共に過ごせる時間。今でも叶っているけれどそれをこれからも続けたいということこそ願いである。
「トランクスもそう思わないか?」
同意を求められたトランクスは、すぐに「そうですね」と頷いた。言われてみれば悟飯の言うことも確かなのだ。一緒に居られるこの時間が長くいつまでも続けばいいと思ったことは今までだって何度かある。それも願いの一つであるというなら、トランクスにとってもこれは願いの一つである。
「その願いを叶え続けるためにも、この世界の平和は取り戻さないとな」
このまま何もしなくてもそれは叶うかもしれない。けれど、人造人間が居る限りは確実とは言い切れない。だからこそ、世界のためにも自分達のためにも平和は必要だ。これはきっと誰にとっても同じもの。
この世界の平和がイコールでこの地球上に生きる人の幸せと願いに繋がるとは限らない。けれど、おそらく殆どの人にとってのそれになるだろうということは間違いないだろう。
「そのためにもそろそろ修行を始めるか、トランクス」
「はい!」
一日でも早く強くなるため。より高みを目指すため。共に修行を続けていく日々。
人造人間を倒したい。そして平和を取り戻したい。そんな願いのために戦い続ける。
そして、これからも一緒に居たい。
その願いも叶えるために。この幸せな時間が続くように。
fin