届ける白き旅人
「トランクスは、サンタクロースっていると思う?」
夜。部屋に戻って過ごしている時だった。悟飯が突然そんな疑問を投げかけてきたのは。
何でサンタの話なんだろうと思いつつも答えないわけにもいかない。少し考えてからトランクスは適当な答えを見つけて返す。
「本とかの世界だけじゃないの? 現実にはいないと思いますけど」
サンタクロースを知らないわけではない。クリスマスの日にプレゼントを配るという赤い服を着て髭を生やした人のことだ。いい子であればサンタさんからプレゼントを貰える。次の日になって枕元にプレゼントがあれば、いい子だからとサンタさんがプレゼントをくれた証拠。その程度の知識くらいはある。
ただ、それが本当かどうかは定かではない。本ではそう書かれていても実際にはプレゼントを用意しているのは親。子供はサンタさんがくれたと信じているけれども、そのサンタさんは実は身近にいる親達がこっそり用意したものなのだ。本当にサンタクロースがやってきているわけではない。
「現実にいたらどうする?」
「どうって言われても…………」
本当にいるわけがないものについて聞かれてもそれこそ何と答えればいいのだろうか。もしも、本当にサンタクロースがこの世界にいたとしよう。けれど、サンタクロースがいたからといって何をするでもない。本当にいたとしてもいい子にしていたならプレゼントを貰うことが出来る。それだけであって他には何もない。別に本物のサンタクロースを見てみたいとも思わないのだから。
そんなことを考えているトランクスを見ながら隣で悟飯が小さく笑う。その様子に「なら、悟飯さんはどうなんですか?」と聞き返してみる。すると、求めた答えとは違ったけれど意外な答えが返ってきた。
「どうとかってわけじゃないけど、サンタクロースって本当にいるんだよ」
最初、何を言っているのか分からなかった。否、正確には分かったけれど信じられなかった。サンタクロースが本当にいるなんて聞いたことがない。嘘じゃないかと思っていると、それを見透かした悟飯が「本当だよ」ともう一度言った。
けど、サンタクロースは本当にいますといってすぐに信じられるわけではない。いくら悟飯が本当だと言ってもそれが事実かどうかは信じ難い。サンタクロースとはそういうものなのだ。
「悟飯さんは見たことあるの?」
いかにも疑っているように話すものだからつい笑ってしまう。「見たことはないけど」と答えれば「それならどうしてそんなことが言えるんですか」と返ってくる。そういう反応が返ってくるのも不思議ではない話だ。もし逆の立場だったとしたなら悟飯もきっと同じことを言っただろう。
「この世界には、サンタクロースが二百人足らずっていう少ない数だけどいるんだって。オレも本でそう読んだことがあるだけだけどね」
それがどの本でいつ読んだものかなんてことは覚えていない。けれど、その本によればサンタクロースはこの世界のどこかには確かに存在している。
数は百人はいるけれど二百人もいない。そのサンタクロースの仕事は世間で知られているように子供にプレゼントを配ることらしい。絵本にも出てくるようにトナカイにソリを引っ張ってもらって空を飛びながら回るなんていうのは事実とは思えないけれど、サンタクロースの存在は確かなもののようだ。
そう言われてもいまいち本当かは分からないような話だ。もしかしたらこの世界にはそのサンタクロースにプレゼントを貰った子供もいるのかもしれないけれど。
こんな話は本に載っていたとしても実際に遭遇しなければなかなか信じられないのではないだろうかとトランクスは思う。当の悟飯でさえ本当にそう思っているかは分からない。
「あまり信じられないですよ、いくら本にあっても」
「それでも信じた方がおもしろいだろ? 本当にサンタクロースがいるなんてさ」
「そう思わない?」と尋ねてみると「そうかもしれないですけど……」というやはり信じ切れてはいない様子ではあるものの頷いた。絶対にいないと思うよりその方が夢があるだろうといわれればそうだろう。これが真実なのかは分からないけれど、信じてみるのもいいのかもしれない。だから悟飯はこんな風に話しているのだろうかとふと思う。時々、そんな考えを持っていることがあるから今回もまたそれと同じなのかもしれない。
そこまで考えたところで今度はプレゼントの話に変わる。一度、夜の星空を見てから「じゃあ、もしそのサンタクロースにプレゼントを貰うなら何がいい?」という質問がやってくる。次から次へとどうしてサンタクロースに関係する質問ばかりなのだろうか、と思ったところでその理由が分かった。
「悟飯さん、それってもしかして今日がクリスマスイブだからですか?」
クリスマスイブの夜にサンタクロースはプレゼントを世界中の子供達に配る。翌日のクリスマスの日、そのプレゼントに子供は喜ぶ。そういった流れを思い浮かべながら聞いてみると、肯定するように悟飯は頷いた。
この国では、クリスマスは絵本などからの影響からかサンタクロースとプレゼントという印象がある。それもこの国だけで、本来ならキリストの誕生日などといわれている日だ。そんなことを言ったところでこの国でのクリスマスが変わることはないのだろうけれど。そのクリスマスの通りに次々と質問してくる悟飯は、今日のこのクリスマスというイベントを行おうという考えなのだろう。
「それで、プレゼントは何がいいんだ?」
もうトランクスが分かっているからだろう。もはやサンタクロースは関係なしに直接プレゼントは何がいいのかという問いに変わっている。クリスマスイブの夜になってからそれを聞いても何も出来ないのではないかとも思うのだが、とりあえずそこは気にしないでおくことにしよう。いくら悟飯と一緒にいつも修行をしたりと大人びていても、トランクスが子供であることに変わりはない。だから悟飯はこうして尋ねるのだろう。
何がいいかと言われてもすぐに何かを思いつくわけではないし、そこまで欲しい物があるわけではない。これがあればいいと思うようなくらいの物も特になく、プレゼントと言われても正直困ってしまう。そのまま「別に何もないよ」と答えれば「何でもいいんだぞ?」と言われてしまう。何かあっただろうかと思考を巡らせて、やっとのことで一つの答えを見つける。
「悟飯さんが一緒ならそれでいいです」
見つけた答え。そう伝えると悟飯はきょとんとした表情を見せた。それから優しく微笑んで「本当にオレでいいのか?」と聞き返されたのには「悟飯さんだからいいんです」とはっきり答えた。
それから「ありがとう」という温かな言葉が降ってきた。その温かさに包まれて、この冬の寒さなんてどこかに消えてしまったようだった。
クリスマスイブの夜。
大切な人と一緒にこの一時を。それが一番の贈り物。
空を見上げれば白き妖精が舞い降りていた。そんなクリスマスの日。
fin