ホワイトデーのお返し
チョコが欲しい。
そう何度も何度も頼んで貰ったバレンタインのチョコ。予想外の貰い方ではあったが、貰ってしまったのは事実でホワイトデーにはお返しをする約束をしたあの日。
あれから一ヶ月が経った。二月十四日のバレンタインの丁度一ヶ月後。それが三月十四日であり、世にいうホワイトデーという奴だ。バレンタインではあんなチョコの貰い方をしてホワイトデーのお返しでは見返してやりたいと悟天は思っていた。この一ヶ月の間、どうやってお返しをしようかとずっと考えていたのだ。
そして、やっと三月十四日のホワイトデー当日になった。
「で、バレンタインのお返しはどうするんだ?」
一ヶ月前の約束のことを悟天に尋ねる。それに悟天は「うーん……」と悩むような声を上げる。
この一ヶ月の間。どうしようかとずっと悩んでいた。悩んでいたのだけれども、どうすればトランクスが驚くようなお返しをすることが出来るのか。良い案がなかなか浮かばなかったのだ。色々と悩みながらも決まらないまま当日を迎えてしまったのである。
「結局何も用意してないのかよ」
どうせそんなことだろうと思ったけれど。ため息交じりにトランクスは言った。
別に悟天からのお返しを期待していたわけではない。何年もずっと一緒にいる相手だ。いくらバレンタインにお返しは渡せと言ってもそのお返しが本当に返ってくることは期待していなかった。もし何かお返しをしてくれるというのならそれはそれで嬉しいけれど、そういう気持ちがあっても難しいだろうなと思っていたのだ。
そんなトランクスの様子に悟天は「用意したよ!」とつい声を上げて言う。正直、何も言えないままというのが悔しいから言い返したようなものだ。けれど、そう言ってしまったものは言ってしまったのだ。トランクスは「へぇ」と悟天のことを見た。
「なら、何を用意したんだよ」
「それは…………」
言い返すだけ言い返してもその後が問題だ。何をと言われても用意していないものはどうしようもない。それに気付いているのか「別に無理しろとは言わねぇぜ」とトランクスは話す。ないのならないと言えばいい、そう思うのだ。
だからといって、ここで引き下がるのも嫌だ。何も用意していないけれどそれを今更やっぱり何もないなんて言えるわけがないし言いたくもない。悟天はそのまま「大丈夫だもん!」と強気の姿勢をとる。
「じゃあ、ちゃんと返せよ?」
悟天がどうするのかをトランクスは楽しそうに見ている。その様子に悟天はどうしようかと必死で考える。とにかく、何かバレンタインのお返しをすればいいのだ。最低限はそれが達成出来ればいいのだと思いながら頭をフル回転させる。
「どうするんだ?」
一人で考え続けている悟天にそう声を掛ける。必死で何かないかと考えて、こうなったら今ここで返せることはこれしかないと思うと意を決して行動に移した。
それは、バレンタインのお返しというそのままの行動。バレンタインの日に悟天がトランクスにされた、その行動をそのまま逆にしたものだった。
まさかホワイトデーのお返しをそんな形でされるとは思っていなかっただけに、トランクスは驚きながら悟天のことを見た。頬を赤く染めながら、恥ずかしさのあまり視線を逸らす。
「これで文句ないでしょっ!」
あのバレンタインと同じようにしっかりとホワイトデーのお返しをしたのだ。たまたまチョコを持っていたから、そこまでちゃんとお返しをしておいたのだ。もう他に文句を言うことはないだろう。そう思いながらトランクスのことを見た。
一方、トランクスは驚きながら悟天のことを見ていたが、面白そうに笑みを浮かべて「あぁ」と返した。それから、今度はトランクスの方から悟天にキスをした。ここでそんな行動をされるとは思っていなかっただけに悟天の顔は更に赤く染まる。
「いきなり何するのさ……!」
「基本は三倍返しっていうだろ? だからその分」
「そんなの知らないよ!!」
一体どこの誰がそんなことを言い出したのだろうか。分かるものなら誰かに聞いてみたいが、ここには悟天とトランクスの二人しかいない。それに、もし誰かに聞いたとしてもはっきりとした答えが返ってくるかなんて分かったものではないが。
悟天の言い分は全く気にせずにトランクスは「あと一回分、楽しみにしてるから」と小さく笑みを浮かべたまま言った。その言葉に頬を赤らめながら声を思いっきり発した。
「トランクスくんのバカッ!!」
基本が三倍なんて言葉は関係ない。そう思いながらも最初にバレンタインで催促してチョコをあんな形でとはいえ貰ったのは悟天の方。
ちゃんと三倍で返せと言われて結局思い切って三回目のキスを返した。嬉しそうなトランクスに、結局見返すことが出来なかったような気がした悟天。でも、二人の関係は変わらずに続いていく。
バレンタインデーにホワイトデー。
チョコを貰える楽しいイベントだけれど、来年はこんなことにならないように気をつけようと悟天は心の中でそっと思った。それでも、チョコを欲しいという気持ちは変わらずにきっとまた頼むのだろうけれど。
一年後のこのイベントは、二人にとってどんな日になるのだろうか。
fin