ザワザワと騒ぎ出す休み時間。所々で人が集まり会話をしている。その一箇所で男の子達が数人ほど集まって話をしていた。一人が言った言葉に対して、周りは良いという人もいれば嫌だなんて言っている人もいる。意見が分かれながらも笑ってそんな話をしていた。
楽しい時間というものはあっという間に過ぎるもの。話して笑っているうちに授業開始のチャイムの音が響き渡る。教師が教室に入ってくるとまた静かな空間が訪れた。
キミとボク、オレとオマエ
「アンタは、もし自分がもう一人いたらどう?」
学校から帰って来て、荷物を片付けたかと思ったらいきなり質問。適当な場所に座りながら答えを待つようにじっと見つめてくる視線とぶつかる。
「どうしたんだい? 急に」
「別に。クラスでそう話してる奴がいたから」
休み時間に集まっていた男の子達。その集団に混ざろうとは思わなかったが、そこからあまり席が離れていなかったためにそこでの会話がこちらまで聞こえてきたのだ。大して気にも留めてはいなかったが、こんな内容が聞こえてきて頭に残っていた。それで、それをそのまま質問してみたというわけだ。
唐突な質問の理由が分かり「そうなんだ」と頷く。聞こうとしていたわけでなくても気になることはあるだろう。それから続けるように「それで、アンタはどう思うのかと思って」と話した。
「そういうキミは、どうなんだ?」
「え、オレ?」
疑問系で聞き返してくるものだから肯定するように頷いた。それから暫く答えを考えて頭を回転させる。
クラスの男の子達がそれぞれどんな答えを出したかは聞こえていたから覚えている。覚えているけれど、その答えは自分が出そうとしている答えとは違うということは知っている。導き出す答えは、もっと別のもの。
見つけた答えに口を開く。目の前の彼のことを見ながら、ゆっくりと。
「オレは、自分がもう一人いようとオレはオレだと思う」
自分は自分だけであって他の誰でもない。そう言ってから付け加えるように「現に、オレとアンタだって随分違うからな」とトランクスは言った。言われた方の彼――未来から来たトランクスは「そうだね」と同意する。この時代のトランクスが言うように、二人は同一人物でありながらも性格は随分と違うのだ。
それも育った世界が違うのだから当然でもある。人とは、環境が違えばその性格も何も変わるものらしい。言われるだけで納得し難いような話だとしても実際にこうして会ってみれば一目瞭然で分かってしまう。同じ人間だとしてもこんなにも違うのだから自分は自分という答えに辿りつくというわけだ。
「オレもそう思うよ。たとえそれが、オレ自身と全く同じ境遇の人間だったとしても」
たとえ境遇が同じだとして、性格も同じような自分が目の前にいたとしても自分は自分。目の前の自分は同じ人間であり全く同じ人であって、それでもって違うのだ。どんなに同じ共通な部分があったとしても、本当に全部が全部同じわけではないのだから違うことぐらい分かっている。どれだけ自分と同じ人間がいたとしても自分は一人しかいないのだ。
「そうだよな。クラスの奴は良いとか悪いとか言ってたけど、そんなことは関係ないと思う。オレはオレなんだから」
もし自分がもう一人いたなら。一緒に遊べるから良いとか、同じものが好きだろうから喧嘩になって嫌だとか。そんな感じの話をしていたクラスメイト。おもしろいと思うとか色々言っていたのは知っている。
確かにそれが良いのか悪いのかという考え方もあるのかもしれない。でも、自分は自分なのだからその人が存在したとして、良いとも悪いとも言えない。そんなことは関係のない話なのだ。自分が自分自身である限りは。
「……まぁ、そう思うのもアンタと会ってるからかもしれないけど」
言いながら未来の自分のことを見る。
トランクスは、別に自分の意見が間違っているとは思わない。けれどもし、この未来から来ている自分に出会っていなかったら同じ答えを出したかは分からない。今のような答えがあるということは分かるだろう。それでもクラスメイトのような考え方を抱かないともいえないように思う。
そんなこの時代の自分に「どうだろう」と同じように考えてみて未来の自分は話す。それから「でも、間違ってはいないと思うけど」とこっちの自分と同じ答えを導き出した。
「オレはオレでキミはキミ。それが同じ自分自身だとしても変わらないんじゃないかな」
「結局はオレでしかないんだもんな。アンタもアンタでしかない」
この世界にたった一人。自分という人間は一人しかいない。他に本当に同じ人間なんて存在しない。
そんな答えを二人は知っている。それはこうして二人が出会ったからかもしれないし、出会わなくても分かっていた答えなのかもしれない。けれど、間違っていないはずの答えだ。
出された結論に漸くこの議題に終止符が打たれそうだ。真っ直ぐ自分と同じ姿のもう一人の自分の姿を見て小さく笑う。
「オレはアンタに会えたこと、悪いとは思わないぜ」
「オレもキミに会えて、良かったと思うよ」
時代の違う二人の出会い。普通ではあるはずのない偶然、奇跡というような出会いである。自分でありながら自分と全く同じ性格をしているわけではない。でもやっぱり、同じような考えを持つこともあるわけで。その逆の時だってないわけじゃない。
こうして巡り会って一緒の時を過ごせる。それがどれだけ素敵なことかを知っている。出会えたことで初めて知ったこともある。たくさんのことがこの出会いにはあった。
この出会いは必要なものだったと思える。少なくとも、二人は出会えたことを良かったと思っている。出会うことがなかったなら今のこの時間だってないのだ。それは嫌だと思うくらいにこの出会いは在るべきものだったと思う。
自分は自分でしかない。他の誰でもない。
オレはオレ、お前はお前。ボクはボク、キミはキミ。
同じようで違っている。自分自身は一人しかいない。
それを教えてくれたこの出会いに感謝する。
だって、ボク等はこの世界で出会ってたくさんのことを知った。
彼は、大切な人である。自分のことを分かってくれる、誰よりも大切な人。
fin