朝。太陽の光が窓から入ってくる。外では鳥達が鳴いている。
 ああ、もう朝になるのか。
 そう思って目を開ける。眩しい太陽に目を細め、時計を確認する。今何時だろうかと思って手にした時計。そこに表示されている時刻。一瞬、自分が見間違えたのだと思った。もう一度改めて見直してみて、今の時刻を確認する。


「えー! 嘘でしょー!?」


 パオズ山の朝は今日も騒がしく一日の始まりを迎えた。




朝食のパン





 時計が示していた時刻は、起きるはずだった時間をとっくに過ぎていた。こんな時間であるとは思いもせず、時計が壊れたのかとも思った。けれど、時計はしっかりと間違うことなく時を刻んでいた。よくよく見てみると、どうやら昨日の夜に目覚ましのセットを忘れていたらしい。それでは時計も鳴らないわけだ。
 悟天は慌てて飛び起きて急いで学校へ行く支度をする。ドタバタしている様子に気づいたチチが起きたのかと尋ねれば「うん」とだけ答える。それからなんで起こしてくれなかったのかと聞いてみたが、どうやら悟天は何度起こしても起きなかったらしい。これはもう完全に非は自分にあるようだ。諦めて支度を整えると鞄を持つ。


「朝食はどうするだ?」

「朝食!? 食べてる時間なんてないよ……!」


 本当は食べたいけれどこれも自業自得。学校に遅刻をしては元も子もない。せめてパンくらい食べるように言われ、差し出されたパンを受け取る。たった一枚だけとはいえ、それを食べる時間さえ今は惜しかった。行儀が悪いとは思いつつもパンを咥えたまま家を出る。
 ここから学校までは何時間もかかる距離だ。武空術を使っていつもよりも早い速度を出して飛ぶ。人に見られると不味いが、幸いこの辺りには人が少ないからその心配もない。学校の近くまで行ったらそうもいかないがこの辺りで飛ばしていけばなんとかなるだろう。
 いつも以上のスピードを出しながら飛んでいると突然頭に衝撃を感じた。あまりの痛みに頭を抱えていると、向こうの方から声を掛けてきた。


「悟天、お前、気をつけろよ」


 聞き覚えのある声。そう思って顔を上げれば、よく見知った姿が目に入った。


「あ、トランクス君」

「あ、じゃねぇだろうが!」


 普通に話をしてくる悟天にトランクスは少し怒った風にそう返した。
 ふと、そういえばどうしてここにトランクスがいるのだろうかと疑問に思う。トランクスが住んでいるのは西の都。ここからはずっと離れた場所にある。それなのに、こんなところにいるのはおかしいのではないだろうか。そう思って「そういえば、何でトランクス君がこんなところにいるの?」と言うと、少しの間も空けずにすぐに答えは返ってきた。


「お前がなかなか来ないから様子を見に来たやったんだろ」


 それはやっぱり少し怒っているようで、悟天のことを睨むようにしながら言われた。誰でも、遅いからと様子を見に行って、そこでその相手とぶつかってはいい気はしないだろう。ただでさえ、いつも約束している時間から何十分も経っているというのに。トランクスが怒るのも無理はない。
 それを聞いて、苦笑いをしながら「そうだったんだ」と話す。その様子には「あのな……」とトランクスは呆れている。人は心配していたというのに心配するだけ損だったのではないかとさえ思ってしまう。


「つーか、朝食を食う時間もなかったのかよ」


 悟天が咥えているパンを見ながら一言。普通なら今そこに持っているはずのない物を見て言った。それには「あー」と言いながら気まずそうに悟天は口を開いた。


「それがさ、目覚ましをセットし忘れちゃって……。そしたらちょっと寝坊しちゃってさ」

「ちょっとっているレベルじゃないと思うんだけど」


 これを少しとは言えないだろう。そう思いつつ、悟天らしいけどなんてトランクスは言っている。それを聞いて「そう?」なんて悟天が言ってくるが「直せって言ってるんだよ」と付け加える。悟天らしいとはいえ、こんなことをこれから先も何度もやられるなんてたまったものではない。


「それより、早く学校行かないとマジで遅刻」

「えっ、嘘!?」

「嘘言ったってしょうがないだろ。さっさと行くぞ」


 そう言って先に学校へ向かって飛び始めるトランクスを「待ってよ!」と言いながら悟天も慌てて追いかける。このペースで学校へ向かえばギリギリ遅刻は免れるだろう。遅刻をしないためにも二人並んで急いで学校へと向かう。
 途中、散々文句などを言われたが、それも悟天が悪いのだからおとなしく聞いていた。結局は互いに性格の分かりきっている幼馴染だから「次は絶対するなよ」と念を押されて話は終了。真っ直ぐに学校の近くまで飛んで行き、人目につかないところで降りる。そこからは走りながら学校に向かった。

 キーンコーンカーンコーン……。
 始まりのチャイム。その音とほぼ同時に到着するという遅刻ギリギリの事態になりながらもなんといか二人は間に合ったようだ。

 もうこんな思いは二度としたくない。そう思ったからこんなことはもうないだろう。
 ドタバタ始まった一日。それは、始まりから終わりまで何かと大変だったとか。それについてはまた別のお話で。










fin