学校のチャイムが鳴り響く。この合図と同時に号令がかかり、生徒達は次々に教室を飛び出していく。学校の終わりを示す最後のチャイムだ。「じゃぁな」「また明日」と一言声を掛けて教室を後にするクラスメイト達。鞄と必要最低限のものだけを持って、友達に挨拶をしながら悟天も教室を出た。
 正門のところまでやってきて、いつも一緒に登下校をしている幼馴染の姿を見つける。それから二人一緒に帰り道を歩き始めた。








「それでね、その授業の時に」


 いつも一緒に登下校をしている幼馴染のトランクスと悟天。いつもと変わらない会話をしながら今朝来た道を通って帰る。何の変哲もない学校の帰り道。悟天が話しているのをトランクスは聞いている。いつも通りのことだ。
 ただ、今日はいつもと少しだけ違うことがある。それほど大した違いではなく、何の問題もないといえばそうなのだ。いつもとちょっと違うだけのこと。


「へぇ、そうなのか。それで、ノートもちゃんと取っているのか?」

「取ったよ! 今日はちゃんと」

「今日は、ってことはいつもはどうなんだ?」

「と、取ってるよ。そんな心配しなくても大丈夫だよ、兄ちゃん」


 今日は、悟天の兄である悟飯も一緒なのだ。
 同じ高校に通っているのであれば会うのも不思議ではない。いつも決まって一緒に行く二人とは違って毎回一緒というわけではないけれども、それでも時々登下校の時に会って一緒になるのだ。
 別に何の問題もないようなことだ。悟天からすれば幼馴染に兄という自分の好きな人たちと帰れるのだから帰り道も楽しいことだろう。それも悟天ならばという話なのだが。


「でもお前、この前のテストは悪かっただろ」

「そういえば、お母さんにも怒られてたな。本当に大丈夫なのか?」

「う……大丈夫だよ。何も二人してテストのことばっか言わなくても…………」

「それはお前が悪い」


 この前のテストというのは数週間前に行われた中間テストのことだ。悟天もテストに向けて勉強をしなかったわけではなかった。なかったのだけれど、テストの結果はあまりよくないものだった。その結果はトランクスや悟飯、両親にも勿論知られていて、あの時は母親にちゃんと勉強をしなさいと怒られた。
 あまりいい思い出ではないがテストというのは重要なものだ。怒られても仕方がないことであり、勉強をしたといっても点を取れなかったのであればしょうがない。


「だって、難しかったんだよ!」

「ちゃんと勉強したのか?」

「したもん! ボクだってテストだからと思って」


 疑われてもおかしくないような点数だったのかといわれてもはっきりとはいえないが、あまりよくない点数であったことは事実だ。それでも勉強をしたのもまた事実なのだ。


「それなら、次のテストはオレが教えてやろうか?」

「本当!?」

「またそんな点を取ったら困るだろ……」

「ありがとう、トランクスくん!」


 そう言ってトランクスに悟天は飛びついた。いくら突然勢いよく飛びつかれたとしてもサイヤ人を血を引いている身だ。少しくらいのことならば簡単に受け止められるというもの。急に飛びついてきた悟天をトランクスは受け止めてやる。
 だが、そんな様子を気にもせずに悟飯は弟に別の提案を持ちかける。


「でも悟天、それじゃあトランクスに悪いだろ? トランクスだってテスト勉強はしなくちゃいけないんだから」

「オレなら別に大丈夫ですけど」

「そうはいっても、自分の分もあるのに大変だろ。だから兄ちゃんが教えてあげるよ」


 新しい悟飯の提案を聞いて悟天は「兄ちゃんに?」と疑問を浮かべている。その言葉に頷きながら悟飯は言葉を続けた。


「同じ家に住んでるからいつでも教えられるだろ? その方がいいと思わないか?」

「だけど、それなら兄ちゃんだって勉強が出来なくなるんじゃないの?」

「それは大丈夫だよ。悟天に教えながら一緒に勉強すればいいからね。何か必要なものがあっても同じ家なんだからすぐに取ってこれるだろ」


 言われてみれば確かにそうかもしれない。兄の悟飯も幼馴染のトランクスも、どちらも頭が良く成績はとても良い。勉強を教えながら自分の勉強をするのもそれほど大変なことではないだろう。
 それなら同じ家に住んでいる悟飯に教わる方が移動する必要もなければいつでも勉強を教えてもらうことが出来る。そう考えると悟飯に教えてもらう方がいいのかもしれないと悟天は考えた。
 悟天がそう考えている隣で、悟飯とトランクスの二人はなにやら話をしている。


「悟飯さんだって勉強は大変でしょう? オレなんかよりもきっと難しいことをやっているんでしょうし」

「気にすることはないよ。勉強が大変なのはキミもだろ?」

「オレなら今までだって悟天に勉強教えてますから。いつものことなんで大丈夫です」

「いつも悟天のことを任せてばかりでは悪いからたまにはボクが教えるよ」


 喧嘩とまではいかないが言い争いをしている二人。その理由は悟天にあったりする。どちらが悟天に勉強を教えるか、もとい、どちらが悟天と一緒にその時間を過ごすかという話なのだ。
 どうしてそんな話になるかといえば、簡単にいえば二人共悟天のことが好きなのだ。小さい頃からずっと一緒の幼馴染で、隣にいることが当たり前になっているトランクス。生まれた時から面倒を見て、ここまで一緒に育ってきた悟飯。どちらも悟天のことが好きで悟天のことが大切なのだ。だから悟天のことで譲ることは出来ない。


「そんな気遣いなんて必要ないですよ。本当、大丈夫ですから」

「悟天が世話になりっぱなりじゃ悪いからな。いいんだぞ」


 一歩も引かない状態で話は進んでいく。
 そんな二人の隣で、悟天は何をそんなに言い争う必要があるのだろうかと思いながら二人の話を聞いていた。どちらも引かずに自分が悟天に勉強を教えると主張をしている。その意見を聞きながら、何も言わずに見ていた悟天も会話に加わる。


「ボクはどっちでもいいよ」

「うーん……。じゃあ、悟天はどっちがいいんだ?」

「そうだ、お前はどっちがいいんだよ。どっちでもいいっていうのはナシだからな」

「えー……」


 そんな風に言われても困るのだが、どう答えればいいのかと悟天は頭を回転させる。そしてやっと出した答えは、いかにも悟天らしいものだった。


「だったら、二人に教えてもらう」

「二人にって、どんな風に?」

「順番にとか、一緒にとか」


 トランクスのことも悟飯のことも好きな悟天らしい答えである。その答えを聞いて、悟天がこう言ったのにも関わらずどちらかにしろと言えるわけでもなく。一度相手の様子を見ながら悟天の意見に賛成することにする。


「なら、一緒っていうのは人数も増えるし、自分の勉強も充実出来るように順番にしようか」

「そうですね。それが一番効率もよさそうですからね」

「うん! 次のテストは良い点が取れるように頑張るよ!」


 そう意気込む悟天を見ながら心の中では悟天は渡さないと思っている悟飯にトランクス。悟天の知らないところで繰り広げられている戦い。それは今まで戦ってきたような強敵と戦うよりも遥かに厳しい戦いとなるのかもしれない。
 当の本人はそんな様子には全く気づいていない。けれど、この戦いは決着がつくまでコッソリと続けられていくことだろう。

 ただ一つ。悟天が傍で笑っていてくれること。
 それを一番に願い、一緒の時を刻めることもまた、願おう。










fin