09年5月7日〜5月10日ログ
5/7(悟チチの日) 5/8(悟飯の日) 5/9(悟空の日) 5/10(悟天の日)






***5月7日(悟チチの日)***


「やっと寝てくれただ」


 部屋のドアをそっと開けてチチは小さく言った。そのチチの声を聞くなり、悟空は寝転んでいた体をチチの方に向けた。


「意外と時間かかったな」

「しょうがねぇだ。悟天はまだ小さいんだからな」


 今日はお母さんと一緒に寝たい。
 そう言った孫家の次男の願いをチチはすんなりと受け入れた。それじゃあ一緒に寝ようと言って布団に入ったのは数十分も前のこと。今までずっとチチは悟天の隣で眠りにつく様子を見ていた。そしてさっき、漸く夢の世界に入っていったのだ。


「そうだけどよ……」

「何か不満でもあるだか、悟空さ?」

「別に不満なんてねぇぞ」


 口ではそう言っているがその声は不満がないようには聞こえない。なんといえばいいだろうか。例えるのなら、小さい子供がやりたいことを出来ずに終わらされてしまって拗ねているような。そんなような感じだ。


「もしかして悟空さ、悟天にヤキモチを焼いただか?」

「そ、そんなんじゃねぇぞ!」

「本当け?」

「当たり前じゃねぇか。悟天は小さいんだから当然だろ」


 悟天はまだ七歳。母親と一緒に寝たいと話すのも無理のない年頃だ。それは誰から見ても分かることだろう。けれど、悟空の言葉と声とではなんとなくイコールで結ばれていないように聞こえる。その理由はおそらくチチが言った通りなのだろう。


「なら、オラは悟天と一緒にいてやることにするだ」

「チチ!?」

「七歳の子供なんだから、それくらいしたっていいべ?」

「そうかもしれねぇけどさ……」

「言いたいことでもあるだか?」

「オラだって、たまにはチチと一緒に過ごしたいぞ」


 やっと出てきた本音。小さな子供ならすぐに出てくるであろう言葉。けれど、大人になるとなかなか言えない言葉というヤツだ。
 悟空の気持ちを聞いてチチは小さく笑う。それから「最初からそう言えばいいのに」と話した。


「たまにはって言うけど、いつも修行しに行っちまうのは悟空さの方だ」

「それはオラも分かってるけどさ。修行もしてぇし、チチとも過ごす時間が欲しいんだからしょうがねぇじゃねぇか」

「全く、わがままだな。悟空さは」


 そう言いながらそっと近くに寄り添う。お互いの体温をすぐ傍に感じる。大切な人と一緒にいると嬉しい気持ちに安心する気持ち。たくさんの気持ちが交差しあう。
 家族はみんな大切だ。それは子供も妻も夫も同じくらいに。みんなみんな、同じくらい大切で大好きなのだ。

 だからたまには。夫婦で一緒の時を過ごそう。










fin










***5月8日(悟飯の日)***


「悟飯さん、悟飯さん!」


 名前を呼ぶ声がする。それも段々大きくなってくる。聞き慣れた声だ。


「悟飯さんってば!!」


 強く、はっきりと。しっかりと耳に届いた声にゆっくり目を開ける。
 明るい光が目に入ってきたかと思うと続いてこちらを覗いてくる視線とぶつかった。さっきからずっと自分のことを呼んでいた少年の姿を捉える。


「トランクス? どうしたんだ?」


 起きたばかりというのはすぐに頭が回らないもの。それでもしもいきなり戦闘になったらどうするのか。その時はすぐに頭も動くだろう。自然と体が反応するというやつだ。今はそういう状況ではないから慌てて起きようとする必要もないというだけの話だ。
 ゆっくりと起き上がる悟飯を見ながらトランクスは溜め息を吐き、それから「どうしたんだ、じゃないよ」と呆れ顔で言っている。


「悟飯さん、今何時だと思ってるの?」

「太陽が昇ってるから日中だろうけど……何時なんだ?」

「もう朝通り越して昼になっちゃうよ」


 いつの間にそんなに時間が流れたのだろうか。普段ならばこんな時間まで寝ていることなどないというのに。そんなに体が疲れていたとでもいうのだろうか。そんなことはないよなとは思いつつも、太陽が高い所にある様子からしてそれほどの時が流れてしまったのも事実なのだろう。
 そんな悟飯の内心に気づいているのか「珍しいね」とトランクスは悟飯のことを見た。「たまにはな」と言えばトランクスもすぐに納得してくれる。


「ねぇ、悟飯さん。今日が何の日か、分かりますか?」


 突然そんなことを尋ねられる。トランクスは悟飯の答えをじっと待っている。何かあっただろうか、と思いながら悟飯は思考を巡らせる。
 そういえば今日は何日だっただろうか。そこから始まり、とりあえず今日が五月の八日であることまではすぐに理解した。問題はそこからだ。この今日という日に何かあっただろうか。色々と考えてみるけれどなかなか答えは見つからない。
 質問の答えを探しているが上手く見つからないらしい様子に、トランクスは口を開いた。


「やっぱり、分からないですか?」

「ごめん、何の日なんだい?」


 一人で考えても答えは見つかりそうにない。それならばトランクスに聞いた方が早いだろう。何か大切なことを忘れているのだろうかと思いつつ、それでも答えが見つからないのなら教えてもらう方がいいだろうという結論だ。
 悟飯の言葉を聞いてトランクスはふっと微笑んだ。それから、その答えを口にした。


「今日は悟飯さんの誕生日ですよ」


 言われてきょとんとする。
 誕生日。そうか、今日。五月八日は自分の誕生日だったか。そのことをトランクスの言葉で漸く思い出した。まだ自分が小さくて世の中が今のような世界になるよりも前までは、毎年恒例のようにして誕生日を祝われていた。けれど、世界が一転してこの世の中を生きていくうちに自分の誕生日なんて数えることもしなくなっていた。
 すっかり忘れていたというその姿を見て「母さんもきっと忘れてると思うって言ってたよ」とトランクスは笑った。どうやら忘れていたのは悟飯だけで、トランクスもブルマもこの日のことを知っていたようだ。


「よく覚えてたな」

「当たり前ですよ。だって、今日は悟飯さんの大切な日でしょ?」


 この世に命を授かった、この世界に生まれてきた日。
 それほどまでに大切な日を忘れるはずがない、とトランクスは話した。今ここにいるのは、今日という日に生まれてきたからだと。それが大切でなくてなんだというのだろうかと。言葉にはされなかったが目に見えない形でそう伝えられた。
 目の前のこの子の優しさに、忘れていた誕生日に温かな光が灯る。自然と温まる心に世界は変わっても変わらない人の優しさに触れた気がした。


「誕生日おめでとうございます」


 そう言って笑ったトランクスに悟飯も「ありがとう」と言って微笑む。
 それから今日はブルマが料理をたくさん作ってくれたこと。トランクスが一緒に行きたい場所があること。他にもたくさん、今日やりたいことを話してくれた。
 悟飯はその言葉の一つ一つをしっかりと聞いていた。こうして誕生日を祝ってもらえる、祝ってくれる人がいる温かさに感謝をしながら今日というこの日に生まれてこれたことに感謝をして。


 誕生日おめでとう。
 その言葉が伝える温かさに幸せを感じて。










fin










***5月9日(悟空の日)***


「修行もいいけどさ、一人でずっとやってるのもつまらねぇと思わねぇ?」

「何が言いたい」

「いや、だからさ。たまには一緒に修行とかやらねぇか?」

「誰が貴様なんかと一緒に修行をするか」

「そういうなよ。一人よりも二人の方がいいだろ?」

「オレの目標はカカロット、貴様を倒すことだ」

「それは知ってるけどよ。たまにはいいじゃねぇか」

「貴様がよくてもオレはよくない」

「硬いこと言うなよ。オラとおめぇの仲じゃねぇか」

「よくないものはよくない」

「何もフュージョンしねぇか、なんて言ってねぇんだしよ」

「そんなのもってのほかだ」

「だったらいいだろ? たまには二人で組み手とかするのもさ」

「自分の息子とやればいいだろ」

「そうだけどさ……。ベジータとやるのもいいかと思って」

「貴様の都合になど付き合ってられるか」

「いいじゃねぇか。それとも何か問題でもあるんか?」

「オレは貴様を倒すために修行をしているんだ」

「一緒に修行すれば、組み手つってもオラと戦うことに変わらねぇと思うぞ?」

「オレが言いたいのは本気で勝負をするという話だ」

「本気は本気としてさ、組み手っつーのも悪くないと思うぞ」

「………………」

「なぁ、ベジータ」

「…………今日だけだからな」

「サンキュー、ベジータ! じゃあ早速やろうぜ」

「言っとくが、組み手といっても手加減はしないぞ」

「分かってるって。オラだって手加減なんてするつもりねぇしな」

「始めるぞ」

「おう!」










fin










***5月10日(悟天の日)***


「おい、悟天」

「なぁに?トランクスくん」

「ほら」


 そう言ってトランクスは悟天に小さな箱を渡した。それを悟天は嬉しそうに受け取る。それから満面の笑みを浮かべてお礼を言った。


「ありがとう」

「どういたしまして」

「開けてもいい?」


 了解の返事を貰うと、悟天はゆっくりと丁寧に包装された箱を開ける。中に入っていた物を見て「わぁ」と声を上げた。それから手に取って近くで見る。


「誕生石、なんだってさ」

「たんじょうせき?」

「お前の誕生月の」

「へぇー、そうなんだ」


 静かに上に持ち上げ光に照らす。キラキラ輝く誕生石の色に照らされる。思わず「キレイだね」と口にした。


「ありがとう、トランクスくん」

「気に入ったか?」

「うん! 凄く気に入ったよ」

「なら良かった」

「誕生日、覚えててくれたんだね」

「まぁな。誕生日っていうのは、特別な日だからな」

「特別な日、か……」

「そうだろ? お前がこの世に生まれてきてくれた日なんだから」


 そう言いながらトランクスは真っ直ぐに悟天を見つめた。それから優しく微笑んで、今日一番伝えたかった言葉を伝える。


「誕生日おめでとう、悟天」


 そして、生まれてきてくれてありがとう。
 心の中でもう一つのお祝いの言葉を贈る。トランクスの言葉に悟天はもう一度「ありがとう」と言って笑った。



 キミが生まれてきてくれた大切な日。
 それはボクにとっても大切な日。

 だから、一緒に祝おう。

 誕生日おめでとう。
 生まれてきてくれたことに感謝して。










fin