この青く広い空。手を伸ばしても届かない。終わりはどこかと探しても見つからない。ずっと、長く広く続く空。
 青色の世界はどこまでも終わることを知らない。








「おい」


 静かな空間で誰かに呼び掛ける声がする。周りには自分達以外には誰もいない。唯一聞こえてくるのは風の音と風に揺れる木々の音。
 静かな空間にたった二人。二人だけが存在していた。


「聞いてるか」


 さっきよりも強い声で呼び掛ける。それでも相手からの反応はない。相変わらず聞こえてくるのは自然が奏でる音だけ。  全くといってもいいほどに反応を示さない相手に、今度はもっと強く呼び掛ける。


「おい、悟天!」


 怒鳴るように言えば、やっと少しの動きを見せた。それでも起きる気配がないのだから今度こそはっきりと声を上げた。


「いつまで寝てるんだよ!」


 さっきからずっと、この木の下で寝ている幼馴染みに怒鳴る。全く、コイツはいつまで寝るつもりなのだろうか。先程声に出した言葉を心の中でも思う。
 そんなトランクスの言葉に悟天は「だって眠いんだもん」とだけ言ってまだ寝たいと態度で示す。やはり起きそうもないのを確認してトランクスは一つ溜め息をついた。


「そのまま寝てたら夜になるぞ」

「ならないよ。それまでには起きるもん」

「本当かよ。お前、ずっと寝てるんじゃないのか?」

「そんなことないってば」


 寝たいと言いつつも返事はしっかりと返す悟天。寝たいというのは本当なのだろうけれど、今はそれをしようとはしていないようだ。それもトランクスと話している時間が大事だと思っているからなのだろう。


「ったく、結局は寝るんだろ? 一体いつまで寝るつもりなんだよ」


 悟天は朝からずっとこの木の下でのんびりと休んでいる。今はもうお昼も過ぎて二時になるというところ。昼食を食べに家に帰ることもなく過ごしているほどだ。いつからここにいるのかをトランクスが詳しく知っているわけではないのだが、少し前に来た彼でも随分と前から寝ているだろうことは予想出来る。


「休日なんだし、たまにはいいと思わない?」

「思わないな。もっと別の過ごし方の方がいいと思う」

「トランクスくんって意外と真面目だもんね」


 意外とって何だよとトランクスが言えば、別にと悟天は返す。本当のところ、彼が勉強にもしっかり取り組んだり学校のことにも真面目であることは知っている。
 でも、小さい頃はよく一緒に遊んでいた友達なのだ。ちょっとした悪いことを思いついてやったこともある。それで意外とつけてみただけのこと。


「でもさ、トランクスくん。そう言いながらもボクの所にいてくれるよね?」

「休みの日じゃないとゆっくり会えないからな。お前は寝ようとしてるけど」


 お互いに学校もあるためにゆっくり会うことが出来るのは休みの日くらいなのだ。その時間を二人で過ごすためにトランクスは悟天の元まで来ている。
 その一方で悟天は寝たいと話しているのだ。そう言いながらもトランクスと話す方に夢中で寝ることなどそっちのけになっているが。そもそもトランクスが来た時点で寝る気などなくなってしまっているのだろう。


「ゴメン。だって一人でいてもつまらなかったから」

「ならいい加減起きろよ」


 そんな風に話して悟天もやっと体を起こす。きっと、悟天が寝ようとしていなかったのをトランクスも気付いていたのだろう。これだけ長い付き合いをしていれば言葉にしなくても分かってしまうのだ。
 どちらかが、ではなくどちらも。
 二人が二人共、この時間を大切にしたいと思っているのだろう。この時間が二人で過ごせる唯一の大切な時間なのだから。


 ああ、このまま。
 時間が止まってしまえばいいのに。


 そう願ったのはこれもまたどちらだっただろうか。その答えはこの青い空の中に。










fin