「トランクスくん!」


 いきなり家にやってきた幼馴染に、玄関を開けてやれば凄い勢いで声を発した。今日は一体どうしたんだと思っていると、トランクスが聞くよりも先に悟天の方が口を開く。


「あのね、ボク受かったんだよ!」

「受かったって、何に?」

「高校! 話したでしょ!」


 言われてそうだったと思い出す。別に忘れていたわけではない。けれど、急に受かったと言われて何のことだかすぐに結びつかなかったのだ。悟天が今年は中学三年で受験のある年だということは知っている。勉強をいつもの何倍も頑張って、試験を受けに行ったという話しは記憶に新しい。
 この様子からして受験結果は今日発表だったらしい。それを見てから直接トランクスの元に来たのだろう。そんなことは考えなくても分かる。こんな勢いで報告をしに来る様子を見れば、すぐにここに来たのは間違いないだろう。


「受かったのか。よかったな」


 その言葉が嬉しくて悟天は笑顔で「うん!」と言った。高校受験のために必死で勉強しただけのことはあったというものだ。受験の時だけでは仕方がないのだが、とりあえずは合格したのだからよかった。
 合格発表の今日、自分が合格なのか不合格なのかを見るときは緊張していて心臓の音が大きく聞こえた。合格できたのか、それとも駄目だったのか。合格していて欲しいと思いながら自分の番号を探して、見つけた時は言葉に表せないくらい嬉しかった。その嬉しさを胸に、トランクスの元まで報告にやってきたのだ。そこで「よかったな」と言ってもらえて悟天はまた嬉しくなる。


「ボク、高校に受かるようにすっごく頑張ったんだよ」

「知ってるよ。大変だって言いながら勉強を頑張ってたんだよな」


 高校に入学するためには試験に合格しなければならない。面接は勉強面についてはあまり聞かれることもないからとりあえず問題はないだろうということになった。けれど、問題は面接ではなく筆記試験の方だった。
 成績があまり良いともいえないような位置である悟天にとって筆記試験は高校受験の最大の難関だった。兄の悟飯に勉強を教わりながら受験に向けて努力を続けてきた。覚えられない、分からないと弱音を吐いたりもしたけれど、この高校に合格したいという思いが強かったからこそ頑張ってこれたのだ。


「これでトランクスくんとまた同じ学校に通えるんだよね!」


 悟天がこんなにも頑張ってこの高校に入りたかったのは、トランクスが進学した高校だったからだ。義務教育である中学校は受験もせずに上がったために同じだった。
 けれど、高校は義務教育ではなくなる。自分で高校を選んで受験をするのならトランクスと同じ学校がいいと悟天は最初から決めていた。そのためには勉強をしなければどうやっても難しかった。

 トランクスの通っている学校は特別にレベルが高いわけではない。高校受験の時、もっと上の学校も狙えると言われたがそれを無視してこの高校に入学した。それも来年になれば悟天が受験をすることを知っていたから。レベルの高い学校を狙うよりも悟天と同じ高校に入学したいと思って特別にレベルが高い学校を選ばずに普通の高校に進学したのだ。
 それでも悟天の成績では簡単に合格できるレベルではなく、頑張って漸く合格することができた。これが嬉しくないわけがない。


「そうだな。一緒の学校だからな」

「うん! そのためにボクは頑張ったんだもん」


 お互い、同じ高校に行きたいと思っていた。そのためには、いくらレベルの上の学校に行けるとしても行くわけにはいかなかった。トランクスは大丈夫でも悟天にとっては大変だろうということが分かっていたからだ。だからトランクスは普通の高校に先に進学して、一年後に悟天がこの高校に進学をするのを待っていた。
 そのことを悟天も知っていた。トランクスにどこの高校に進学するのかと尋ねた時にそう答えられたから。それからその高校に行こうと決めて中学三年の一年を過ごしてきた。落ちるかもしれないということは考えずに、ただこの学校に受かるんだという思いを持っていた。その思いもあってこの高校に合格した。
 これで四月からまた同じ学校に二人で通うことが出来る。そのために努力してきたのだ。四月になれば一緒の学校に通えるという事実は二人にとって嬉しいことだ。


「悟天にしてはよくやったな」

「どういう意味だよ」


 そんなことを言いながら笑い合う。この一年の苦労もこれで全て報われるというもの。こんなにも努力したからこそ、今のこの大切な時間に繋がっているのだ。あの努力をしなければ、この時間はないものだっただろう。努力は報われるとはこういうことなのだろう。
 もう受験も終わって残りの中学生活は特に問題も起こさずに送れば高校へ進学できる。問題なんて起こそうと思わなければ起こせるものではないのだから大丈夫だろう。第一に合格が取り消しになるようなことをしようとは思わない。あと少しの中学生活に終わりを告げれば、次は高校生活の幕開けが待っている。悟天にとってはそれが楽しみで仕方がない。


「トランクスくん、ボクが高校生になったらお祝いしてくれる?」

「お祝い? それって家族でするんじゃないのかよ」


 家族でお祝いもきっとするのだろう。チチがたくさんの料理を作って、その食卓を家族みんなで囲んで。どこかに出掛けるよりも家でみんなとお祝いするのが一番いいだろうという考えでのことだ。外食も悪いわけではないけれども、やっぱりこの方が合っているというものでもある。
 そんな家族でのお祝いも嫌なわけではない。むしろ、それも有難いことであり嬉しいことだ。でも、悟天は家族に祝ってもらうだけではなくトランクスにも何か祝って欲しいと思ったのだ。それでこんなことを尋ねている。


「お母さんやお父さんもしてくれるだろうけど、トランクスくんにもして欲しい」

「欲張りだな、悟天」

「ちょっとくらい、いいじゃん」


 いつもそう言ってるわけではないのだから、と悟天は言いたいのだろう。そんなことをいつも言われてもそれは困ることだ。けれど、高校に進学するのには受験という難問を超えたのだ。そのお祝いをして欲しいと言ってみても罰なんて当たらないだろう。
 悟天の言葉にどうしようかとトランクスは考える。家族だけではなく、自分にもして欲しいというあたりは悟天らしいななんて思ったりする。元々、何か少しくらいは祝ってやろうかと思っていたところだ。悟天からそう言ってきたのならそれで行動に移すことにしよう。


「分かったよ。じゃあ、合格祝いに何かやるから出掛けるぞ」

「本当!? ありがとう、トランクスくん!」


 そう話して家を出るトランクスの後を悟天が追い掛ける。二人で並んで歩きながら街中を見て歩く。そんな時間が二人にとっては大切で幸せな時間だった。

 あと少し。悟天が高校に入学したらまた二人で一緒に学校に通う。
 同じ学校で、同じ時を過ごそう。










fin