アナタは知っていますか?
この空がどこまでも繋がっていて終わりがないこと。海は広く澄んでいること。ボク達の周りにはたくさんの自然が溢れていること。
そして、ボクのこの気持ちを。
この気持ちをアナタに
「何してるんですか?」
誰もいない部屋に一人。何をするわけでもなくそこに座っている悟飯に声を掛ける。
その声に悟飯が「トランクスか」と振り向いた。部屋の入り口に立ってないで入ってくるように言われて部屋に入る。といっても、ここは元々トランクスの部屋なのだが。自分の家にはあまり帰らずに悟飯はトランクスの家に来ることが多い。どうやら今日もそれのようだ。
「トランクスが戻ってくるのを待ってたんだ」
言われて今日は何かあっただろうかと考える。何もなくてもこの人が家にやって来ることは知っているけれど、何かあったなら悪いと思って確認するように考えるが特に思い当たるようなことはない。一言「そうですか」と返してからトランクスは悟飯の隣までやってくる。
「いつから来てたんですか?」
「少し前だったかな」
「呼びに来ればいいじゃないですか。オレがどこにいたかは分かるでしょう?」
別に気を消していたわけではないのだ。トランクスがどこにいるかなど容易に分かるはずだ。部屋で待っていなくても呼びにさえ来てくれればいいのにと思うけれど、当の本人は「悪いだろ」と話している。何か重要なことをしていたわけでもないから大丈夫なんだけど、というのはトランクスの心の中にしまっておく。言ったところでどんな答えが返ってくるかは想像が出来る。
少し前だと悟飯は話しているが、数十分も前から来ているのは少しではないような気がするとトランクスは思う。トランクスもまた気で悟飯のことに気付いたけれど、急用でもなさそうだったので一区切りがつくところまでやっていたことを終わらせてから来たのだ。悟飯がそれでいいのならいいが、それでも待たせておくのは悪いと思ってしまう。
「悟飯さん、もしオレがいつまでも戻ってこなかったらどうするんですか」
「戻ってくるだろ?」
「そうですけど。どれくらいかかるかなんて分からないでしょう」
いつまでも戻ってこないなどということは確かにないのだが、そういう意味で聞いたのではない。なかなか戻ってこなかったならどうするのかとトランクスは尋ねたのだ。
その意味を伝えれば、今度は「オレはいつまでも待ってるから」と返されたのには驚いた。それからすぐに顔を逸らす。ほんのり染まった頬を気づかれないようにしながらトランクスは口を開く。
「本当に、いつまでも待っててくれるんですか……?」
悟飯が先ほど言ったことをもう一度聞いてみる。すると悟飯はすぐに「当たり前だろ」と肯定した。その言葉がなんだか嬉しい。迷わずに答えてくれているのが悟飯の気持ちをそのまま表しているようだった。一切の迷いなどなく本当にそう思っているのだろう。こんなことを嘘で言うわけがないことも知っているし、何より言葉そのものから悟飯の気持ちが伝わってきていた。
「たまに悟飯さんって急にそういうこと言いますよね」
「そうかな? でもこれはトランクスが聞いたから答えたんだけどな」
そんな風に言ってもそう思っているのが間違いではない。本心からそう思っているのは確かなのだ。尋ねられたから答えただけと言っているもののいつもそう思っているのだろう。だから多少待つことも気にしないでトランクスが戻ってくるのを待っている。
毎回悟飯が待っている度に呼びに来ればいいのにと話してはいたけれど、悟飯がそんなことを思っていたことは始めて知った。だからあの時もあの時も、言ったところで別に大丈夫だからと言っていたのだろう。たとえどれくらい待つことになっても悟飯には関係がなかったらしい。
「でも、嬉しいです。悟飯さんがそう思っててくれたなんて」
「オレはいつもそう思ってるよ」
いつも、いつでもそう思っていた。それはずっと変わらず。昔からそうだったのだ。
悟飯のその気持ちを知ってトランクスもゆっくりと口を開く。悟飯がそう思ってくれているなら、約束して欲しいことを。
「それなら、オレの話も聞いてもらえますか?」
「なんだい?」
「悟飯さんはオレのこと、ずっと待っててくれるんですよね? じゃあ、待つだけじゃなくてオレの傍にいてください。一人でどこかに行かないで下さい」
あの日のように。
そう言ったトランクスの目は悟飯を真っ直ぐに見ていた。その目からトランクスの意思がはっきりと伝わってくる。
あの日というのは悟飯がトランクスをこの世界に残してしまった日のこと。もう一人にはなりたくない。一人なんて嫌だ。だからあの日のように一人で抱えて一人で行ったりしないで欲しい。いつまでもトランクスのことを待ってくれるなら、いつまでも傍にいて欲しい。隣にいて欲しい。
言葉にのせられた思いを悟飯は静かに聞いていた。あの日のことを忘れたことはない。あの出来事は悟飯にとっても忘れられない大きな出来事だったから。
トランクス自身の気持ちを直接聞いて、その気持ちを受け入れる。大きく成長しても、いつまで経ってもトランクスは悟飯にとっての弟子であり、あの日々の思い出も変わりはしない。
「あぁ。これからは、ずっと一緒だから」
隣に座るトランクスを包み込むようにして静かにそう言った。悟飯の温かさは全てから伝わってくるようだった。その温かさを感じながらこの時間を過ごす。
この気持ち、アナタに伝えられて。
この気持ち、アナタに伝えよう。
fin