青い空、白い雲。天気は晴れ。
 気持ちのよい天気の日は体を動かしたくなる。そんな理由はただの一つの言い訳にしかならないだろうか。サイヤ人は戦闘民族であり戦いを好む。それでもって、いつでも修行をしているというのにそんなことを言っても大して変わらないというものだ。どうせいつも修行と言って出掛けているだろうという話だ。
 こんな日だから、というのもおかしいけれどたまにはといって親子揃って修行をしようと出掛けた。学校の勉強もしなければならない悟飯だが、天気がいいからとたまには体を動かすことも必要だという理由で一緒に来ている。その理由を言ったのは悟空なのだが、チチもずっと勉強していろというのもよくないだろうと思って快く了解してくれたのだ。


「二人共、随分強くなったな!」


 修行をしながら一休みをしていたところで悟空がそう言った。悟飯と悟天は二人で顔を見合わせて嬉しくなる。
 それでも悟空と比べればまだまだ自分達が下だろうということは分かっている。二人の父親はいつでも大きくて強い存在である。悟空がいない間の七年間。それから魔人ブウとの戦いでそれぞれ腕をあげていた。その戦いではみんな修行をして強くなって立ち向かっていったけれど、最後は悟空が倒すことでこの戦いに終止符を打った。その時にやっぱり父は強いということを改めて感じた。


「でも、お父さんと比べればまだまだですよ」


 悟飯が言えば悟天も口を揃えてそうだと言っている。そんな息子達の意見に悟空は「そんなことねぇぞ」と否定の声をあげた。それから続けるように話す。


「悟飯も悟天も強いじゃねぇか。もしかしたら、オラのことを抜いちまうかもしれねぇぞ?」

「そんなの無理だよ。お父さんの強さは凄いもん」


 もしもでも無理な話だ。悟天がそう言うのに悟空は「そうか?」と笑っている。悟天や悟飯からしてみれば、悟空の強さを自分達が追い抜くことなんて出来ないだろうと思っている。追い抜くためには相当な修行を積まなければ無理だろう。
 けれど、悟空はそうは思わないらしい。二人の息子は実力を十分に持っている。悟飯に至っては一度悟空の実力を上回ったことがある。あの時、セルとの戦いでは悟空の倒せなかったセルを悟飯が倒したのだ。悟天だってまだ七歳なのにスーパーサイヤ人になることが出来る。だからいつ二人が悟空のことを抜いても不思議ではないと思っているのだ。


「分かんねぇぞ。二人共オラを抜けねぇことなんてないと思うからな」


 悟空の言葉に「嘘だ!」と言っている悟天の隣で悟飯は「そうですか?」と疑問で返した。いくら悟空がそんな風に話してもなかなか真実味がないというものだ。修行をしながら全く相手にならないということはないのだけれども。あまり真実味がない話に本当にそんなことがあるのだろうかと疑ってしまうというものだ。


「嘘ってことはねぇと思うぞ、悟天。お前ん中にはまだすんげぇパワーがあるだろうからな!」

「凄いパワー?」

「そうだぞ。オラが悟天くらいの頃はこんなに強くなかったからな」


 この年でこれだけの実力を持っているならもっと強くなる可能性を秘めている。今でさえ地球を救う戦士である悟空だって、十二歳の時にブルマに出会ってドラゴンボール探しの旅を始めたのだ。それまで小さい頃から育ててくれた孫悟飯に武道というものを教えてもらったがこれほどの実力はなかった。悟飯がセルを倒したのがその頃の悟空に近い年だったくらいだ。息子達の実力は凄いということは、悟空が自分のその年頃の時と比べれば一目瞭然だった。


「お父さんがボクくらいの時はまだ強くなかったの?」

「あぁ。もし勝負したなら簡単に負けちまうな」


 それを聞いて悟天は不思議な感覚だった。こんなにも強い父が自分と同じ頃には今の自分よりも弱かったなんて。
 信じられないけれど嘘にも聞こえないのだから本当なのだろう。それ以前に悟空は元々嘘なんてつけないような人なのだ。その頃のお父さんってどんな感じだったんだろう、と悟天は考える。


「だけど、今のお父さんと同じくらいになったら実力が上回るとも限りませんよ。セルとの戦いの時はボクの方が上だって言ってましたけど、今はお父さんの方が上のように」

「そうか? でも分からねぇだろ」


 あの時、一度は悟飯が悟空の実力を抜いた。それから七年の間。悟空はあの世で修行を続け、平和になったこの世界で過ごした悟飯の実力を再び上回ったのだ。母であるチチが勉強をするように言ったりもしたが、平和になったこの世界では戦う必要性がなくなっていたのだ。
 その少しの間に修行を続けていた悟空やべジータが悟飯の実力を上回ったというわけだ。修行をしなければ実力が落ちてしまうのは仕方がないことだけれど、きっとこれからも悟空と自分との実力はこのまま変わらないだろうと悟飯は思う。


「兄ちゃんってお父さんより強かったことがあったの?」

「少しだけな。またすぐに追い抜かれちゃったけど」

「へぇ。兄ちゃん凄いね!」


 少しの間だけだから凄くもないんだけどな、と悟飯が言うけれど悟天は気にしない様子だ。それでも凄いと言っている。それが僅かな時間だとしても、こんなにも強い父を抜いたことがあるというのは悟天からすれば凄いことに変わりはないようだ。悟飯は自分ではそんな風には思わないけれど、悟天がそう言うのを聞いているとなんだか恥ずかしくなってくる。
 そんな様子を微笑ましそうに悟空が見ている。今はまだ悟空よりも実力が少し下の二人だけれど、このままだと本当に二人に追い抜かれる日が来るのかもしれない。そんな日が来るのを楽しみにしながら自分も修行を続けないといけないなと心の中で思う。これをチチに言ったら何と言われるのだろうか。もう今更だと言って見守ってくれるだろうか。


「さてと! そろそろ修行を再開すっか!」


 悟空の声に「はい!」という声が揃う。そしてまた修行を続ける。親子で揃って修行をするのも悪くはない。

 青い空、白い雲。
 天気のいい日は体を動かしたくなる。今日はそんな一日。










fin