風が吹き木々が揺れる。静かに通り過ぎた風はどこか遠くに。
気がつけば流れ行く時。その流れはゆっくりというべきか、それとも思っている以上に早いというべきか。いつの間にか流れた時間に目を向ける。
あの頃と変わらずに時は流れて。今、ここに在る。
流れる時に流されて
目の前に広がる緑の草原。辺り一面が自然に囲まれている。
そんな場所に二人。静かに立ち止まり、その光景を瞳に映していた。
「こうやって話すのも久し振りだな」
ここに二人揃って訪れるのはいつ以来だろうか。小さい頃はよくやって来て、その度にはしゃいで飛び回っていた記憶がある。遊んで、笑って、時々喧嘩をすることもあって。あの時と変わらないままの自然がそこには存在している。
変わらない自然を見ながら「そうだね」と頷いた。それからその自然を見たままゆっくりと声を発した。
「学校があるとあまり時間もないもんね。ここに来るのも久し振りだよ」
「小さい頃はよくここで遊んでたよな」
今は二人共学校に通っている。まだ学校に通わずに遊んでいたあの頃とは違う。学校というものに通い始めて平日は朝から学校に行かなければならない。元々一歳差の二人が同じクラスになることは当然のようになく、一緒に過ごせる時間も減っていた。土日だって用がないわけではない。時が流れるにつれて二人が一緒にいられる時間が少なくなっていった。
思えば、小さい頃はいつも二人で一緒にいたものだ。親達の関係からか、本当に小さな頃から遊んでいて、いつでも隣にいるのが当たり前。自分の隣には相手がいる。そんな幼馴染の関係だった。
今もそれは変わらないが、あの頃とは違って学校にも行かなければならないし友達だっている。あの頃のようにいつでも一緒にいられる訳ではない。こうして二人で過ごすのは久しい。
「色んなことをしたよね」
あの頃のことを思い出しながら話す。毎日のように遊んで、毎日たくさんの出来事があった。そんなに前のことなど忘れていてもおかしくはないのだろうが、意外と覚えているもので記憶に残っている。大切な二人の幼い頃の記憶だ。
戦ったり、探検をしたり、競争をしたり。まだ小さかった二人は色んなことをして遊んだ。時には喧嘩をしたり親に怒られるようなこともしたことがある。今ではやらないような出来ないような、小さかったから許されたことも中にはあった。逆に今だから出来ることも同じようにある。
「戦闘ごっことか、探検とか。いつも遊んでばかりだった」
「遊ぶことが仕事みたいなものだろ? 子供っていうのは」
「ボクも勉強じゃなくて遊ぶ方が楽しいんだけどな」
「学生は勉強。それにお前は今だって遊んでばかりだろ」
トランクスの言葉に「ボクだって勉強してるよ!」と悟天は反論する。けれど「いつもテスト前にオレの所に来るのは誰だったっけ?」と尋ねられて言い返すことが出来ない。勉強をしなくてはいけないのは分かっていても勉強なんてものは好きではない。友達と遊ぶ方が楽しく、勉強の方が厳かになってしまうのだ。トランクスにそう言われても仕方がない。
まだ小さな子供ならば、ぶことが仕事のようなものだ。そうはいっても悟天のような歳であれば遊ぶことが仕事とはいえない。だからといって遊ぶなというわけではないが学生の本来は勉強にある。友達と遊ぶのもいいけれど一番は勉強であるのも確かなのだ。
「でもさ、あの頃は色々あったよね」
二人が小さかったあの頃。それはもう十年も前の話。
親の影響というのか、伝子というのか。サイヤ人を父に持つ二人は戦闘ごっこといって戦って遊んだりしていた。修行をつけてもらったりして強くなることを目指して過ごした日々。
そうやって過ごしていたのがいつの日か。修行をすることが徐々に減っていき、今となっては殆どしていない。あの頃はそれが楽しくて仕方がなかったというのに時の流れとは不思議なものである。
「今は平和な世の中だからな」
「倒さなくちゃいけない敵なんて現れないもんね」
この世の中は特に変わりもなく平和である。倒すべき敵など現れず、戦うことを必要としない世の中。それが現在のこの地球だ。二人が小さかった時には、地球を守るために戦わなければならない敵に出会うことがあった。その敵を倒すために、地球を守るために、小さいながらも戦士として戦っていた。
平和な世の中ではそれらしく、戦う敵もいなければ修行をすることも減り、もっと別の過ごし方をするようになった。戦いを必要としない世界では戦いを望むこともなくなったということだろう。
「それが一番だろ。平和が普通であることが」
「そうだよね」
戦いがないこと。それが人々にとっては平和なことなのだ。平和以上に望むものなどこの世界にないだろう。平和であるという何気ない普通のことが一番の幸せなのだ。
修行を積み、鍛錬を続けることも悪いことではない。今はそれが必要でないだけで、いつまた何が起きるかなど分からないのだから。それでもこの世界は平和であることを望み、平和であることが幸せである。それはこれからも変わることはないだろう。
「ねぇ、トランクスくん」
名前を呼ばれて「何だよ」と聞き返す。悟天は何かを思いついたように幼馴染を見た。何を言うのかと思っていると、次に悟天の口から出たのは久し振りに聞く言葉だった。
「組み手しない?」
ここは二人以外には誰もいなければ十分な広さがある。山の中であるがために特にこれといった心配もない。組み手をやるには問題のない場所だ。
「いきなりだな」
「だって、そんなこと話してたらさ」
唐突すぎる提案。どうしたのかと思えば、さっきまでの話で急にやりたくなったらしい。それもこの幼馴染とこの場所で久し振りに過ごしているからだろうか。それともサイヤ人というものは戦いを好むという本来の性格からだろうか。またはそのどちらもかもしれない。
広がる草原にどこまでも続く空。小さい頃から知っているこの場所を一度見渡して、それから悟天のことを見る。トランクスの返事を待つ悟天に小さく笑みを浮かべてその答えを返す。
「いいぜ。久し振りにやるか」
返ってきた言葉に悟天は顔を輝かせた。
本当にやってくれるかどうかは正直五分五分くらいだった。お互い修行をやるのをサボったりして、それでもたまには体を動かしたくもなるけれど。返ってくるのがどちらかは分からなかった。それだけにいいという返事が返ってきたことは嬉しい。
「本当!?」
「あぁ。でも、負けるつもりはないぜ?」
「ボクだって!」
向き合って組み手をする体制になる。久し振りの組み手に、自然と笑みを浮かべる。風が二人の間を通り過ぎるのを合図に二人は一斉に飛び出した。久し振りでもそれはあの頃と変わらず互いに本気でぶつかる。攻撃をして、防御をして。そんな繰り返しを続けていく。
あの頃はいつも一緒に過ごしていた。隣にいるのが当たり前。そんな幼馴染。
今はあの頃のように一緒にいる時間は減ってしまった。けれど、二人の関係は変わらずにずっと、そのままで時は流れていた。
もうあの頃から何年も時は流れたけれど、同じように流れた時はあの頃のままに二人の時を動かしていた。
楽しそうに組み手を繰り広げるトランクスと悟天。その二人の頭上には空が青く澄んでいた。
fin
「中吉小吉」の濡羅璃ヒョン様に差し上げたものです。
どれだけ時間が流れても二人は変わらないままずっと一緒にいるのでしょうね。