別に、アイツがどうしようとアイツの勝手だ。オレがとやかく言うことではないし、言うべきことでもないだろう。まあ、そのことについて何も思わないかと言われれば話は別だけど。
「……って、トランクスくん聞いてる?」
「あーはいはい、聞いてるよ」
絶対聞いてなかったでしょ、なんて言われたけれど一応聞いてはいた。聞き流していた、という方が正しいかもしれないが。それでも何の話をしていたのかくらいは分かっているから聞いていなかったわけじゃない。そもそも、オレに聞いて欲しいわけでもないだろうに。
「トランクスくんって、興味ないことは適当に流すよね」
「そんなの誰だって同じだろ」
興味がないのに熱心に話を聞いてやるなんてどんなお人好しだよ。世界は広いから探してみればそういう人だって居ないとは言い切れないだろうが、少なくともオレはそんなことにまで時間を割きたくはない。
それならどうして今はコイツの話を聞いてやっているのかといえば、この幼馴染がオレの家までやってきてこんな話を始めたから以外に理由なんてない。
「聞いてやってるだけマシだと思えよ」
本当に聞いていたのかと疑っているような声を出されて、先程までの話を簡潔に述べてやれば文句も言えなくなったらしい。本当、どうしてオレがこんなことに付き合わされなくちゃいけないんだか。
「でもさ、聞いてるならもっと……」
「聞いてるだけマシだろ」
今さっき言ったのと同じことをもう一度繰り返す。こっちは聞きたくて聞いているんじゃないんだ。コイツ――悟天が話を聞いて欲しいというから聞いてやっているだけ。
幼馴染のこれは今に始まったことではなく、何かあればオレのところにやってくるのは昔からだ。それはやっぱり、オレ達が幼馴染だからなんだろう。オレも幼馴染だからこそ、そんなコイツの話を聞いてやっている。……それだけが理由、とは言わないけれど。
「トランクスくんって冷たいよね」
そう言うけれど、それならどんな反応をしろというんだ。こちらにしてみれば別に興味もない話に対して。
「じゃあ、お前が逆の立場だったら熱心に聞いてくれるのかよ」
「そりゃあちゃんと聞くよ!」
本当かよと思いつつも今ここで確かめるための話も思いつかない。
大体、この手の話題には興味がないどころか好き好んで話したいとさえ思わない。それが他人の話でも自分の話でも。どちらかといえば、関わりたくないと思うことさえある。そういったイベントの日にも良い思い出は殆どない。
「だからトランクスくんももっと真面目に聞いてよ」
って、言われてもな……。
お前は誰かに話が聞いて欲しいだけで、その相手に幼馴染だからオレを選んでいるだけだろう。そのオレにそこまで求められても困る。というか、そこまで言うなら他を当たってくれと言いたい。
「オレが嫌なら悟飯さんに聞いてもらえば良いだろ」
「兄ちゃんは忙しそうだし」
それはつまり、オレは忙しくなさそうだと言いたいのか。
言えば、トランクスくんなら聞いてくれるかなと思ってとか言い出す始末だ。それでいて真面目に聞けというのはどうなんだ。オレのところに来るな、とは言わないけれど。
「なら友達とか」
「それならトランクスくんでよくない?」
疑問形で言われても困るんだけど。つーか、なんなんだよその理由は。いや、それもやっぱり幼馴染だからというのが全ての答えか。
それを悪いとは言わないし、言うつもりもない。幼馴染だから、っていうのはオレにもある。だけど。
「そこまで言うなら、オレの話も真面目に聞けよ」
そんな風に口にすると、悟天は勿論だと言うように頷いた。
こう言ったはいいが、つい先程考えて思いつかなかったものをもう一度考えてみたところで答えは変わらない。
ただ、そこまで言うのなら。
ぱっと思いついたそれを口にした理由なんてそんなもんだ。
「女に振られたからってオレのところに来るくらいなら、もうオレにしておけよ」
オレの言葉に悟天はぽかんと口を開けてこちらを見た。黒い瞳が真ん丸になり、暫しの間を置いて「いきなり何を言い出すのさ!」と遅れて反応を返した。
「何って、そのままの意味だけど」
「そのままって…………」
どうやら、ぱっと思いついて口にしたそれは幼馴染を随分と混乱させたらしい。
「ボク達、男同士だよね?」
「だな」
「トランクスくん、女の子に凄いモテるじゃん」
「それとこれとは関係ないだろ」
「え、じゃあそういう……?」
そういうってどういう意味だよとは思ったが、なんとなく言おうとしていることは分かったから「別に違うけど」とだけ答えてやった。
それじゃあ何で、と振り出しに戻ったような質問が出てきたところで溜め息を一つ。
「真面目に聞くんじゃなかったのか?」
「それは、トランクスくんが急に変なことを言い出すから……!」
そこまで言った悟天は、さっきまでとは打って変わってぴたりと言葉を止めた。それからまた数秒ほど時間を要しただろうか。
「……もしかして、ボクのことからかってる?」
真面目に聞いて欲しい、それならお前も真面目に話を聞くのか。
今この話の発端はそんな話題からだ。こちらの話も真面目に聞くと言った悟天に対して、オレがその時頭に浮かんだことを口にした。
それが今し方の話題であって、ふと冷静になったらしい幼馴染は話題の素を辿ってこちらに質問を投げ掛けてきたようだ。窺うようにこちらを見る黒の双眸に視線を向け、僅かに口角を持ち上げてその質問に答えるべく口を開く。
「真面目に聞くって言ったのはお前だろ?」
質問に質問で返す形になったが、まあ意味は通じただろう。ころころと表情を変える幼馴染は「酷いよ」と言ってはあと息を吐いた。
「ボクは真面目に聞こうとしてたのに」
「全然真面目じゃなかったな」
「それはトランクスくんのせいでしょ」
いきなりあんなこと言い出すんだもん、と言われたけれど先に言い出したのは向こうだ。オレは悪くないだろう。
「つーわけで、聞いてやるだけありがたく思えよ」
これでこの話は終わりだというように言ってやれば、悟天は不満そうに「えー」と声を上げた。けれど「嫌なら他を当たれ」と言って机から本を手に取れば、今度は終わりにするから本を読み始めるなと言われた。勝手な奴だ。
念の為にもうお前の失恋話は聞かないと言ったところ、この前のゲームの続きをしようと返ってきた。そういえば途中でセーブして終わったんだったっけ。
「良いけど、足引っ張るなよ」
「大丈夫だよ。この間やって操作もばっちり覚えたもん!」
だからやろうという悟天に急かされて、一度は手に取った本を開かないまま机に戻してゲームの電源を入れる。昔から変わらない、幼馴染と過ごすそんな一日。
「オレ以外見るんじゃねえ」
なんて、言ったらコイツはどんな反応をするだろう。
さっきのも本当はからかったわけじゃないんだけど、って。
(ま、今は言うつもりもないけどな)