桜舞う。
 ヒラヒラと舞い落ちる桜の花弁。暖かな陽気、青い空に白い雲。流れる風は心地よく、季節は春を示していた。
 始まりの季節、春。今日は中学校の入学式。










 一年前の春。中学校に入学したトランクス。悟天よりも一歳年上のトランクスは、悟天より一歩先に小学校を卒業して中学校へと進学した。小学校の卒業式、別の学校に通うこととなるトランクスに悟天は「トランクスくんだけズルイ」とそっぽを向きながら言った。それが寂しさを押し込めた言葉だとトランクスは気付いていた。だから頭の上にポンと手を置いて「たった一年だろ? それに会えないわけじゃねぇんだから」と言えば彼は小さく頷いた。
 中学校と小学校。二人が少しばかり離れる時間は短いようで長く感じた。決して会えないわけではないけれど、今まで同じ学校だったのが違う学校になった。たったそれだけのことが時間を長く感じさせていた。

 そして、あれから一年。
 桜が舞うこの季節が再びやってきた。


「トランクスくん!」


 校舎の方から元気よく走ってくる少年。彼はただ一人を目指して走ってきた。呼ばれた少年は立ち止まり、彼が自分の元へやってくるのを待った。
 つい先月、小学校の卒業式を迎えた悟天は同じクラスの仲間達や小学校の友達に先生と別れ、漸く中学校へと進学した。この一年もの間、早く行きたいと思っていた中学校。そこにやっと辿りつくことが出来た。
 ブカブカの制服は、まだ着慣れていない感じだった。制服を着ているというより制服に着せられているような一年生。この一年間、ずっと着たいと憧れ続けた制服だ。


「ボク、やっと中学校に入学したんだよ!」


 嬉しそうに話す悟天に「よかったな」と言ってやれば「うん」と返ってくる。その声からも表情からも嬉しいという気持ちが伝わってくる。
 そんなに中学校に進学できたことが嬉しいのかと心の中で思う。一年前から時折、早く中学校に進学したいという話なら聞いたことがあった。そんな悟天にトランクスは中学校なんて面倒だと言ったけれど、それでもトランクスと一緒の学校に通いたいと話していたのだ。
 本当に悟天は中学校に進学したかったのだと改めて知る。それが自分と一緒の学校に通いたかったからだというのだからトランクスも嬉しくなるというものだ。それ以前にやっと同じ学校に通えることはトランクスにとっても嬉しいことなのだ。


「ほら見て、トランクスくん。制服ー!」


 初めて着る制服を腕を広げながらトランクスにその姿を見せる。今まで、小学校の頃は私服だったので寸法を取ることも始めてだった。やっと着れた同じ制服をしっかりと見てもらう。


「まだブカブカだな」

「今はこんなにブカブカだけど、すぐ大きくなるからって。いいでしょー?」


 男の子は成長が早い。だから制服を作るときに大分余裕を持って作るのだ。最初のうちはブカブカだけど、中学校で生活しているうちにピッタリになるというわけだ。女の子はこれほどまでに大きく作られないのは男の子との成長の違いから。男の子達はみんな、最初はブカブカな制服を着ているのだ。
 悟天も例外ではなく大きい制服を着ている。今はまだブカブカだけれど卒業する頃にはこの大きさが丁度よくなるだろうと見越して作られているのだ。その大きさが悟天には嬉しくて、ついトランクスに自慢するように話す。悟天は小さい頃からずっとトランクスよりも小さい。一歳年下だからしょうがないといえばそうなのだが、やっぱり大きくなりたい。これだけ大きくなると予想して作られているのが制服なのだから、早くこの制服に合うように大きくなりたいと思うのだ。


「ピッタリになりゃいいけどな」

「ピッタリになるもん!」


 まるでピッタリにはならずにこのままブカブカだというように話すトランクスに悟天も反論する。トランクスからすれば冗談でからかっているわけだが、悟天からすれば嫌味に聞こえるのだ。自分の方が大きいからって余裕があるようなトランクスの態度にふくぅと頬を膨らませる。いつか絶対越してやる、なんて心の中で思ってみる。絶対越せるかなんてわからないが、越してやりたいというものだ。


「もしその制服がピッタリになっても、オレは越せないだろうけどな?」


 心を呼んだかのように小さく笑みを浮かべて話すトランクスに、今度は声に出して「越すよ!」と言い返す。どうだかなと言っているトランクスは、悟天に身長を抜かされるつもりなんて全くといっていいほどないのだろう。いくら男の子は成長するといっても成長するのはトランクスも同じこと。成長差は人によってあるものの成長するということに関しては条件は同じなのだ。
 悟天はトランクスを追い越したい。トランクスは悟天に抜かれたくない。
 どちらの思いが真になるかはまだ先の話。今は成長過程の途中なのだから分からないことだ。もしかしたら、数年後には悟天が身長を抜くかもしれないしこのままかもしれない。それはいずれ時が経てば分かるだろう。


「まぁ、これでやっと同じ学校に通えるな」


 また一緒の学校に通える。小学校の頃のように二人で一緒に通えるのだ。去年は、学校はそこまで離れてなかったとはいえ一緒に通って居なかった。だから同じ学校に通うだけでなく一緒に通うことも一年の時を経てやっと出来ることなのだ。何もかも初めてのことと久し振りのこと。嬉しかったり楽しみだったりと色んな気持ちが生まれる。


「入学おめでとう、悟天」

「ありがとう、トランクスくん」


 今日は中学校の入学式。新しい新入生を迎える日。
 新しく通う学校。初めての友達や先輩、先生。初めて着る制服。小学校とは違ったこの中学校にこれから通うこととなる。まだ知らないたくさんのこと、これから味わう楽しい出来事。さまざまなことをこの中学校生活で知ることになるだろう。

 桜舞うこの時の中。

 また一緒の学校に、一緒の制服を着て一緒に通うことが出来る。この先の楽しみを心に抱き、新たな中学校生活の一歩を踏み出す。仲のいい幼馴染と、大切なこの友と一緒に。

 この流れる時を、刻んでいこう。









fin