終業のチャイムが学校中に響き渡る。次々と教室を飛び出す生徒達。それに混ざるように帰る支度を整えると友達に挨拶をして教室を出る。真っ直ぐ下駄箱に向かってそれから学校の校門。出来るだけ早く準備を済ませて出てきているつもりだが、いつも先に来ている人がいる。
 悟天がやって来たのを確認すると「帰るか?」と一言。その言葉に悟天は「うん!」と笑顔で返す。そんないつも通りの会話。いつも通りの帰り道。




夕焼り道





 学校が終わったら校門の前で。
 そんな約束を交わしたのはいつのことだっただろうか。確か悟天が学校に通うようになり、自然とトランクスと二人で登校するようになった頃のことだ。歳が違う二人が同じクラスになんてなれるわけもなく、一緒にいられる時間といえば限られた時間しかなかった。
 それは仕方のないことだったが、それならせめて一緒に居られる時間は一緒にいたいと言ってきたのは悟天の方だった。それを聞いたトランクスがそれなら帰りも一緒に帰れば良いじゃん、と提案して気がつけばこれが日常になっている。


「今度の休み、トランクス君は何か用事ある?」

「いや、別にないけど?」


 クラスの話をしていたかと思えば、今度は次の休みの予定を聞かれる。一度考えてはみるものの特にこれといった用事はなさそうだったので、トランクスはないと答えた。すると悟天は嬉しそうにそれじゃあと言葉を続ける。


「それじゃあさ、どこかに遊びに行こうよ! 最近どこも行ってないもん」


 小さい頃はよく毎日のように遊んでいた。けれど学校に通っていればそれも叶わない。時々は一緒に遊びに出掛けることはあるが最近はどこにも遊びに出掛けた記憶はない。この記憶が間違っていなければ、ここ数ヶ月くらいはどこかに遊びに出掛けた記憶はない。どちらかの家で遊んだことなら数回くらいあったとは思うけれど。
 だからたまには遊びに行きたいと悟天は話す。しょっちゅうとはいわないが、たまにくらいなら遊びに出掛けるのも悪くはないだろう。元々、遊ぶことが好きな悟天だ。ここ数ヶ月の間はどちらかの家で遊ぶだけで、出掛けたいと言わなかっただけ珍しい。


「確かにそうだな」

「そうでしょ? だからどこかに遊びに行こうよ」

「まあ、いいけど」


 トランクスの返事を聞いた悟天は「やったー」と喜んでいる。それがあまりにも嬉しそうだからトランクスもつられるようにして微笑む。早速どこに行って遊ぼうかなんて言っている。楽しいことを考えていると自然に笑顔になってしまう。


「トランクス君はどこか行きたい所ある?」

「お前の好きなところでいいぜ」


 好きな所と言われても選択肢は沢山ある。その中で今度の休みはどこがいいかと考える。ここはどうだろうか、それともあっちは、なんて会話を繰り広げている。それを続けているうちに今度の休みの予定が決定する。その予定に、まだ今週は残っているというのに楽しみだと悟天ははしゃいでいる。
 そんな様子の悟天を見ながら、今言うことでもないかとは思いつつも今言わなければいけないことだろうとトランクスはゆっくり口を開いた。


「その代わり、その次の休みは勉強だからな」


 言えば予想通りに「えー」と嫌そうな言葉が返ってくる。さっきまでの様子とは正に正反対。遊ぶことは楽しいけれど、勉強といえば楽しいなんていえるようなものではない。人によっては楽しいと答える人もいるかもしれないが、少なくても悟天はそう思わない。それはトランクスとて同じことだ。
 どうして急に勉強の話なんてしなければならないのか。その理由が分からずに「勉強なんて嫌だよ」と本音を漏らす。悟天の場合は勉強が好きでもなければ苦手でもあるのだ。そんな勉強をしたいなんてとてもではないが思えない。
 けれど、事はそう簡単な話ではない。


「文句言うけど、テストあるだろうが」

「あ」


 テストの存在などすっかり忘れていた。今月末には期末テストがやってくる。今は丁度月の半ば。今週は遊ぶにしても来週はテスト勉強をしなければ流石に不味い。
 トランクスは勉強が分からないわけでもなく、計画的に進めるのだろうから問題はない。けれど、問題があるのは悟天の方だ。勉強が嫌いな上に苦手で前回の中間テストの結果は散々だった。そのせいでチチに怒られたことは記憶に新しい。


「お前が勉強しなくてもオレは構わないけどな。自分の分くらい自分でやるから」

「そんなこと言わないで勉強教えてよ」


 堂々と言えることではないがこのままだと本当にヤバイ。次のテストでも点数が悪かったら一体何を言われるか。だからといって勉強をしようにも一人では到底やることは出来ない。問題も解けなければ勉強も放り投げてしまうだろう。
 こういう時に頼める相手といえば一人しかいない。幼馴染であり親友である彼に頼むしかないのだ。悟飯も頭はいいのだが、色々と忙しい悟飯に聞くのも悪い気がする。トランクスの勉強の邪魔にならないかといわれればそうかもしれないが、頼める人は他にいないのだ。


「トランクス君、お願い!」


 勉強を教えてくれと頼まれたのはこれで何度目だっただろうか。ふと、頭の中でそんなことを思う。
 目の前の悟天の様子を見て、はぁと溜め息を漏らす。


「しょうがねぇから教えてやるよ。ただし、真面目にやれよ?」

「うん! ありがとう、トランクス君!!」


 お礼を言うと同時に飛びついてくる悟天。それをトランクスはなんとか受け止める。いきなり勢いよく飛びつかれては下手したら受け止められないのではないかという考えは、サイヤ人の血を引く二人には全くない。いくら最近は修行をあまりしていないとはいえ、それくらいは問題のないレベルの話だ。
 期末テストの勉強の約束も出来たところで先にあるのは遊びに行く予定の方だ。今はその時のことを楽しみにする。テスト勉強はまたその時にしっかりやればいいのだ。


「約束だからね!」

「分かってるよ」


 どちらのこと、とは言わない。正確には、どちらでもあるからこそ言わないのかもしれない。それは本人達にはしっかり伝わっているのだろう。長年付き合っている相手なのだから。

 楽しい予定もあればテストという辛いものもある。しかし、それは学生をやっている上では仕方のないことだ。楽しい時は楽しんで、テストのために勉強をして。そうやって過ごしていく学校生活。
 その時間を少しでも多く大切な親友と過ごしていよう。共に笑って泣いて、同じ時間を共有してきた過ごしてきた幼馴染と。これからも一緒の道を歩いて行こう。

 そんな夕焼けの光に照らされた帰り道。










fin




「CLASH!」のまこと様に差し上げたものです。
一緒に帰る二人。次の休みに遊ぶ代わりにその次の休みは二人でテスト勉強をするようです。