「欲しいもの?」
聞かれた言葉をそのまま繰り返す。通信の向こうで友人がああと頷く。何かないかと問われてまず頭に浮かんだのは疑問だった。
「急にどうしたの?」
「もうすぐ誕生日だろ?」
その一言でカレンダーを見たトワは「あっ」と思わず声を漏らした。
小さな声だったがARCUSはそれをしっかりと拾ったらしい。忘れてたのかと言われて苦笑いを零す。でもそうか、と漸く質問の意図を理解した。
「それで連絡をくれたの?」
「色々考えたが、本人に聞くのが一番かと思ってな」
「そっか。ありがとう、クロウ君」
「礼を言われることはまだ何もしてないだろ」
「そんなことないよ」
その気持ちが嬉しいのだと伝えたら程なくして「そうか」と短い相槌が返ってくる。通話越しの声がどことなく優しくてつい、口元が緩む。
「欲しいものかぁ。急に言われてもすぐには思いつかないかも」
何とはなしに天井を見上げながら考えてはみたけれど、ぱっと思い浮かぶものはない。日常的に使っている小さなものであれば幾つかあるかもしれないが、クロウが求めているのはそういう答えではないだろう。
「別に今すぐじゃなくてもいいぜ? 来年の誕生日までに見つけてさえくれればな」
やけに長く期限を切られたのは、こちらの言おうとしたことを察したからだろうか。誕生日を祝ってくれることが嬉しいのもその気持ちで十分であることもすべて本心なのだが、この友人はそれだけでは納得してくれないらしい。
――いや、彼だけではなく他の友人たちも同じようなことを言うのだろう。きっと、逆の立場ならトワ自身も同じことを言う。それでも、悩んでしまうことに変わりはないが。
「難しく考えることねーよ。食べたいモンとか行きたい場所とか」
しかし、次に出てきたのは意外な言葉だった。てっきり、そういうものを除くために来年と言ったのだと思ったのだが。
「そういうのでもいいの?」
「トワの誕生日だろ? お前がもらって嬉しいモンなら何でもいいぜ」
当たり前だというようにクロウは話す。それなら何かしら思いつくかもしれない。
でも、それならどうしてそんなに期限を長くしたのだろうか。今度は逆にそちらが気になった。
「もしかしてクロウ君、今遠くにいるの?」
「今はレミフェリアだが、余計なことは気にすんなよ? 元々そっちに戻る予定だし、何度も言ってるけどお前の誕生日だからな」
どうやらこちらの言いたいことはお見通しらしい。
ごちゃごちゃ考えすぎだとクロウは笑う。
「つーか、欲しいものがあるなら誕生日じゃなくてもいいけどな」
「それはまた少し違う話じゃない?」
「要は遠慮するなって話だ」
そう言われてトワもクロウの言いたいことを理解した。すぐに思いつかないのなら来年でもいい。逆に思い浮かぶものがあるのならどんなことでも言えばいい――ということなのだろう。
それとは別に、欲しいものがあればいつでも言えばいいというのも彼の本音に違いない。トワ自身も何かあるのなら遠慮せず、いつでも言って欲しいから。
「それじゃあ何か考えてみるね」
「おう」
短い返事を聞きながら胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じる。誕生日をお祝いしてくれるだけでも嬉しいのは本当だけど、クロウのあたたかな想いに心がいっぱいになる。
そして、何よりも嬉しいのはそう遠くない未来に彼と会えるという事実だ。こうやって通信で話すことも少なくないけれど、やっぱり直接会うことができるのは嬉しい。
「でもね」
だから、トワはゆっくりと口を開く。
「クロウ君が会いにきてくれることが、一番のプレゼントだよ」
元々こっちに来る予定だったのは確かだろう。だけどそれはきっと、彼がトワの誕生日に合わせて予定を組んだからだ。
お祝いしてくれることも、時間を作ってくれることも。全部が全部嬉しいのは、それだけ彼がトワにとって大切な人だから。
そう告げて暫くすると、はあと小さく息を吐く音が聞こえた。
「……それをプレゼントにされたら、気軽に会いに行けなくなるだろ」
俺が会いたいから寄ってるんだ、とARCUSの向こうでクロウが呟く。そんな彼の言葉にトワは思わず笑みを零した。
「わたしも、少しの時間でも寄ってもらえると嬉しいよ」
「なら他も考えといてくれ」
「うん、分かってる」
楽しみにしてるね、と言えば「ああ」と柔らかな声が返ってくる。顔が見えなくても、なんとなく彼が笑っているのが分かった気がした。
「あまり仕事を抱えすぎんなよ」
「クロウ君こそ、無茶はしないでね」
彼のことだから大丈夫だろうと思いつつも気になってしまうのはお互いさまだ。また連絡すると言ったクロウに頷いて通信を終える。
パタンとARCUSを閉じたトワは窓の外へ視線を向ける。
欲しいものはまだ決まらない。そういえば、帝都に新しいカフェができたと生徒たちが話していた覚えがある。だけど、クロウと行くのならお酒の飲めるお店の方がいいだろうか。
トワが行きたい場所にすればいいと言われるのは分かっているけれど、せっかくなら二人で楽しめるお店がいい。もう少しゆっくり考えよう――と、静かに星空を眺めた。
一番のプレゼント
(あなたが傍にいてくれること)
(それだけで心にあたたかさが満ちていく)