「クロウって、意外とお酒に強くないよな」
数ヶ月振りに会った友人の唐突な発言に傾けていたグラスをゆっくりと戻す。
「何だよ急に」
「深い意味はないんだけど、ただ意外だなと思って」
おそらく本当にそれだけの話なのだろう。酒の席を共にしたのはこれで三度目。だが二人で飲むのは今回が初めてだ。考えてみればそういう話をする機会はなかったかもしれない。
「意外か?」
「まあ」
「つっても、こればかりは体質だからな」
自分でどうこうできるものでもないと言えば、それはそうなんだがとリィンはグラスを揺らす。あくまでもリィンが抱いていたイメージの話ということなのだろう。
「お酒は好きだよな」
「そこは両立するだろ」
「でもなんとなく、たくさん飲むのかと思ってたから」
なるほど、と思う。お酒が好きだからといって強いとは限らない。しかし、お酒が好きならそれなりに飲むのだろうと想像していたというのも分からない話ではない。
「飲んでることは飲んでるけどな」
「そうなのか?」
聞き返されて頷く。さっきも言ったようにお酒が好きなことと弱いことは両立する。
一度に飲む量は多くないが頻度は決して少なくない。つまり、先程リィンが口にした俺に対するイメージは間違っていない。そのように話せば納得した様子だった。
「飲みたいなら付き合うぜ?」
「そういう話ではないんだが」
念のために尋ねると予想通りの答えが返ってきた。もしそうならこんな遠回しな言い方なんかしないで直接言うよなと思いながらグラスを煽る。
「じゃあ逆か?」
あえて短く問いかける。
案の定リィンは「逆?」と繰り返した。その言葉に徐に口角を持ち上げる。
「リィン君は人を酔わせて何したいんだ?」
その意味を理解した瞬間、アルコールでほんのりと色づいていたリィンの頬がさらに赤く染まった。
「何もしない。というか、別にお酒を勧めてはないだろ」
「まあな」
思わず笑うとじとりとした目を向けられた。本当、いい反応をしてくれる。流れた月日によって様々なことが変わったけれどこういうところは変わっていない。だが。
「そういや明日は一日空いてるんだよな?」
初めのうちにした会話を頭の中から引っ張り出す。自由行動日は休日とは違うが、今のところ予定はないという話だったはずだ。
「そうだな」
「なら朝まで付き合ってくれるか?」
ぱちり、目を瞬かせたリィンがこちらを見る。
今さっき、リィンはそういった話ではないと否定した。けれどそれはあくまでもコイツの話だ。
「……それは、クロウが飲みたいってことか?」
暫くの間、視線を彷徨わせてから聞かれる。話の意図を掴みかねているのは少し前のやりとりのせいだろう。
「半分は正解だな」
もちろん、こっちは狙って言っている。ただ、いつものことで流されるのも困る。
今の関係に不満はない。けれど、満足しているかと言われたらそれも違う。一緒にいられるだけでよかったはずなのに、気がつけば次の欲が出る。
「残りは?」
「お前と一緒にいたい」
だから、その気持ちを酒の勢いに紛れさせるように告げる。こんな機会でもなければ言うこともなかったし、どちらに転んでも構わないと思った。
「……酔ってるのか?」
「酔ってはいるな。明日も明後日も、この気持ちは変わらねぇが」
いつからかなんて覚えてない。気がついた時にはもう遅かった。けど、出会った時から惹かれていたんだろう。
「…………ズルいな」
沈黙の後、リィンが呟く。
その一言に滲むものに、自然と口元が緩む。
「でも好きなんだろ?」
「自分で言うのか」
「ずっと前から好きだからな」
いつからか、その瞳に自分と同じものが宿っていると気づいた。こっちが気づいたのだからコイツも気づいていただろう。そう考えると今更な話だ。
「で、付き合ってくれんのか?」
あえて主語は抜いて尋ねると、青紫の瞳がこちらを映す。
言葉の意味はきっと伝わっている。少ししてリィンは口を開いた。
「付き合うよ」
ずっと、と続いた言葉に思わず笑みが零れた。
胸の奥にしまっていたものがじんわりと熱を持って広がる。
それだけで、もう十分だった。
胸の奥からあふれる想い
(零れた言葉のあとで)