君は聞こえなかったのか、不思議そうに首を傾げた
だから今度は大きい声で言ったらその顔が途端に赤くなっていく
それが面白くて笑ってしまった

Crow ver / Rean ver














*クロウから言う場合*



「愛してる」


 まったりと二人で穏やかな夜の時間をソファで過ごしながら、何となく言いたくなって口にしたその言葉。独り言に近いそれを聞き取れなかったらしい青紫の瞳がクロウを映した。


「クロウ? 何か言ったか?」

「んー」


 何でもない。そう答えるか迷ったのはほんの一瞬。迷ったのはそれが大切な人と過ごす幸せな時間に思わず溢れた気持ちだったから。
 しかし最終的にはやっぱりちゃんと伝えたいという気持ちの方が勝った。気が付けば五年ほどの付き合いになる相棒のことは言葉にせずとも分かることはお互い多い。けれど、言葉にしなければ伝わらないものというのも確かにあるのだ。


「愛してるよ、リィン」


 だからもう一度、今度ははっきりと聞こえるように想いを告げる。青紫の瞳を真っ直ぐに見つめて。


「え……」


 するとリィンの顔はみるみるうちに赤くなっていく。あまりに突然のことに驚いて言葉が出てこないのか、真っ赤な顔で口をぽかんと開けたままの恋人にクロウは思わず笑みを零した。
 出会ってから五年、付き合ってからは二年になるが可愛らしい反応をしてくれる恋人にクロウは胸があたたかくなるのを感じる。幸せだな、そう思うのは何度目になるのか。きっとこの先も何度だって思うのだろう。彼と、愛しの人と一緒にいる限りずっと。そしてそのことがまた幸せだなと思う。


「これからも一緒にいてくれ」


 ぎゅっとすぐ傍の手を握ってそう伝えたら「……こちらこそ」という小さな声が横から聞こえてきた。それにまたクロウの口から笑い声が漏れた。
 本当に愛しくてたまらない。心がたくさんの幸せで満ち溢れた。














*リィンから言う場合*


 一日を終え、夕飯を済ませて風呂から上がると同居人はソファに座って雑誌を眺めていた。そんな同居人の横に腰を下ろしたリィンは数秒ほど雑誌を眺めてすぐに視線を宙に投げた。
 今日の依頼は探し物が多かった。落し物から迷子の猫探し、倉庫の奥に紛れていたメモの宝探しまで。燦々と輝く太陽の下を一日中歩き続ければ日頃から鍛えていても少しは疲れる。そう一日を振り返ったリィンは今度は雑誌ではなくすぐ横の同居人を見て暫く、こてんとその肩口に頭を乗せて。


「愛してる」


 ぽつり、そう呟いた。
 殆ど音にならなかったそれはきっと届いていないのだろう。けれど何かを言ったことには気付いたらしい同居人はリィンの方を振り向く。


「どうした?」


 振り向き際に揺れた銀糸が僅かに顔を掠めてくすぐったい。そう思っていたら不思議そうな表情を浮かべた赤紫の瞳がリィンを映していた。
 その優しい眼差しにリィンの心にはじんわりと熱が広がる。だから、だろう。


「愛してる、クロウ」


 想いが溢れ、声に出る。
 ただ隣にいるだけであたたかい。好きだな、という気持ちが溢れて気が付いたら言葉になっていた。


「…………」

「………………クロウ?」


 何も言わない恋人のことが気になって顔を上げたリィンの視界に飛び込んで来たのは真っ赤な顔をした恋人。予想外の反応にリィンはきょとんとし、それから思わず笑みを零した。


「クロウでもそういう反応をするんだな」

「……お前がいきなりとんでもないことを言うからだろ」


 ああくそ、と顔を逸らすクロウにリィンはまた笑う。いつもはクロウにしてやられてばかりだからこういう反応は新鮮だ。好きだという言葉も普段は大抵クロウから告げられる。リィンが自分から言ったことは殆ど――もしかしたらこれが初めてかもしれない。こんな反応が見られるならもっと早くに自分からも言ってみれば良かったなと思いながら、溢れる気持ちは留まるどころか膨らむばかり。


「愛してるよ、クロウ」


 また一つ溢れた言葉にちらっと赤紫がこちらを捉えたかと思うとそのまま唇を奪われた。










愛してると伝えたら』という診断メーカーをお借りしました。