「愛してる」
突然聞こえてきた声にとくん、と心臓が鳴る。
ページを捲ろうとした手を止めたリィンは徐に隣へ視線を向ける。すると、目を細めてこちらを見つめている赤紫の瞳とぶつかった。
聞き慣れた声が紡ぐ、特別な言葉。
たった五文字のそれにとくとくと鼓動が早くなる。
「…………」
何かを言おうと口を開きかけたリィンだったが、結局そのまま何も言わずに唇を結んだ。顔に熱が集まりはじめたのが自分でも分かった。
ふい、と思わず顔を逸らす。
けれど、すぐ横に座っている恋人には無意味だったかもしれない。くくっと笑う声が耳に届いたのは間もなくのことだった。
「本当、可愛いよな」
誰が、なんて部屋に二人しかいないこの状況で聞くまでもない。しかし、可愛いは男に対する褒め言葉ではないだろう。だからといって格好いいと言われたいわけではないけれど、可愛いと言われても嬉しくはない。
そんなわけないだろ、と。
心の中で不満を呟いた時のことだった。
「……だがまあ、お前が慣れちまったら少し寂しいかもな」
ぽつり。隣から聞こえた言葉にリィンはゆっくりと振り向く。クロウの視線はいつの間にか宙に投げられていた。
その横顔に胸がぎゅっとなる。
そういう顔をさせたいわけではない。そう思った時、リィンの口は自然と動いていた。
「……俺は、もっと。ちゃんと、慣れたい」
どうやったら上手く伝えられるのか。考えながら言葉を並べるリィンを赤紫の瞳が映した。
「すぐには無理だけど、俺もクロウに言いたいから」
クロウと恋人になった時、リィンも自分の気持ちをクロウに伝えた。けれど、普段は恥ずかしくてなかなかクロウのように言葉にすることができないでいる。
――でも、この気持ちに偽りはない。
本当はクロウと同じようにこの気持ちを伝えたい。クロウからもらった言葉と同じだけ、いやそれ以上に。大切な言葉を贈りたい。
「そうしたら、寂しくないだろ?」
だからもう少しだけ、付き合ってくれないか。
「……っとに、お前は」
はあ、とクロウは溜め息を吐く。それからじっと、熱のこもった視線を向けられて、とくんとまた一つ。心臓が大きな音を立てた。
「なあ、キスしてもいいか?」
律儀に問いかけた恋人にぱちりと瞬いた後、リィンは思わず笑みを零した。
多分、また顔は赤くなっているのだろう。だけど断る理由なんてない。
答えの代わりにそっと目を閉じる。
程なくして、唇に柔らかな熱が落ちた。
fin
『愛してると伝えたら』という診断メーカーをお借りしました。
【愛してると突然言われた。いつまで経っても言われなれなくてうまく答えられない自分に相手はかわいいなどと言ってくる。そんなわけあるか、と思って不貞腐れていると慣れられたら寂しいと呟く声が聞こえた】