「綺麗だな」
色鮮やかな大輪が友の顔を照らしては消えていく。一つ、また一つ。夜空に咲き誇る花が青紫に光を灯す。
「そうだな」
今日は花火大会があるらしい。
そう言って引っ張り出したリィンはすっかり花火に夢中になっていた。たまには息抜きも必要だろ、と。コイツの手を引くことのできる人間は俺だけではない。
旧Z組の仲間たちに教え子たち、同僚のトワ。他にもきっと、たくさん。出会った頃からコイツの周りは多くの人であふれている。そして頑張りすぎるきらいのあるコイツのことを彼の周りの人たちはよく知っている。
だから、その役目は別に俺でなくてもいいんだろう。それでも、この役目を他のヤツらに譲りたくないと思うのは――。
「リィン」
振り向いた友にそっと、唇を寄せる。
遠くで赤い花が派手な音とともに咲いた。赤い花に照らされて、彼の瞳が大きく開かれたのが分かった。
花が散り、静寂と沈黙が訪れる。
五秒、いや十秒は経っただろうか。夜空に青い花が咲いた時、今度はリィンが自分の唇を押し当てた。
何も言わず、ただ重なった唇。触れ合ったその場所は夏の暑さなんかよりずっと、熱い。花火の音が徐々に小さくなるのをどこか遠く感じた。
再び静寂が訪れると、リィンはじっとこちらを見つめていた。その意味を、俺達は本当はとっくに知っていた。
幾つもの花火が連続で打ち上がる。混ざる熱はどこまでも深く、溶け合った。
「なあ」
熱に溶け、交わった視線。
どちらともなく笑い合った俺たちは長い年月を経て、漸く答え合わせをした。
fin
『君と過ごす夏』という診断メーカーをお借りしました。
【紅葉 秋菜のクロリンの夏。打ち上がる花火に照らされる君の横顔が、どうしようもなく眩しくて、溶け合ってしまうようなキスをした】