徐々に増えていた淡い光の粒がついに満ち溢れ、一際強い光が一面を覆う。あまりの眩しさに目を閉じたのはほんの僅かな時間だっただろう。だがその一瞬で光は消え、目の前にいたはずのその人の姿も光とともに消えてしまった。


「まるで夢でも見ていたみたいだな……」


 周囲を目で確認した上で気配も探ってみるがやはり今ここには自分しかいない。あえて早朝の人のいないような時間を狙ったのだからそのこと自体は別段おかしくもないが。


「……未来の知り合い、か」


 いや、あれはただの知り合いではない。自分のことを大切だと話したあの人にとって、自分はその程度の相手でないことくらいは自分を映す青紫の瞳を見れば一目瞭然だった。具体的に自分が彼にとってどういう存在かは分からないけれど、クロウはあの眼差しに覚えがあった。
 ――というよりも、少し前まではごく身近にあったのだ。だから、分かる。あの人がどれだけクロウのことを想ってるのか。ただし、彼が本当に大切に想っているのは今ここにいるクロウではないけれど。

 ちら、と後ろを振り向こうとして途中で止める。もう決めたことだ。後戻りをするつもりはない。気になることがないわけじゃないが、今は自分の決めた道を進むしかない。
 おそらく、全てが思うようにはいかないのだろう。当たり前といえば当たり前だがそれはクロウが知らない彼、つまりは未来で出会うであろう彼の存在が証明している。けれど、どちらにしてもクロウにとっての選択肢は一つしかなかった。


「もし、俺が未来を変えたらどうするんだろうな」


 呟いた小さな音は潮風に乗ってあっという間に消えていく。そしてクロウはふっと小さく笑みを浮かべた。

 この先、何度も色んな選択肢を選ぶ機会はやってくるだろう。そのどれをどう選んで、彼との未来に辿り着くのかは分からない。しかし、クロウが決めた道を真っ直ぐに進めばそこへ辿り着くに違いない。
 そう。わざと道から外れるようなことをしない限り、彼との出会いはきっとやってくる。その未来で目的が達成できているかを知る術はないし、知ろうとも思わない。ただ。

 ――あの人との未来には、興味が湧いた。

 ああも自分を大切な人だと言い切る相手との未来。もうそんな人と出会うことはないと思っていたけれど、また、誰よりも大切だと思える人に巡り会う日が来るのか。
 今更それを望む気なんてなかったというのに、結局は置いていくつもりだった全てを捨てきることはできないのかもしれない。でも、それを選んだのもきっとクロウ自身だ。


「……本当に、今日はよく晴れたな」


 何となしに見上げた空は、どこかで見たのと同じようなとても澄んだ綺麗な色をしていた。眩しいほどの太陽に僅かに目を細め、やがてクロウはゆっくりと歩き出す。
 今はただ一つの目的のため。大好きだった祖父と、祖父が愛した街とは今日でさよならだ。
 たとえそれがどんな道でも、何より大切だったその人はこの選択を間違いだと咎めるかもしれないけれど、弟子としては師匠の敵を討たずにはいられない。これも時代の流れだとしてもそう簡単に納得なんてできないだろう。

 だけどもし、あの人の言ったことが本当なら。
 次に会った時は名前を聞くことから始めてみよう。まずはそこからだ。











fin