「リィン!」
あちこちで声援が飛び交う中、よく知る声に呼ばれたリィンは立ち止まる。
現在の種目は借り物競走。そういえばこの競技に出ることになったと言っていたなと思いながら振り返ったリィンの前で太陽の光を浴びた銀が煌めいた。
「何か必要か?」
「話が早くて助かるぜ」
どれが必要なんだろう、とすぐ近くにある体育祭の備品を見る。生徒会役員として仕事をしていたリィンに元へ来た理由はこれだろう。
そう思ったのだが、クロウが手に取ったのは後ろの備品ではなかった。
「走るぞ」
ぱしっという音と共に幼馴染みが掴んだのはリィンの手。え、と零した時にはその手を引かれた。
「クロウ! 借り物競走に出ていたんじゃ……」
「だからこうして走ってんだろ」
そして宣言通り、クロウは走り出した。
一声掛けられていたお陰で転ぶことはなかったものの予想外のことにリィンは困惑する。やはり借り物競走の探し物をしていたようだが、一体何のお題を引いたのか。
気になるけれどまずはゴールが先だろう。仕方なくリィンはクロウに合わせて足を進めた。
□ □ □
「恋人の方がよかったか?」
無事にゴールをしてお題の確認を済ませた後、不意に聞こえてきた声にリィンは顔を上げた。
「……どうしてそうなるんだ」
「後輩だと不満だったみたいだからな」
「そんなことは言ってないだろ」
今回、クロウが引いたお題は『先輩/後輩』だった。借り物競走という名前だが、どうやらこれは物に限られた話ではなかったらしい。
「でも、ドキドキしただろ?」
緩く口の端を持ち上げてクロウが言う。
そのあたたかな眼差しに胸が熱くなったのを感じたリィンは僅かに顔を逸らした。
「……昔はよく繋いでいただろ」
「小さい頃のリィン君も可愛かったよな」
「小さい頃はクロウも可愛かっただろ」
言えば、隣から小さく笑い声が聞こえた。今は、なんて今更言う必要はないだろう。どうせこの幼馴染みには全部バレているのだ。
「なあ、リィン」
今度久しぶりに手を繋いで帰るか?
そう言って笑った幼馴染み兼恋人にリィンは「考えておく」とだけ答えておいた。
fin
『青春を駆け抜けろ』という診断メーカーをお借りしました。
【秋の紅葉 秋菜のクロリン:体育祭の借り物競争に参加していた相手に手を引かれ連れ出される】