「クロウ、そっちは……」


 終わったか、と尋ねようとしたリィンは何かを見ているらしいクロウの姿に言葉を止めた。そして彼の傍まで近づくと改めて声をかけた。


「何をしてるんだ?」

「ああ。ここにアルバムがしまってあったみたいでな」


 部屋の片付けの途中で何かを見つけて作業が止まってしまう、ということはまあよくあることだろう。
 言われてみればアルバムをこのあたりにしまっていたなと思い出したリィンは「そういえばそうだな」と頷いた。だが、クロウが見ていたアルバムの中身に気がついて首を傾げる。


「……何で人のアルバムを見ているんだ?」

「自分のを見たってつまらねーだろ」


 そんなことはないと思うのだがクロウは気にせずまたひとつ、ページを捲る。そこに映っているのは幼い頃のリィンとクロウの姿だった。


「俺のを見たところで大体の写真はクロウと一緒だと思うんだが」

「ならやっぱりお前のを見る方が面白いじゃねーか」

「何でそうなるんだ」


 おそらく、クロウのアルバムを開いてもリィンと映っている写真が多く載っていることだろう。幼馴染みで小さい頃からよく一緒に遊んでいたため、アルバムのどこを見ても一人より二人で映っていることが多い。
 だから人のアルバムを見なくてもいいだろうと思ったが、言ったところで結局同じならどっちでもいいだろうと返ってきそうなものである。はあ、と溜め息を吐けば「幸せが逃げるぞ」なんて言われるが誰のせいだと思っているのか。


「それより、部屋の片づけはどうしたんだ」

「今やってるだろ」

「完全に手が止まっているんだが」

「ちょっと休憩してただけだ」


 とてもそうは見えないと言えば気のせいだと主張される。しかし、誰がどう見ても気のせいではないだろう。リィンは自分の分の片づけを終えたというのに、こちらはまだ半分くらい残っているのではないだろうか。


「それなら休憩は終わりにして早く続きを――」

「まあ待てって。こうして見ると結構おもしろいモンだぜ?」


 お前も一緒に見ようぜと進めてくる同居人にリィンは再度溜め息を吐く。これではいつまで経っても掃除が終わらない。しかし、クロウはそんなリィンの様子など気にせず続けた。


「昔はよく近所の公園に遊びに行ったよな」


 写真に収まる幼い頃の自分たちは、泥だらけになりながらも楽しそうに笑っている。
 それを聞いて確かに懐かしくはあったリィンは諦めてその隣に腰を下ろした。


「いつもクロウは無茶な遊びをしようとしていたな」

「無茶なことはしてねーよ。俺は新しい遊びをだな……」


 今日はこれをやってみよう。あれを使ってみたら面白いんじゃないか。向こうの方に行ってみよう、と幼いクロウの口からは毎日新しい提案が出てきた。当時もクロウはよく色んな遊びを思いつくなと感動したのだが、今改めて思い返してもやはりその発想力はすごいと思った。


「でも、よくあんなに色んな遊びを思いついたな」

「発想力が豊かなんだよ」


 それは確かにその通りなのだろう。実際、クロウは頭の回転も速い。
 真面目にやればテストで悪い点を取ることもないだろう、と零すと買いかぶりすぎだとクロウ本人は言う。そんなことはないと思うのだが、少なくとも赤点ギリギリなのはやめてもらいたいというのがリィンの本音だ。高校時代、それで何度補習になりそうだという話になったことか。


「これとか懐かしいよな。四つ葉のクローバーを遅くまで探してたらものすごく怒られたな」

「あれは没頭しすぎた俺たちが悪いだろう」

「まあな。だがこの時の四つ葉、まだちゃんとあるんだぜ?」


 予想外の発言に「え?」と声を漏らすと、クロウは小さく笑って立ち上がった。
 多分この辺だったと思うんだがなと引き出しを開けたクロウは程なくしてリィンの元へと戻ってくる。


「ほら」


 そう言って差し出されたのはしおりになった四つ葉のクローバーだった。まさか、こんな形で当時のものを残しているなんて思わなかったリィンは目が丸くなる。


「他にも、意外と昔のものって残ってるモンだぜ」

「……そうなのか」

「お前は?」


 聞かれて、リィンはきょとんとした。だがすぐに微笑みを返して答えた。


「俺も、大切なものは全部残してあるな」


 だって、それは大切な人との大事なものだから。
 全部が全部とってあるわけではないけれど、四つ葉のクローバーは同じように押し花にして残してある。他にも幾つも、クロウとの思い出を小さな箱にしまっている。


「へえ。お前のも見てみたいな」

「それじゃあ片づけが終わったらな」

「片づけなんてあとでもいいじゃねーか」

「駄目だ」


 そんなことを言い出したらいつまで経っても終わらないだろうとリィンは正論を返す。それからリィンが立ち上がると、クロウも諦めたように立ち上がった。
 ならとっとと終わらせるか、と呟いたクロウに頷いて二人で片づけを再開する。そして、そのあとは懐かしい思い出話をするとしようか。







(それは君との大切な思い出)