「真ちゃん!」


 ボールが手から放れて真っ直ぐに進む。その軌道の先には、秀徳のエース。迷いなく飛んできたパスをしっかり受け取ると、そのままボールは綺麗な弧を描いてゴールに向かう。高い高いループを描き、そのシュートは落ちることなくスパンとネットを潜る。
 自陣側のコートまで戻って行く相棒に「ナイシュー!」と声を掛ければ、こちらを見て微笑むと「ナイスパスだったのだよ」と返される。それを聞いてニカッと笑うと、そのまま拳を伸ばしコツリと重ね合わせた。

 コートの上でただひたすらにボールを追いかける毎日。それがオレ達の日常。




常。





 目が覚めて近くにある時計を確認すると、まだ時刻は朝の六時を示していた。休日でもこんな時間に起きてしまうのは日頃の習慣だ。休みなのだからこのまま二度寝、なんて選択肢も頭をよぎるが休みだろうとそうでなかろうと朝食の支度をしなければいけない。それにしたってこんなに朝早くからやる必要もないといえばそうだが、これが今の日常なのだ。


(今日も天気は良さそうだな)


 雲一つない青空に、たまには外に出掛けてみるのも良いかもしれないと考える。せっかくの休日なのだからそういう過ごし方も有りだろう。逆に、せっかくの休日だから家でゆっくり過ごすという考え方もあるけれど。その辺はまた後で考えれば良いかと片付けて、高尾は朝食の支度を始める。
 エプロンをつけてキッチンに立つと冷蔵庫から必要な物を取り出す。料理は手慣れたもので無駄な時間を使わずにテキパキと動きながら一汁三菜を用意する。


(それにしても、あの頃の夢なんて久し振りだな)


 あの頃、高校生だった頃。毎日ボールを追い掛けて、必死になって練習して、ひたすら上を目指して。強くなりたい、このメンバーで勝ちたい。もっと実力をつけて一緒に頂上を目指すんだって、そんな風に過ごしていた。朝から晩まで常にバスケのことばかり。だけど、あの頃は本当に楽しかった。
 だからといって今が楽しくない訳ではない。あの頃とは違うけれど、今には今の幸せがある。当時の仲間達とは今でも付き合いがある人が多い。同じ部活の先輩に他校の同級生。バスケを通じて知り合ったその人達の中で今もバスケを続けている人は少ないけれど、バスケは彼等との繋がりを作ってくれた特別なモノ。


「もう起きていたのか」

「あ、真ちゃんおはよう。もうすぐ朝食出来るから待ってて」


 リビングにやって来た緑間にそう言って高尾は出来上がった料理をお皿に盛り付ける。
 かつての相棒である緑間と高尾は、高校を卒業してから一緒に暮らしている。二人共進学を選び、学校は別々だったがどちらも家から通うには少し遠い。それならルームシェアをしないかと高尾が持ちかけると、緑間は二つ返事で頷いてくれた。それで互いの大学の中間くらいの位置にある部屋を一つ借りてルームシェアを始め、大学を卒業した今でもそのまま二人で暮らしているのだ。


(ルームシェアしない? って聞いた時、断られると思ってたんだけどな)


 高校を卒業したら別々の道に進んで行くことは前から分かっていたことだけれど、やっぱりこの先も一緒に居たいと思った。バスケから離れるのはお互い様だったから、ちょっと寂しいけれど仕方のないこと。バスケを止めたところで、二人が秀徳で積み上げてきたバスケがなくなる訳ではない。今もこれからも、唯一無二の相棒であることに変わりはないのだ。同じように、卒業しても二人の関係に変わらないけれど会う回数は当然減ってしまうだろう。
 別の学校に進学するけれど、卒業してからも一緒に居たい。そう思って高校三年生のある日、ルームシェアのことを緑間に言ったのがきっかけだった。そのまま意外にすんなりと決まったルームシェアは、気が付けば部屋探しまであっという間に終わった。それもどうせなら部屋選びも人事を尽くすべきだと緑間が物件を幾つか探してきてくれたお蔭だ。そんな緑間の行動には思わず笑ってしまったけれど、彼らしい行動だなと思いながらこの部屋を二人で選んだのも今となっては懐かしい思い出だ。


「どうかしたのか」


 テーブルに料理を並べて食べ始めると、緑間がそんなことを尋ねた。いきなりそう聞かれても何のことか分からない。だから「何で?」と聞き返すと、お前の機嫌が良さそうだからと答えられた。別にいつも機嫌が悪いとかそういう訳ではないから、いつもと比べてという意味なのだろう。


「ちょっと昔の夢見てさ。高校生だった頃のこと思い出してた」

「高校生の頃、か」


 毎日バスケに打ち込んでいた日々。暇があればバスケ。何かするならバスケ。いつだってバスケばかりで、他のどんなことよりも優先して、引退するまでは勉強よりも常にバスケが上にあった。
 秀徳高校は文武両道の学校だったから、いくら部活優先とはいえ勉強にもちゃんと取り組んでいた。成績は二人とも優秀だったからあまり勉強面で苦労したことはなかったかもしれない。尤も、その勉強も部活の合間にやっていたからこそだ。
 他にも、高校生の頃は色んなことをやっていた。学校帰りに買い食いをしたり、オフの日には高尾が緑間を連れ回したり。高校生活には沢山の思い出が詰まっている。


「出会った当初は、まさかこんなに長く真ちゃんと一緒に居るなんて思わなかった」

「高校で会った頃は軽率そうな奴であまり関わりたくないと思ったな」

「それは酷くね?」

「お前も似たようなものではないのか?」


 高校に入学して出会った二人。本当の初対面は中学時代だが、緑間の方は覚えていない上にまともに話してさえいない。ちゃんと会ったのは入学してからで、先に声を掛けたのは高尾の方。あの時はお互いに相手に良い印象は持っていなかっただろう。
 それが変わったのは、バスケというスポーツを同じチームでやるようになってからだ。秀徳バスケ部に入部した二人は、その中で多くの出来事を経験した。バスケを通して、相手の本質が見えてくるようになった。  相手がどういう性格なのか。どういう奴なのか。それを知って、いつしかお互いに認めるようになっていた。チームメイトから相棒に変わったのがいつだったのかなんて聞いたこともないけれど、高校でコイツに出会えて良かったと今はお互いに思っている。


「でもまあ、オレは真ちゃんと同じチームになれて良かったよ」

「それはオレも同じなのだよ」


 同じチームになれて、秀徳を選んで良かった。
 まだ一緒にバスケをしていたい、とは部活を引退する時に思った。まだ一緒に高校生活を送っていたい、とは卒業をする時に思った。
 時間は止まることなく流れるものなのだから、そんなことは無理だと分かっている。辛いことや苦しいこともあったけれど、それ以上に楽しくて幸せな思い出が沢山あって。充実していたからこそ卒業するのが寂しかった。結局その後も二人は一緒に暮らしているのだけれど、そう決める前までは引退や卒業で少しずつ二人の間にあったものがなくなっていくんだろうななんて考えたこともあった。それが嫌だったから、この道を選んだのだけれども。


「そういえば、真ちゃん今日何か予定ある? なければ久し振りどっか行こうよ」


 しんみりとした空気になったところで、話題を変えようと高尾は今朝考えていたことを尋ねてみる。せっかく天気も良いんだし、と付け加えれば「そうだな」と否定はされなかった。続けて「どこか行きたい場所でもあるのか?」と聞かれたから、高尾が出掛けたいのならば付き合っても良いということらしい。
 それならば今日の予定は決まりだ。高尾はこの間雑誌で見たんだけど、と言いながら幾つか場所を挙げていく。その中には新しく出来たらしい甘味処も含まれていて、そういう気遣いをするところは昔から何も変わっていない。


「お前のそれは無意識なのか?」

「それ? ああ、美味しい甘味処を探すこと? 無意識じゃなくて、真ちゃんが好きだから探してるだけだぜ」


 雑誌を開いて有名なお店のページがあると、つい甘味処を探してしまう。これはもう癖みたいなものだ。高校生だった頃も飲み物を買う時に一緒にお汁粉を買ったり、これ真ちゃんが好きそうだったからなんて言って渡したこともあった。どれも高尾が勝手にやっているのであって頼まれていたことではないけれど、喜んで貰えるのが素直に嬉しかったのだ。先輩と揉めればすぐに間に入ったり、高尾は何かと緑間の世話を焼いていた。それも全部、この友人がただの友人ではないから。
 同じ部屋で暮らしていても、別の学校に通っているのだから一緒に居られる時間は限られている。それでも一緒に居る時間は幸せで、今でこそ当たり前になっている毎日がずっと続けば良いのにくらいは思っている。当たり前のように大学を卒業して社会人になってもルームシェアをしているけれど、それが永遠に続くモノではないことくらいは理解している。


「あとさ、帰りにスーパー寄りたい。冷蔵庫の中身少なくなってきてるから」

「分かった。他にも必要な物はあるか?」

「んー特にはないかな。真ちゃんはなんかある?」

「オレは何もないのだよ」


 それなら今日はこう回れば良いかなと纏めた高尾に、何時頃出るのかと尋ねるこのやり取りも今では日常の一つだ。食器を片付けてたりしないといけないから九時半くらいと高尾は答えた。もう少し前に家を出ることは可能だが、早く家を出ても店が開いていなければ意味がないのだ。急ぎの用事でもないしこれくらいなら丁度良いだろうという判断だ。
 そんなことを話している間にも手はしっかり動かされ、お皿の上の料理は綺麗になくなっていた。どちらともなく食器を纏めてキッチンへと運ぶ。そのまま食器を洗おうとする高尾の腕を緑間は掴むと、後はやっておくとだけ言って水道の蛇口を捻った。いきなり下がらされてきょとんとしていた高尾だったが、すぐに微笑むと「ありがと」と伝える。
 緑間が食器洗いをしている間、高尾は洗濯物をベランダへと干す。こうして分担をするといつも以上に家事は早く終わるもので、出掛ける予定の一時間前には一通りの家事が終わってしまった。


「案外早く終わちまったな」


 再びリビングに戻ってきた二人は、家を出るまで特にやることもないのでココアを入れてソファに腰を掛けた。出掛ける支度はするけれど女性のように化粧をしたりする訳でもないのでまだ必要ない。だから自然とそれまでの時間はと二人で過ごす流れになる。
 二人で出掛けるのも久し振りだが、実は二人の休日が重なるのも久し振りだ。休日はあるのだがなかなか合わず、おそらく数週間振りになるのではないだろうか。社会人になって生活環境が変わり、学生だった頃以上にお互いの生活リズムが合わなくなった。
 それでも食事は出来る限り一緒にするようにしているけれど、同じ屋根の下で暮らしながらも高校生の頃の方が一緒に居ただろうことは間違いない。あの頃は家が別でも生活リズムは一緒だったからな、と彼の帰りを待ちながら考えることも少なくない。言葉にしたことはないけれど。


「真ちゃんは最近仕事どう?」

「どうもなにも、いつもと変わらないのだよ」


 まぁそれもそうか、と聞きながら一人納得する。逆に自分が聞かれても同じようにしか答えることはない。そういえば、こうやってゆっくり話すのも久し振りである。


「あ、今度みんなで飲み行かないかって連絡来てたんだけど」

「誰からだ」

「黄瀬。多分キセキの奴等や火神とかが来るんじゃね? 真ちゃんにも聞いといてってメールが来てさ」


 昨日送られてきたメールを表示して緑間に直接見せる。そこには先程高尾が説明した通りの内容が表示されている。高尾へのメールで緑間のことも聞かれているのは、二人が大学生の頃からルームシェアをしていることは周知の事実だからだ。それに忙しくてメールを見ていなかったということになるよりこの方が確実だと判断されたようで、二人宛のメールは高尾に纏めて送られることも多い。
 本当は昨日のうちに言うつもりだったけど忘れていたと話しながら、なんて返せば良いかと高尾は尋ねる。彼等とは高校の時からの付き合いだが、そういえばここの所はずっと会っていなかったかもしれない。全員忙しい身でなかなか共通した時間が取れないのだ。


「お前はどうする」

「オレは真ちゃんが行くなら行こっかな。キセキで集まんのにオレだけ行ってもしょうがないっしょ」

「アイツはそんなこと考えていないだろう」

「だろうね。でも行くなら真ちゃんと一緒がいいし。んで、なんて返せば良い?」

「その日が空いていれば行くとでも送っておけ」


 適当な答えだったが、高尾は「了解」と答えると簡潔に本文を打ち始める。先程の言葉が行くと返せば良いという意味なのだということくらい高尾はすぐに理解している。緑間だって友人達に久し振りに会うのも悪くないとは思っているのだ。
 ただ、大学を出て医師になった緑間は急に仕事になることもあるのだ。高尾はそんな緑間の気持ちも事情も知っているし、周りの友人達だってそれは分かっている。加えてそれは緑間に限らず、モデルから俳優になりテレビによく出演している黄瀬だって似たようなものである。全員の予定を合わせるのはなかなか難しいのだ。そうはいったが、今のところその日は休みになっているからおそらくは大丈夫だろう。
 高尾が黄瀬に返信している間、緑間は高尾をただ眺めていた。はっきり言葉にせずとも理解して、どんなに遅くなっても笑顔で迎えてくれる長い付き合いの友人。


(無理している時くらい分かるのだが、気付かれていないと思っているのだろうな)


 高校生の頃からそうだ。喜怒哀楽が顔に出て表情がコロコロ変わる反面、自分の気持ちを隠してポーカーフェイスを保つことも得意としている。高尾が緑間のことを分かっているというなら、同じだけ緑間も高尾のことを分かっている。それくらいのことは互いに理解しているのだが、相手がどこまで自分のことを理解しているのかまでははっきりと分からない。
 これだけの長い期間一緒に居てもまだ分からないことはある。意外なところで新しい発見があったり、いつも見られる日常では幸せの欠片を見つけたり。


「高尾」


 メールを打ち終わったところを見計らって声を掛けると、パタリと携帯を閉じたのと同時にくるりとこちらを見て「何?」と返された。何の変哲もない休日。いつもの休日のように二人で過ごして終わるだろうと思われているそれに変化があったなら、彼はどのような反応を見せるのだろうか。
 時計はカチカチと時を刻み、二人にとっての日常が広がっている世界。その日常もこれまでに何度か変化してきた。高校時代、大学時代、社会人になってからの今の生活。次の変化は…………。


「好きだ」


 たった三文字。けれど、二人の日常を変える大きな意味を持つ言葉。
 それが意味するものが何なのか、理解出来ないほど子どもではない。それが冗談から言われるものでないことも、今更友達として好きだと言われているのではないということも分かる。
 何よりその声が、瞳が、真剣な色を含んでいるのだ。


「オレはお前から離れるつもりはない。お前はいつかこの生活に終わりが来ると考えているかもしれないが、オレはこの先もお前と暮らしていくと思っている」


 気付いていた。高尾がいつか来るかもしれない終わりを気にしているということに。本人は上手く取り繕っているつもりなのだろうが、時折不安そうな表情で話をしている。同級生に恋人が出来たという話や結婚をするという話を聞くたびに、いつかはそういう日が来るんだろうなとどこか悲しげに話すのだ。
 恋人や結婚の話は二人にとっても無縁ではない。だから、次にこの生活の変化が起こる時はそういう時なんだろうと考えているだろうことは緑間も気付いていた。普段は変わらず笑顔を振りまいているが、いずれ来ると思っているからか時々表情に出ているのだ。
 もうそんな表情をさせたくないから、今。はっきりと伝える。


「高尾、ずっとオレの隣にいろ」


 胸の内に秘めていた想いを形にして伝える。オレはお前以外を選ぶことはないのだと。これからも隣に居て欲しいのだと。
 そんな緑間の言葉を高尾は驚きながらもしっかりと聞いていた。最後まで聞き終えて、真っ直ぐに翠の瞳を見つめる。それからふわりと笑ってゆっくりと口を開いた。


「なんかもうプロポーズなんだか告白何だか分からないよ、真ちゃん」


 まだ付き合ってもいないけれど、それは告白というよりはまるでプロポーズみたいなもので。付き合っていないものの自分達は高校で出会ったあの日から十年もの付き合いをしていて。
 お互いのことは分かっている。もしかしたら自分より相手の方が自分のに詳しいんじゃないかというくらい互いのことを知っている。バスケというスポーツでの相棒で、ただの友達というよりは親友と呼べるような相手で。けれどそこまでの関係でずっとここまで来たというのに、突然こんな話になるなんて誰が予想出来るのか。


「当たり前じゃん。オレはずっと真ちゃんの隣にいるよ。誰にも譲るつもりはないからね?」

「譲らせるつもりもないのだよ」


 そっか、と安堵した高尾の頬にはつうと涙が伝う。それを隠すように隣の緑間に抱きついた。その涙は悲しいからではなく、嬉しさからくるもの。それは緑間も分かっているから、抱きついてきた高尾をぎゅっと抱きしめてやる。
 高校一年だった頃と比べればお互いに身長も伸びたけれど、二人の間にある差は結局埋まることはないまま。そんな緑間からしてみれば小さな高尾の体は、すっぽりとその腕の中に納まる。


「遅いよ。分かってたならもっと早く言ってくれれば良かったのに。オレがどれだけ……」

「すまなかった」

「ううん、ごめん。オレだって何も言わなかったんだから、どっちもどっちだよね」

「いや、悪かったのだよ。オレの言葉が足りなかっただけだ」

「そんなことないよ。ちゃんとオレは分かってるから」


 言わなかったのはお互い様。ただ一緒に居られるだけで幸せで、本当に大切な言葉は口にせずにここまで来てしまった。いつからかなんてもう覚えていないけれど、何年も前から互いに相手のことが大切だった。友達、相棒、それだけに収まらないくらい。大切で、好きになっていた。
 気持ちを伝えるまで時間はかかってしまったけれど、心のどこかでは分かっていたのだろう。自分が相手を好きなことは勿論、相手が自分を好きなことも。


「高尾、手を貸せ」


 上から落とされた声に高尾はきょとんとしながら、背に回した腕を解いて右手を差し出した。けれど緑間はそっちじゃないと言って左手を取った。
 そして、その手の薬指にリングを通した。それが意味することくらい、高尾も当然知っている。


「だから真ちゃん、これじゃあ告白飛ばしてプロポーズしてるみたいなんだけど」

「プロポーズをしているのだから当然だ。何年待ったと思っている」


 待ったと言いながらも言葉にしたことなんてなかったけれど、いつかは伝えようと思っていた。生活も安定して二人でやっていけるようになってから、ちゃんと告白する為にリングも用意して。準備をしっかりしてから告白をしただけのこと。
 準備以前に順番が間違っていないか、とは思ったけれど今更どうでもいいかとも思う。それが緑間らしいし、これまでだって付き合っていたようなものだ、なんていうのは流石にちょっと無理があるかもしれないけれど。その分はこれから埋めていけばいい。時間はまだ幾らでもあるのだから。
 まずは恋人から。言えば妻で良いだろうなんて言われてしまったが、正直そんなのはどっちでも良い。お互いが相手のことを好きで、この先もずっと一緒に居たいと思っている。その事実さえあれば、そんなことは気にするほどのことでもない。


「オレも好きだよ、真ちゃん」


 そっと触れ合う唇。そこから混ざり合う二人の体温。
 ほんのりと染まった頬に微笑みを浮かべて、もう一度口付けを交わした。

 二人の日常が変わる。
 高校生だった頃の日常、大学生だった頃、社会人になった頃。
 そしてこれからは、恋人としての日常に。

 これからもずっと、オレの隣にいろ。もうくだらないことは考えるな。
 分かってる。真ちゃんもオレを離さないでね。










fin