「アナタのことがずっと前から好きでした」


 付き合って下さい。
 男女が二人、人気のない教室で向かい合う。漫画でもよく見る告白場面。女子生徒は自分の胸の内を精一杯の言葉で伝える。胸が高鳴るのを抑えて、ほんのりと染まった頬は夕日に隠れているだろうか。気付かれないように、この気持ちを隠して。








「どうだった?」


 玄関で靴を履きかえて校庭を二人で並んで歩く。一歩分前に出て振り返りながら尋ねるのはつい先程の告白のことだ。
 ただし、尋ねているのは告白の返事という意味ではなく告白の出来という意味で。


「なぜオレがこんなことに付き合わねばならんのだよ」

「またまた。ちょっとくらいドキッとしたっしょ?」


 さて、ここで一度状況を整理しよう。オレは今さっき告白したばかりだ。結果は特になし。というのも、先程の告白はただの練習。本当の告白ではないのだ。
 どうして告白練習をしていたのかといえば、当然本命が居るからだ。好きな人が居るという話から告白はしないのかという話になり、そんな勇気はないからという話だったのがいつの間にか告白練習をするということになり。その話に付き合わされていた幼馴染がそのまま練習相手に抜擢されたワケである。


「で、どうだったの? ダメ?」

「…………なんとかなるんじゃないのか」

「なんとかってなんだよ。真面目に答えろってば」


 適当に答える幼馴染に頬を膨らませて文句を言う。こんなことを聞かれても困るかもしれないが、練習なのだからどうだったのか教えて貰いたい。全然ダメなのであれば別の告白を考えなければならないし、大丈夫ならば練習通りに告白する。
 なんとかなるというのも答えなのかもしれないけれど、もっと明確な答えが欲しい。普段ならこんな曖昧な答え方なんてしないのに、やっぱり告白練習なんてものに付き合わせてしまったからだろうか。嫌だとは言われなかったけれど、幼馴染とはいえど好き好んでやりたいことではない。そう思うと、今更ながら申し訳なさが湧いてくる。


「せめて可愛かったとかないの? これでもオレなりに頑張ったんだけどなぁ」


 そりゃ女の子らしくないかもしれないけど、と僅かに視線を逸らす。女友達より男友達の方が多く――むしろ男友達とよくつるんでいることもあり女らしさがない自覚はある。加えて男子バスケットボール部のマネージャーだったり、趣味がカードゲームだったりすることも関係しているだろう。
 一応料理や家事くらいは出来る。でもそれだけ。女の子らしい服装なんて似合わないし、女の子らしさなんて欠片も持っていない。たまに努力はしてみるけれど大抵失敗に終わるのがオチだ。真ちゃんにもよく女なんだからなーんて言われている。別にオレはオレだから良いんだけど。逆にいきなり女の子らしく振る舞ったところで違和感しかないだろう。


「そんなことばかり言っていると、本気にするぞ?」


 いきなり真剣な顔で言われて驚く。本気って、何を? もしかして、さっきの告白のことだろうか。
 もしかしなくてもそれ以外に思い当たることなんてない。だけど、緑間がオレの告白を本気にするなんて、そんなこと……。


「え……や、やだなぁ真ちゃん! 冗談でもそんなこと言わないでよ」


 予想もしていなかった緑間の言葉に慌てていつも通りを装う。まさかこんな返しがくるなんて思いもしなかった。相手は幼馴染で、さっきの告白はただの練習。また人をからかってと笑ってやり過ごす。幼馴染だからこそ不自然なこともなく頼むことが出来たのだ。それ以上の理由なんてない。
 ――っていうことにしておいてよ。
 くるりと体を回して表情がバレないように前を向いて歩く。三十センチ以上も身長差があるのだから俯いてしまえば緑間から表情を見られることはないけれど。


「あ、そうだ! 今日オフなんだし寄り道して帰ろうよ。近くに新しい甘味処が出来たんだよ」

「この前テレビでも特集していたな」

「そうそう。せっかくだし行ってみない?」

「そうだな」


 話題を変えていつもと変わらぬ距離で歩く。そういえばさ、と他愛のない会話を繰り広げながら甘味処を目指す。何も変わらない二人の関係。幼馴染としてこんな風に隣に居られるのもあと数日。本命に告白をしたその日には、少なからずこの関係に変化が訪れるのだろう。
 それが寂しいような怖いような。本心を隠して幼馴染の肩書きで隣に並ぶ。応援してよねと言えば、彼は短く「あぁ」とだけ答えた。





 □ □ □





「オレなら大丈夫、か」


 部屋に戻って枕に顔を埋めながら真ちゃんの言っていたことを思い出す。応援してよねと笑ったオレに彼はそう言ってくれた。それは紛れもない彼の本心だろう。
 だけど、オレはその言葉を素直に受け取れずにいた。本当に大丈夫なのだろうか。今だって告白をしたら思い人との関係がどうなってしまうのか心配でたまらない。不安が胸を占めている。


「大丈夫なんて言うなら、その言葉に責任持ってよ」


 本人が居ないからこそ声に出せる心の内。自分でも女らしくなんてないって分かっているから告白したって無駄なんじゃないかと思ってる。告白なんかしないでずっと今の関係を続けられるのならそれで良いと思ってた。
 だけど、なんでか今日そういう話になって。いや、この言い方では誤解を生んでしまう。ちゃんと理由はある。幼馴染が毎朝欠かさずに見ている占いで『気になるあの子と急接近出来るかも!?』なんて結果が出たから。

 おそらく居ないだろうなと思いつつも気になる人が居るのかと聞いたのがいけなかった。答えはノーだったものの答えるまでに妙に時間が掛かった。それが正しくはノーでなくイエスであると暗に伝えていた。それで思わず誰と聞いてしまったが、結局相手は分からず仕舞い。
 逆にそういうお前はどうなんだと聞かれたオレが意地になって居ると答えたから、告白をしないのかという話になり色々あって告白練習をする流れになった。どうしてこうなったんだと言いたいけれど、元を辿ってみるとオレにも責任はありそうだ。


「だからって、よりにもよって練習する相手が緑間なんだもんな……」


 練習というのは本番に失敗しない為にするものだろう。告白の練習したところで本人を目の前にしたら言葉が出なくなってしまうかもしれないけれど。それでも少しでも自分の気持ちを伝えられるように練習をする。練習して、練習して、それで失敗してしまってもやれることはやって後悔はしないようにしたい。
 けど、今日の練習というのは練習であって練習になっていなかったとでもいうか。本人を目の前に告白の練習をするようなヤツ、世界中を探してもそうそう居ないだろう。


「ま、気付いてないだろうけど」


 気付いている筈がない。恋愛面に関してはかなり鈍いから。逆に気付かれても困るけれど、なんとも複雑な告白練習だった。
 と、ここまで言えば分かるだろうけれどオレが好きなのはその幼馴染。だから気になる人――好きな人が居るのか気になったし、相手が誰なのかなんて聞いてしまった。
 真ちゃんが答える義理なんてないし、幼馴染としてはやっぱり応援するべきなんだろうけれど。分かっていてもオレは真ちゃんが好きだから、つい好きな人が居るなんて答えてしまった。誰とは言わなかったし、言うつもりなんてなかったけど。その場の勢いって怖い。今更後戻りも出来ないところまで来てしまった。


「はぁ。ホント、オレってバカだな」


 あんなこと言わなければ良かった。そうすれば少なくとも今のまま、幼馴染の友人で居られたのに。告白なんてしたら、結果が何であれオレ達の関係は変わる。今まで通りでいようと言われても、今までと全く同じで居られる訳がない。
 何でこんなことになったのか。もう進むしかないけれど、こうなったら当たって砕けるしかないか。砕けたら意味ないって? でも真ちゃんには好きな人が居るみたいだし結果は見えている。

 それでも告白はちゃんとする。ここまで来たんだ。告白練習なんてものにも付き合ってもらって、それで告白しないなんてのはダメだろ。だから気持ちは伝える。それで、出来ればこれからも幼馴染で居て欲しい。ギクシャクしたりしたくない、なんてワガママかな。
 でも、オレはこの関係を壊すくらいなら告白なんてしないでいようと考えるような臆病者だ。こんなことがなければ絶対に伝えることはなかっただろう。


「真ちゃん…………」


 お前の優しさが痛いよ。幼馴染だからって練習に付き合ってくれる、その厚意が苦しい。だって、その優しさはいずれオレではない誰かに向けられるんだろ。告白する前から結果が分かってるなんて、どうすれば良いのだろうか。どうすることも出来ないけれども。
 だから、今だけは許して欲しい。この気持ちを伝えることで自分の気持ちを整理するから、もう一度だけ付き合って。本番では泣かないように、涙は全部ここで流すから。





 □ □ □





 放課後の教室に二人きり。一週間前と同じ光景。

 ――本命に告白する前にもう一度だけ告白練習に付き合って欲しい。
 幼馴染にそう頼むと、溜め息を吐きながらもこれで最後だぞと教室に残ってくれた。他のクラスメイトはもう居ない。それもそうだろう。放課後に用もなく教室に残る生徒なんてそうそう居ない。
 オレ達も本来なら体育館に居る時間だが今日はオフなのだ。先週は体育館の整備、今日は先生達の研究会だかがあるから部活はないとのことだ。あっという間に一週間が経ってしまったけれど、言うチャンスはきっと今しかない。


「ずっと前からアナタが好きでした」


 ありきたりな告白。それでもオレなりに精一杯考えて選んだ言の葉。
 どうやって伝えれば良いのか。何と伝えれば良いのか。あれこれ考えて、自分なりの告白の言葉を並べて。これで大丈夫かなって不安になったり、告白なんてどうすれば良いんだろうなんて思ったりもして。いつもは気にしない占いも、珍しく幼馴染の運勢だけでなく自分の運勢まで見てしまった。
 今のオレに出来るだけの準備はした。


「どうかな?」

「…………良いと思うのだよ。これから告白するのか」

「……うん。告白、するよ」


 お互い妙に間を開けてのやり取り。なんとなくやり辛い。それは多分、真ちゃんも思っているだろう。でも、これで最後だから。あと少しだけ付き合って欲しいんだ。
 「応援してるから」と、言ってくるりと背を向けた緑間の腕を掴む。唐突なオレの行動に目を開いた彼に、今度こそ伝えるんだ。ずっと抱いていたこの気持ち、オレなりに考えた言葉達を。


「嘘吐いてゴメン。オレ、真ちゃんがずっと前から好きだったんだ」


 幼い頃から隣に在った。いつだって二人で居るのが当たり前で、男女の壁なんてないただの友達で何の気兼ねもなく傍に居た。緑間の隣は居心地が良くて、辛い時は何も言わずに傍に居てくれるお前をいつしか好きになっていた。好きの気持ちがいつ友情から恋愛に変わったのかはオレ自身にも分からない。
 でも、お前のその優しさがとても温かくて。変わり者で周りに理解されないこともあるけれど、本当は真っ直ぐで何に対しても真剣に取り組んでるんだってオレは知ってる。言い方がキツイ時もあるかもしれない、でもそれはいつだって正しいことばかり。
 一番近くに居たから知っている。誰よりも分かってる。時折見せるその笑顔はとても綺麗で、見る度に胸がドクンと高鳴る。


「いつだって真剣で、不器用だけど優しくて。ラッキーアイテム一つを手に入れるのに必死になってさ。呆れたりもするけど、そんな真ちゃんが可愛いなんて思ったりもして」


 見付からないんだから諦めろよって言っても絶対に諦めない。出来得る限りの人事は尽くすのだ。そりゃあラッキアーテムがないと死にそうになることも知っているけれど、どうしてもの時はしょうがないだろ? そんなラッキーアイテム探しになんだかんだで付き合って、見付かった時には一緒になって喜んで。
 楽しい時は笑い合って、悲しい時には涙を流して。喜怒哀楽を共にしてきた。真ちゃんはオレと違ってコロコロ表情が変わったりはしないけど、同じ時間、同じ気持ちを共有してここまできたんだ。オレの記憶には、いつだって隣に緑間が居る。


「真ちゃんのワガママなトコも真面目なトコも優しいトコも、全部好きなんだ」


 前に「もし嫁の貰い手が居なかったら貰ってくれる?」なんて冗談で聞いたことがあった。あの時、お前は「その時はな」と答えてくれた。そんな昔のこと覚えてないだろうけど、オレはちゃんと覚えてる。
 だって、嬉しかったんだ。嘘でも何でも、真ちゃんがオレのことを貰ってくれるって言ってくれて。

 オレは女らしくもないし、散々五月蝿い喧しいと言われるようなヤツで。でも、幼馴染で隣に居ることが当たり前になっていたから真ちゃんはずっとオレを隣に置いてくれた。幼馴染でもなければ関わろうなんて思わないタイプだろう。
 だから余計、この関係を崩したくなかった。オレが隣に居られる理由は、幼馴染という肩書があるから。それ以上でもそれ以下でもない。
 けど、その幼馴染がここまで協力してくれたんだ。それを裏切らない為に、自分の気持ちを伝える為に、告白をしようと決めた。


「ずっと好きでした。好きだよ、真ちゃん」


 ごめん、ごめんね。
 好きな人が居るって知ってるのに告白して。でも、伝えておきたかったんだ。これでスッパリ諦めるから、告白くらいさせて?
 お前と一緒に過ごす時間が大切で、毎日が楽しくて。一緒に笑ったり泣いたり、傍に居てドキドキしたり。お前の手から放たれる高いループのシュートに目を奪われて。
 冗談で口にした「好き」はどれも本心だよ。初めは友人として、いつからかそういう意味で。好きの気持ちが溢れて、恋ってこんなに苦しいものなんだって初めて知った。きっと、これが最初で最後の恋なんだろう。まだたかが十六年しか生きていないけれど、緑間以上に好きになる人が現れるなんて考えられないから。


「……なぜ謝るのだよ」

「だって、真ちゃん好きな人居るんでしょ? それなのに告白なんて迷惑じゃん。だからゴメン。でも、言えて良かった。付き合ってくれてありがとね」


 告白練習に、それから告白に。ここまで付き合ってくれてありがとう。こんなことにでもならなければ伝えることなんてなかっただろうけど、逆に考えればこれはこれで良かったのかもしれない。ほら、気持ちって言葉にしないと伝わらないだろ。良かったんだよな、きっと。
 さてと、やることも終わったしそろそろ帰ろうか。これ以上残ってもやることなんてないし、あまり残っていると教師に怒られてしまう。


「帰ろ、真ちゃん」


 出来るだけ普通に、いつも通りを装って声を掛ける。だけどいつもならすぐに返ってくる筈の返事がない。それどころか動く気もないように見える。不思議に思って「真ちゃん?」と顔を覗く。
 すると、そのまま腕を引かれて止める間もなくオレは真ちゃんの腕の中にすっぽり収まった。えっと、これはどういう状況なんだろう。


「真ちゃん? こんなとこ誰かに見られたら誤解されちゃうよ?」


 なんて言えば良いのか分からなくてそんな言葉しか出てこなかった。ただでさえ幼馴染で一緒に居るだけでもからかいのネタにされるというのに。こんなところを見られたらそれこそ誤解されそうだ。
 別にこんなこと初めてでもないけれど、場所が場所だけにあまりよろしくない。ここは教室で、いつ誰がやってきたっておかしい場所なだけに早く離れた方が良いに決まっている。そう思うのだが、オレを抱きしめる腕は心なしか徐々に強まっている気がする。


「なぜお前はいつも自己完結で終わらせるのだよ」

「自己完結、してるつもりはないんだけど……」


 どこで自己完結していたんだろう。それとこの行為も関係あるのかな。真ちゃんは理由もなくこんなことしないだろうから、何かしらの理由はあるんだろう。
 どういうことなの、と聞こうとしたところで先に緑間が口を開く。


「誤解なんてさせておけ」

「いや、誤解なんてされたら真ちゃんが困るでしょ」

「困ることなんてないのだよ。人の答えも聞かずに自己完結したのは誰だ」


 自己完結ってそういうことか。じゃなくて。
 答えって、それはもう決まっているんじゃないのか。だって、真ちゃんには好きな人が居る。答えを聞く前からフラれることなんて分かってるけど、まさかそれを聞けと言うのか。それは流石にオレも辛いんだけど。分かっていても面と向かって言われると、さ。


「んなこと言われても、オレはお前の答えなんて……」

「言うだけ言って人の答えを聞かないのはおかしいだろう」

「いーじゃん。そういうのは人それぞれ違うモンだし」


 告白の仕方だってみんな違うだろ。告白されたらどんな答えであろうと返事をするのが礼儀だとしても、オレはそんな返事を聞きたくない。幼馴染なんだからそれくらい見逃してよ。
 ……なんて、自分勝手だけど分かってるからもう良いんだ。真ちゃんは納得いかないかもしれないけどオレ達はこれで良いじゃないか。


「聞け」

「やだよ」

「聞けと言っている!」

「やなもんはヤダ!」


 なんでそんなに頑固なんだよ。昔からそうだけど。いつもはどちらが折れるって、オレの方が多いと思うけど真ちゃんが折れることもあるから結局は五分五分くらいなのかもしれない。絶対に譲る気ないんだもんな。それで強硬手段に出るなんてことも少なくない。


「ッ!?」


 そうだ、強硬手段に出ることは少なくないんだった。
 まさかここでもそうなるとは思わなかったけれど。しかも、真ちゃんがどんな強硬手段に出たかって……。


「オレの話を聞け、高尾」


 驚いて固まっているオレを真剣な翡翠が見つめる。静かになったオレに翠がそっと細められ、顎に添えられていた左手はそのまま頭の上に乗せられた。


「お前の言うようにオレには好きな人が居る。だが、オレが好きなのはお前なのだから何の問題もないのだよ」


 は? え、それってどういうこと?
 あまりにも色々な出来事が起こりすぎてオレのキャパシティがオーバーしている。抱き締められることくらいは今更何とも思わないけれど、言い争いになりかけたかと思えばキスをされ、更にはこの発言だ。
 全然頭が追い付かない。何が起こっているのかを整理することも碌に出来なくて、でも、断片的に理解したそれらは現実なのだろうか。オレの都合の良い夢とかじゃなくて、本当に。


「しんちゃん、ホント?」

「こんなことで嘘を吐いてどうする」


 それもそうか……? でもからかったりするのなら嘘にも意味はある、けど彼がそんなことをする人間じゃないことはオレが一番分かっている。わざと人を傷付けるようなことをしないってことも。
 そうなると頬をつねってこれが現実なのかを確認するまでもなく、やはりこれは現実なのだろう。
 …………現実、なんだ。


「泣いたら可愛い顔が台無しだぞ?」

「泣いてなんか……つーか、別に可愛くなんてねーもん」

「お前は何度言わせれば分かるのだよ」


 何が、と問えば同じ言葉を繰り返された。オレのどこに可愛いと思えるような要素があるんだろう。普段だって女なんだからとか言うじゃんと言い返すと、それはそういう意味じゃないと返ってきた。
 そういう意味じゃないって、それならどういう意味なんだ。女なんだからそういう格好をするなと言われているのは、女らしくないということだろう。そう思っていたのだが、続けられた緑間の言葉にきょとんとしてしまった。

 だって、オレが考えていたのと真逆のことを言われたんだ。驚くなという方が無理だ。
 その言葉に含まれていた意味は女らしくないから、ではなかったらしい。どうやら、そこに含まれていたのは女なんだからという意味だったようだ。何が違うかってそれはその……まぁ細かいことは良いだろう。


「高尾」


 真ちゃんがオレの名前を呼ぶ。とても優しい声色で。オレの好きな音。


「オレはお前が好きだ。お前はどうしたい?」


 わざわざ聞くのはオレが返事を聞きたくないと言ったからだろう。でも、しょうがないじゃないか。真ちゃんの好きな人がオレだなんて思わなかったんだ。絶対に振られると分かっている返事なんて聞きたくなかった。だから嫌だと言った。

 けれど、実際にはオレの予想とは全く別の答えを彼の口から聞かされた。どうしたいかなんて決まっている。幼馴染のまま、友達のままで居て欲しいと思った。しかし、思いが通じ合ったのであれば友達のままというのもおかしな話である。
 分かってるのに聞いてるんだろうな。真ちゃんのイジワル、と言っても真ちゃんは笑うだけ。でも、こういうのはちゃんと言うべきなのかな。


「真ちゃん、その……オレと付き合ってくれませんか?」


 なんだろう。告白をした時以上に恥ずかしい。ある意味これも告白だけれど、なんていうのかな。もうこっちを見ないで欲しい。顔が熱い。


「あぁ。これからもずっとオレの隣に居ろ」


 目元に振れた指先が涙を拭う。もう一方の手はゆっくりと頭を撫でた。
 隣に居ろって命令形で言うあたりが真ちゃんらしい。言われなくてもお前の隣に居るよ。この先もずっと、一緒に居たいと思ってたんだから。
 小さく頷いたオレを見て真ちゃんは微笑むと、そろそろ帰るかと左手が右手に触れた。まさか手を繋いで帰るの、って嫌じゃないけど恥ずかしい。駄目かって聞かれたら、まぁ、駄目じゃないけど。


「行くぞ、高尾」

「…………うん」


 触れ合った場所からお互いの体温が伝わる。とても温かく大きな手。昔からオレばかり手を引いていたけれど、今日は真ちゃんに手を引かれて歩く。
 なんか新鮮だなと思いながら大きな背中を眺める。いつだってすぐ傍に在った姿。
 この先も近くで見ていられるなんて、オレはとても幸せだよ。ありがとう、と心の中でこっそり伝えるのだった。










fin




タイトルと同じボカロ曲を聞いてこの二人でやってみたいと書き始めたお話です。
聞いていたのは主にアナザーの方でしたが原曲様も素敵なのでよかったら聞いてみてください。