もしもこの世界から。
「オレがいなくなるのとオレ以外の全員がいなくなるの。お前だったらどっちを選ぶ?」
言えば突然何を言い出すと言いたげな視線を向けられた。けど、オレが聞きたいのはこの質問に対するお前の答え。だからもう一度繰り返した。
「オレとオレ以外の全員、どっちを取る?」
「どうして急にそんな話になるのだよ」
今度は視線だけではなく疑問で返される。そうでもしなければオレが答えないと思ったのだろう。実際オレに答える気はなかった。
だが、どうしてと聞かれたところで何と答えるべきか。ぶっちゃけ具体的な理由なんてない。しいて挙げるなら気になったから。
そのままそう答えれば、はあと深い溜め息が零された。そしてくだらないと一蹴される。くだらなくなんかないと反論してもコイツにしてみればくだらないことでしかないらしい。それでも気になるから尋ねるけど。
「答えるくらい良いだろ。真ちゃんならどっち?」
どっちと言われても困ると表情が物語っている。オレ一人がいなくなるか、それともオレ以外の全員がいなくなるか。たった一人とその他全員だなんて規模はあまりにも釣り合わないけれど、お前だったらどっちを選ぶのか興味がある。
「オレだったら世界より真ちゃんを選ぶかな」
なかなか答えを出さない緑間より先に答える。オレがこの二択を迫られたとしたら迷いなく緑間一人を選ぶ。世界中の人間を犠牲にしたとしても。
一人の命とその他大勢の命、天秤に掛けるとすれば大勢の命を救うべきだ。そう思うかもしれない。けれどこの質問の意図はそこにはない。現実に起こることも有り得ないようなこの質問にオレが求めているのはもっと別の、といっても結局それはオレの自己満足でしかないけれど。
「大勢の命の方が一人の命より大きいかもしれない。けど、オレにとっては真ちゃんのいない世界なんて意味ないから」
翡翠の瞳を真っ直ぐに見つめて告げる。世界中の人間が助かったとしてもお前がいない世界を生きるなんて、と口に出すのは重すぎるか。
一応補足しておくとオレにとって大切な人というのは緑間一人ではない。家族、同じ部活の先輩、クラスメイト、他にも沢山の大切な人たちがいる。でも、その二択しかないのなら緑間を選ぶという話だ。理由なんて言わないけれど。だって、コイツはその意味を理解している。
「ねぇ真ちゃん」
お前だったらどっちを選ぶ?
オレはお前のいない世界で生きるなんて考えられない。それならいっそ、二人でこの世界を生きていたい。そう思うくらいには、お前のことを――――。
「…………全く」
質問には答えず、緑間は自身の唇をオレの唇と重ね合わせた。ただ触れるだけのキスではなく、もっと深くて、熱い。
「もし、オレがここでお前以外の人間を選んだらどうなるんだ」
「別に何も? それがお前の答えってだけだろ」
特に深い意味もない、くだらないと言われるような質問。
仮にお前が世界を取ったとしてもオレは文句なんて言わない。それがお前の答えなのかと納得するだけ。それ以上もそれ以下もない。勿論、どちらを選んで欲しいかの希望はある。でもそれを押し付けたって意味なんかないから。
だからお前の、お前自身が出す答えを教えてくれ。
最初と同じ問いを繰り返したオレに緑間は小さく笑みを浮かべた。決まっているだろうと。聞き慣れた低音が紡いだ答えは。
「オレがその二つを選ぶとすれば、当然お前を選ぶのだよ」
そう言って欲しかったんだろうって、言わなくてもこっちの希望はバレバレだったか。まぁ最初から分かってたけど。コイツがこう答えてくれることも。あのキスが全部答えだ。
「ありがと、真ちゃん」
くだらないと言いながらこんな質問に付き合ってくれて。お前にとっての大切な人がこの世界には大勢いる中でオレを選んでくれて。
「愛してる」
世界中の誰よりも、この世界の誰よりも。
言って今度はこちらから唇を寄せる。お互いの体温が混ざり合う。暫くしてどちらともなく離れた後に伝えられた愛の言葉に後に思わず笑みが零れた。
本当にコイツはオレの欲しいものがよく分かっている。
だからこそ、こんなにも愛おしいのかもしれない。
fin