忍の里に生まれた忍を目指す子供はまず、忍者学校に入学する。卒業試験に合格し、晴れて下忍になると三人一組を組んで任務に取り組む。それから中忍試験を通りより強い忍へと歩んで行けるのだ。
それは忍ならば誰でも通っている道。それに例外はない。皆が皆、同じ道を通って上を目指す。
アイタイキモチ
子供の元気な声が聞こえる。辺りは既に橙色に染まりつつある。今日の任務はDランクだった。ランクの低さに不満の声もあったが下忍ならば仕方がない。こうした低ランクの任務からコツコツと経験を積んでいくものなのだ。
朝からの任務が漸く終わり、明日の集合時間等を告げて解散を言い渡せば「またね」や「じゃあな」と子供達は言葉を交わす。その光景を桃色の長い髪を持った女性は微笑ましそうに見ていた。
「終わったのか?」
ふと、後方から声が聞こえる。その方向に振り向けば、同じ額当てをした青年が立っていた。彼のことは、随分前から知っている。なんせ、かつては同じチームメイトだったのだから。
「丁度、解散したところよ」
「そうか」
短いやり取り。けれどそれも昔から大して変わっていない気がする。変わったことといえば、背丈や声といった成長した部分と互いに上忍である証のベストを着用していることだろうか。
数年前に三人一組を組んでいた頃、彼等はお世辞にも仲が良いとはいえないような関係だった。三人が三人共バラバラだったあの頃。それがいつからか信頼出来る大切な仲間になり、今となってはかけがえのない友になっていた。
「サスケ君も任務は終わったの?」
「ああ。少し前に里に帰ってきたところだ」
サスケは一週間程前から国外任務に出ていた。予定ではもう少し遅い帰還になっていたはずだが、今此処にいることからして早々に片が付いたようだ。そこは流石、木ノ葉でもトップクラスの実力者なだけある。
そんなことを思いながらサクラはある疑問が浮かんだ。簡単に聞いた任務の内容を思い出したのだ。同時に此処に居ない残りの七班メンバーの顔が浮かぶ。
「そういえばナルトは? 確か今回の任務って……」
「あのウスラトンカチなら帰って早々一楽に向かったぞ」
「相変わらずね。まあ、ナルトらしいといえばらしいけど」
あのナルトのことだ。報告書を出し終えたらそのまま一楽に直行したのだろう。まだ下忍だった頃、急がなくても一楽は逃げないと話したことは何度あっただろうか。色んな面で成長が感じられるというのに、そういうところだけは昔から全く変わっていない。
そんなナルトと少し前まで一緒に居たサスケは何かを思い出したのか、一つ溜め息を零した。具体的な話は聞いていないけれど、どんな状況だったのかは容易く想像出来る。サスケの様子を見ながらサクラも苦笑いを漏らす。
「サスケ君は良かったの?」
「オレはアイツ程ラーメンを食べたいとは思わないからな」
「それもそうよね」
本人が居ないからと二人はそんなやり取りを繰り広げる。いや、本人が居たなら文句も含めて色々言っていたかもしれない。
三人一組を組んでいた仲間というのは、他の同じ里の忍とはまた違った絆がある。長いこと一緒にチームを組んでいる仲間だ。それだけお互いのことを知っていて、その分だけ特別な絆が出来ている。もしこの場にナルトが居たのなら、日頃の食生活にまで話が流れたかもしれない。
「それにしても、わざわざどうしたの?」
サクラが尋ねるとサスケは「何がだ」と返してきた。これだけでは話の意図は伝わらなかったらしい。それを理解したサクラは先程の言葉に付け加えるように口を開いた。
「任務が終わったばっかりで疲れてるでしょ?」
そこまで言えばサスケにも話の意図が伝わったらしい。ああ、と納得したような声が聞こえる。それからすぐに質問の答えは返された。
「里に帰って来たらお前に会いたくなった」
たったそれだけの答えだったが、頬が赤く染まるのには十分だった。チラリと視線を向ければ、小さな笑みを返された。
こういうのを不意打ちをいうのだろう。予想外過ぎる返答に何も言えなくなってしまう。そのことを分かっているのかいないのか。サスケは一歩前に足を進めるとサクラを振り返った。
「今日はもう終わったんだろ。これから何かあるのか?」
「えっと、報告書を出したら何もないわよ」
「それならさっさと行くぞ」
言うなり歩き出したサスケの背中をサクラは慌てて追いかけた。僅かな距離はあっという間になくなり、二人は並んで忍者学校へ向かって歩き始めた。
こうやって一緒に並んで歩くのは久し振りだ。七班で任務をしていた頃は、よく皆で一緒に並んで帰り道を歩いていたものだ。Dランク任務に文句を言ったり、他愛のない話題で笑い合って。それは先程まで一緒に居た下忍の子供達とそっくりであったと思い出す。
今はもうあれから数年の時が経ち、七班のメンバーも皆上忍になっていた。大して差がなかった身長も今となっては大分差が開いていた。
「でも、サスケ君まで忍者学校に行かなくても……」
「別に構わない」
だから気にすることはない、とサスケは続けた。
これから一緒に過ごすにしても報告書を出しに行くのは自分一人で良いのではないかと思ったのだが、その言葉を聞いてそれ以上は何も言わなかった。少し前にサスケから言われた言葉はサクラ自身が思っていたことでもあったから。
会いたい、そう思っていたのは自分だけではなかったらしい。一緒に居られる時間が増えるのなら、たまにはこうやって歩くのも悪くないかもしれない。
「サスケ君、その後はちょっと付き合ってくれる?」
その問いにはすぐに「ああ」と肯定が返ってきた。サクラにこの後の予定を聞いた時点でサスケもサクラと一緒に居ようと思っていたのだろう。そのことがなんだか嬉しくて思わず笑みが零れた。
アイタイ。そう思ったのはどちらも同じ。
今日はこれから二人の時間を過ごそう。
fin