季節は冬。どこの学校も冬休みを迎えているような時期だ。
ここ、木ノ葉学園も例外ではなく十二月の終わりから生徒達は冬休みに入っていた。そして新しい年を迎えた今日もきっとそれぞれ自由に過ごしているのだろう。
明けまして
年が変わる深夜零時。新年の挨拶がメールによって送られてくる。携帯の着信音が鳴り響き、送信と受信が数分の間に幾度と繰り返される。
どれくらい鳴り続けたのだろうか。おめでとうや今年もよろしくといったお決まりの文章が書かれたメールがひたすら届くこと数十分、漸く携帯が静かになる。みんな一通りメールを送り終えたのだろう。
だが、一通だけが返信のマークをタイトルに入力されたままやり取りが続いているメールがあった。
『明るくなったらサスケん家に行ってもいい?』
画面に写し出されている文字を見ながら悩むこともなく返信のメールを打つ。今更何を言っているんだと思いながら入力を終えるとそのまま送信ボタンをポチリ。
『来たければ来いよ』
一言で返ってきたメールを見ながら顔が綻ぶ。きっとこう返してくるだろうと予想をしていたところだった。それがそのまま画面に写し出されているのを見ると、面白くもあり嬉しい気持ちになる。
了承の返事を貰ったわけだがさて、今度はなんて送ろうか。少しだけ考えた後にナルトは再びメールを打つ手を動かした。
『じゃあ、すぐに行ってもいい?』
さっきとは時間を変えた文章が送られてくる。だが、サスケはそれに対しても特に悩まず返信をする。
サスケからすれば、いつでも来たい時に来て良いと思っているからだ。家に来られることが嫌なわけでもなければ、それはむしろ嬉しいことである。だから、そもそも悩む必要がないのだ。
『来いよ。好きな時に』
その返事を見たナルトはパタンと携帯を閉じる。それから携帯をポケットの中に入れて満天の星の下を歩き出す。
メールを送ってから十数分が経過しただろうか。ナルトの目の前にあるのは家の門。新年になったばかりの時間には家に居たのだが、実はサスケとメールをしながらこちらに向かっていたのだ。あのやり取りをした後で家を出たのならまだ着かない時間だが、そこはちょっとしたサプライズというやつだ。
さてと、と門の前で深呼吸をしてからゆっくりと扉を開ける。――が。
「あ」
思わず声が漏れた。
だって、仕様がないだろう。開けようととしていたはずの扉が勝手に開いたかと思えば、そこには予想もしていなかった人物が立っているのだから。
なんでお前がここにいるんだよ、と言わなかったのはオレの家だから当然だと返ってくるのが目に見えていたから。だがナルトはそう尋ねたくて仕方がなかった。これではまるでこちらの行動がバレていたかのようではないか。
「何突っ立ってるんだよ、ウスラトンカチ」
聞き慣れた声。変わらぬ口調。
冬休みに入ったのはついこの間なのにやけに久し振りのように感じてしまう。さっきまでメールでやり取りをしていたが、実際に話すのとでは違うものだとナルトは一人実感する。
「この少しの間にまたおかしくなったのか?」
ぽかんとしたまま突っ立っているナルトにサスケは思ったことをそのまま並べてやる。ナルトの考えることなどサスケはお見通しである。どうせこんなことだろうと思って待っていれば見事に的中したわけだ。
からかうような言葉に浮かべた笑みもいつもと変わらない。そんなサスケにナルトもいつも通りに返す。
「んなことねぇってばよ!」
やっと成り立った会話に自然と笑みが浮かぶ。終業式からあまり日が経っていないというのに新鮮に感じるのは不思議なものだ。
だが、そんな疑問など今はどうでも良い。こうして二人で会って一緒に居られることが嬉しい、なんて思うのは気のせいだろうか。気のせいには感じられないこの気持ちは紛れもない本物なのだろう。それだけお互いに会いたいと思っていたということだ。今はまだそんなことは口にしないけれど。
「入るか?」
疑問形で聞いているけれど、その言葉がそれだけの意味ではないことにナルトはちゃんと気が付いた。そこには寒いだろという意味も含まれているのだと。
何年も付き合っているナルトは見えない彼の言葉もしっかりと分かっているのだ。いつまで立ち話をしているんだ、さっさと入れという意味もありそうだがまあ良いだろう。寒いだろうとこちらを気に掛けてくれているのも事実で、サスケが言葉にはしないものの優しさを持っていることをナルトは知っている。
「おう!」
そう返ってくるのを聞いてサスケは家の中に戻る。それを追うようにナルトもお邪魔しますと家に上がった。
この寒い中を歩いて来たのだからと何か飲むかと聞かれたナルトは遠慮なく肯定を返す。そこでおしるこが出てくる辺りは準備が良いというかなんというか。ナルトがサスケのことを知ってる分、サスケもナルトのことを分かっているということだろう。
新年を迎えて沢山の友達と挨拶をメールで交わした。その中で今年、一番に会った相手は今目の前にいる相手。
理由は単純だ。一番に会いたかったから。
他の理由なんていらないだろう。それだけ二人にとってお互いの存在が特別なのだ。冷えた体を温めながら二人が互いにそんな話をするのはまだ少し先のお話。
fin