今日は二月十四日。大好きな子が居る人にとってはとっても大切な日。今日までに色々と準備をしたものを大好きな子に渡す為にみんな必死になる。大好きなあの子に喜んでもらえるように。



貴方の為にをこめて




「キャー! サスケ君、私のチョコを貰って!」

「サスケ君! コレ受け取って!」


 女の子達はサスケの家の前に集まっている。サスケが任務に行く所にを良い事にプレゼントを渡しに来たのだ。これは毎年の事となっている。今日という日に限られていないが、何かがあるときには必ずといえるだろう。
 サスケにとっては迷惑なのだが、そうだとは女の子達は知らない。だから彼女達は用意したプレゼントを受け取ってもらえるように必死で渡そうとする。


「ねぇ、サスケ君。貰ってくれない?」

「今日の為に必死で用意したの」


 任務がなければ家に居る事が出来る。だけど今日は任務があるのだ。だからそれは出来ない。女の子達は表に居るのであえて裏口から出た事もある。その時は女の子達に気付かれる事もなく任務へ行く事が出来た。
 しかし、それ以来はサスケが何処から出ても渡せるようにしているようだ。裏口からでも何処からでも渡せるように考えているようだ。その必死さには感嘆するというか呆れるといえば良いのか。


「私のを貰って!」

「受けとってください!」


 追い払うにとしてもこれだけの人数だ。全員を追い払うというのはどう考えても無理がある。そう思いながら何か方法を考える。そして、サスケは一つの考えに辿り着く。
 そして次の瞬間、素早く印を組んだサスケはその場から居なくなった。


「あー……サスケ君が行っちゃった……」

「もう、渡せなかったじゃない」

「こうなったら帰りを待つわよ!」


 サスケの家に集まった女の子達は諦める事はなく、そんな事を考えた。



□ □ □



「やあ諸君、おはよう。今日はチョコを貰いすぎて片付けるのに時間がかかってね。」


 相変わらずカカシは遅刻をしてくる。それに対してナルトとサクラは声を揃えてカカシの言葉を否定する。これが七班のいつもの日常だ。
 遅刻するのが日常となっているのはどうかと思う部分があるが、なってしまっているのは事実である。遅刻をしない日など殆ど無い。極たまに遅刻をしないで来る時はあるけれど、今までそれは何回あったかと問われれば答えに困る。いつも遅刻されていてそうでない日は数日しかなく覚えていないのだ。


「今日はまだ始まったばかりなのに、沢山チョコを貰えるわけないじゃない」

「そうだってばよ。それに、カカシ先生がそんなにチョコ貰えるわけないってばよ」


 二人の言い分を聞いたカカシもそれは言い過ぎじゃないかと尋ねる。だが彼等はその言葉を特に撤回するつもりはないらしい。
 要するにナルトからすればカカシはモテないという部類に入るのだろう。ついでに、自分よりも多く貰えるなどと考えづらい上に考えたくない。そんなところだろう。サクラはそうだとも言わないがおそらくナルトと同じ意見のようだ。


「これでもそれなりにモテるよ、オレ」

「えー! 本当かってばよ?」


 絶対嘘だろとでも言いたげな反応が返ってくる。やはり何も言わないものの表情からしてサクラも同意見のように見える。付き合っている彼女が居る様子も無いこともあり、モテると言われても信じがたいものがある。それに、これだけ酷い遅刻癖があるのに本当にもてるのだろうか。それが一番の理由なのかもしれない。
 けど、二人の考えとは違い実際にカカシはモテる。サスケほどとまではいかないもののそれは結構なものだ。バレンタインといえば、いつもそれなりの数のチョコを貰っている。


「ま、今日の任務を始めるよ」


 そう言われると今日の任務を始めた。今日の任務内容は「公園の整備」というDランク任務。整備といっても遊具を綺麗にするわけではない。簡単に言えばゴミ拾いというわけだ。
 三人はそれぞれ任務をこなす。カカシはといえば、いつも通りに愛読書をしている。これも集合時の遅刻と同じで日常となっている事だ。

 それから数時間後。漸く任務は終了した。


「終わったってばよ。」


「ご苦労様。これで今日の任務は終了だね。それじゃあ解散」

「あっ、ちょっと待って!」


 サクラはそう言ってみんなを呼び止めると、箱を取り出してそれぞれ三人に配った。カカシとナルトに渡す時には「義理チョコだけどね」という言葉を忘れずに添えて渡す。本命はやはりサスケという事だろう。義理だと分かっていても貰えた事が嬉しいようでナルトは喜んでいる。
 そして、サスケにも箱を渡す。甘い物が苦手なサスケは嫌そうな感じだったが「甘くない物だから」とサクラは付け加えた。同じ班を組んでいて、サスケが甘い物は苦手だという事を知っていたのだろう。そう言われてサスケもそれを受け取る。

 全員にチョコを渡し終えたところで、カカシは改めて解散を言い渡す。その合図にそれぞれが帰って行く中、サスケはカカシの名前を呼んだ。


「カカシ」

「何?」

「今日、アンタの家に行っても良いか?」


 サスケがそんな事を言い出すなんて考えても居なかったのだろう。カカシは驚いた表情だ。だけど、すぐにいつものように戻り「良いよ」と言った。
 言われた言葉は予想外のものだったが、サスケがそう言ってくれたのは嬉しい事なのだ。いつもはそんな事を一切言う事は無い。だからこそ余計に嬉しい。

 了承を得られたことで、二人は一緒にカカシの家に行くことにする。途中で報告書を出す為に一度忍者学校へ寄ったが、それもすぐに終わったようで数分ほど寄るだけで済まされた。
 それからまた歩く事数十分。二人はカカシの家に着いた。


「あのさ、サスケ」

「何だよ」


 お互いにそれぞれで過ごしていると、急にカカシは声をかけてきた。サスケは読んでいた巻物から目を離してカカシの方に目を向ける。


「サスケに渡したい物があるんだけど」


 だから少し目を瞑ってて、と付け足す。それが何なのかはサスケには分からない。だが、とりあえずカカシに言われた通りに目を瞑る。
 目を瞑ってから数秒が経つ。すると、カカシは「もう目を開けて良いよ」と言った。その言葉でサスケはゆっくりと目を開けた。


「オレからのプレゼント」


 サスケの首には小さな銀色の首飾りがあった。さっき目を瞑るように言ったのは、これを付ける為だったようだ。サスケは首飾りをかけたままそれを見る。
 カカシは、そんなサスケの様子を見ながら「オレとお揃いなんだよ」と付け加える。そして、自分の首にあったサスケの物と同じ首飾りを見せる。サスケはそれを見た後、カカシの方をまた見た。


「サスケは、普通に渡しても受け取ってくれないと思ったからこうやって渡したんだ」


 女の子が渡そうとした物を一つも受け取らないようなサスケだ。カカシが普通に渡したとしても、女の子達と同じで受け取ってもらえないだろうと考えた。
 だから、こうして直接付けて渡すという行動を取ったのだ。そうすれば受け取ってもらえないという事はない。無理やりという部分があるかもしれないが、それ以外に方法は思いつかなかった。


「やっぱり嫌だった……?」


 そうやったのは良いが、やはり無理やりという部分があったのは事実だ。サスケが何も言わないので、カカシは心配になってそう問う。もし嫌だったのなら悪かったと思う。けど、サスケから言われたのは予想とは全然違う言葉だった。


「…………アンタからなら、貰っても良い」

「えっ?」


 一度言葉を失ってしまった。今、サスケは何と言っただろうか。
 予想外の言葉に、カカシは頭の中で先程の言葉をもう一度繰り返した。サスケは確かにオレからなら貰っても良いと言ったはずなのだと。
 それが嬉しいのと同時に、本当なのかという疑問も浮かんでくる。サスケがそんな嘘など言う事はないのは分かっている。けど、そんな風に言ってくれるという事も今までになかった。その為、頭の中で今の言葉が本当なのかというような疑問が浮かんでいる。


「それって本当?」

「嘘だと思うのかよ……」

「女の子からはもらわないのに?」

「アンタは別だ」


 それを聞いてカカシは嬉しくなった。他の女の子からは受け取らなくても自分の物だけはちゃんと受け取ってもらえるという事が分かったからだ。
 それは、カカシだけは良いというサスケなりの愛情表現というものなのだ。もちろん、カカシはそれを分かっている。言葉で表す事が苦手なサスケがこんな風に言ってくれたという事がまた嬉しい。


「だけど、オレはアンタになんにも用意してない」

「別に良いよ。その代わりはちゃんと貰ったから」


 何もあげていないのに貰ったというのはどういう事なのか。それが分からなくてサスケは疑問を浮かべている。


「オレはサスケからオレへの愛の言葉を貰ったからね」


 サスケはカカシに言われた言葉に驚く。愛の言葉というのはどういう事か。考えれば、答えはすぐに見つかった。けど、そんな風に言ったつもりなど全く無い。カカシが勝手にそう解釈しているだけのようなものだ。だからサスケはすぐに否定の言葉を言う。


「馬鹿ッ! 何勘違いしてるんだよ!!」

「えー、そういう意味じゃないの?」

「そんなわけないだろ!」


 愛の言葉だと思うけど、と言われて違うと否定する。どうしてそんな風考える事が出来るのだろうか。そう思うものの深くは考えない。考えた所で答えがみつかるとは思えないからだ。


「じゃあ、お返しとしてサスケが好きって言ってくれれば良いんだけど?」


 言われてサスケは言葉に詰まる。それと同時に、わざわざ否定などしなければ良かったと思う。こんな事になるとは思っていなかったからだ。
 けど、まだ何も渡せていない。それが変わることは無いのだ。だけど、これはどうすれば良いのかと悩んでしまう。「好き」という一言だけでもサスケにとっては言うのがとても大変な事なのだ。


「言ってくれないの?」

「…………」

「ねぇ」

「…………帰る」


 自分からカカシの家に来たのだが、もはやそれは関係ないのだろう。サスケは立ち上がって玄関の方に行こうとする。


「あ、サスケ。待ってよ!」


 言わなくても良いからと、カカシはそれを追い掛ける。いくらその言葉を言ってもらえなくてもサスケが此処に居てくれれば良い。言うという事が嫌で帰るのならそんな事はしなくて良い。だから、居て欲しいと思うのだ。
 するとその時。サスケはカカシの頬にキスをした。


「オレは……アンタが好きだ」


 一瞬、カカシは何がなんだか分からなかった。けど、すぐにそれを理解する。


「ありがとう」

「何でアンタがお礼を言うんだよ」


 サスケはカカシから貰うだけ貰って何も用意していなかった。だから、カカシの言われた通りに「好き」だと言ったのだ。だから、お礼を言われる事は何も無いのだ。


「だって、本当に言ってくれたから」

「言えって言ったのはアンタだろ」

「そうだけど、本当に言ってくれるとは思わなかった」


 つまり、半分は冗談で言った事だったのだ。言って貰えれば嬉しいと考えながら。それをサスケが本当に言ってくれたのだからお礼を言ったのだ。
 いくら言って欲しいと頼んでもなかなか言葉にして貰えないような言葉。それをまさか本当に言ってくれるとは考えてもいなかったのだ。さっき言われた事だけでも嬉しかったのに「好き」だとも言ってもらえた。カカシにとっては嬉しい以外のなんでもない。こんなに嬉しいプレゼントなど他にはないという程だ。


「オレも好きだよ。サスケ」


 そして今度はカカシからサスケに口付けをした。

 今日は大好きなあの人に素敵な贈り物をする日。
 大好きだから喜んで貰いたい。そう思ってこの日の為に用意する。

 想い人が幸せになれますように……。










fin