卒業。それがみんなの道を分ける。今までずっと一緒だった友達。その友達ともこの卒業での進学場所の違いで別れる事になった。また一緒の学校に進めるかと思っていたけれど、ここでの道はそれぞれ分かれる。みんながバラバラの、自分の進むべき道へ。
これから始まる新しい生活、此処が新しい始まりの場所なんだと考えて。この大学へと足を踏み入れた。
新しいスタート地点
「えっと、此処が教室……だよな?」
クラスが書かれているプレートと自分のクラスの番号とを照らし合わせて確認する。どうやら此処がこの学校での最初のクラスのようだ。それが分かると、一度深呼吸をする。いくらあのナルトとはいえ、此処は初めてのクラスで知り合いなど居ないに等しい場所だ。少しくらい緊張する。
気持ちを落ち着かせ、いざ教室の中へと入る。見慣れない風景に此処が大学で新しい場所なんだと改めて認識する。
(なんか、新鮮っつーか新しい場所って感じだな)
いつもとは違う場所に、戸惑うというよりは新しい道を確認するようだった。小学校や中学校と今まではいくら違う場所といっても知ってる友達が同じだった。だから、こんな風に思う事もあまりなかったが今回は一人。それが予想以上に新しいように感じてしまう。
「そういえば、席はどこなんだろう?」
机は並べてあるが、どこが自分の席かは分からない。教室を一度見渡してみると黒板の方に席の書かれた紙があるようだった。あそこにあるのか、と思っていると後ろの方から声が聞こえた。
「何突っ立ってんだ」
聞こえてきた声は、少し不機嫌そうな。だけど、そうでもないようにも感じられた。どこかで聞き覚えがあるような気がしながらも、ナルトは今自分が教室に入ったところで立ち止まっていた事を思い出して慌てて横に退いた。
「あ、ごめん」
「別にいい。それより、お前がこの学校だったとはな……」
その言葉に疑問を覚える。まるで自分の事を知っているように話している。
そんな事を思うと、さっきこの声に聞き覚えがあると思った事をもう一度考えてみる。あれはどこだったのかと考えると、それほど時間もかからないうちに答えは出てきた。ナルトの知っているその声よりも低いけれど、似た声を前に聞いたことがある。
そう、あれは数年ほど前。あの日、あの時まではずっと身近にあった声。
「久し振りだな、ナルト」
呼ばれた名前に顔を上げる。そこには、ナルトの見知った顔があった。
「サスケ!?」
そこに立っていたのは、ナルトもよく知っている相手――うちはサスケだった。その姿はナルトが知っているものよりも背丈も大きくなり顔も大人っぽくなっている。声もいくらか低くなっているようだ。
久し振りに会った相手に、嬉しさと驚きが同時に生まれる。会えた事は心から嬉しい。だけど、同時に疑問も浮かんでくる。
「えっ、何でサスケが此処に居るんだってばよ!?」
「この学校に通うからだ」
「でもさ、サスケは家族と一緒に外国に行ったはずじゃぁ……」
数年前。ナルトはサスケと別れた。小さい頃からよく知っていて、喧嘩もするけど誰よりも互いの事を分かっていた。どんな友達よりも一番の友達だった。
だけど、数年前のある日。親の仕事の都合でサスケはこの地を離れる事になった。別れるのは嫌だとナルトは言った。仕方がないと言って口には出さなかったが、サスケも本当は別れるのが嫌だった。けれど、それはどうしようも出来ない事で二人は別れる事になったのだ。
「あの時は、まだ一人では置いていけないって親に反対された。けど、この歳になって戻りたいなら戻ってもいいって言われたんだ」
聞いた内容はまた驚くような事だった。あの時、ナルトは嫌だと言い続けたけれどサスケはそんな事を一言も言わなかったのだ。でも、本当はナルトと一緒に居たいと話していたという。それもまだその歳ではと反対されたようだが、今になってやっとこの場所に帰る許可を貰ったというのだ。サスケは、あの日から今日までこの地の事を忘れたりはしていなかった。
あの別れから、少しの間はサスケが居ない事が世界にぽかりと穴が開いたようだった。けど、いつまでもそうしていてはダメだと思い前のように明るく過ごしてきた。その間にナルトが一度でも忘れた事なんてなかった。
「それじゃぁ、これからはまた一緒に居られるのかってばよ……?」
「そういう事になるな」
はっきりと言われた言葉。それが再び会えた嬉しさよりも大きかったように思う。一度は離れる事になったけれど、また一緒に過ごす事が出来る。その嬉しさはさっきの嬉しさの何倍だろうか。考えられないような大きさが、また嬉しい。
それをどこに表現したらいいのか。表情や、その周りの空気を伝わって分かってくる。だけどそれだけでは物足りなくてつい飛びついた。こんな所で、とは思いつつもサスケも嬉しいのは同じでそのまま受け止めてやる。教室は騒がしい状態で気付く人も居ない上に、端の方に寄っているから問題もない。今はその嬉しさを身体で感じる。
「なんか、オレってば凄く嬉しいってばよ」
そのままの体勢で、小さくサスケだけに聞こえるくらいの声でナルトは言った。それを聞いて、サスケも同じくらいの声の大きさで「オレもだ」と返した。その返事を聞いたナルトが、抱きついた手を少し強くしたのを感じる。身体を通じる気持ちは真っ直ぐに伝わっている。
「またよろしくな、サスケ」
「あぁ」
互いの顔を見て交わした言葉。これからの生活がまた楽しみになる。
この学校に来た時は、少しの緊張や不安もあったはずなのに今はどこに消えたのだろうか。サスケに会って、何かが変わったような気がする。
二人の再会は、止まっていた時計を動かす鍵。
動き出した時計が刻んでいく時間。
これから、どんな新しい生活が始まるのだろうか。
fin