今日はバレンタイン当日。恋する女の子にとってはとても大切な日。
 勿論、私もその一人。昨日買い揃えた材料を使ってしっかりと気持ちを込めて作ったチョコレート。大好きっていう気持ちを精一杯詰め込んだから、きっと分かってもらえるはず。






 学校の終わりを知らせるチャイムが鳴り響いたのはついさっき。二月十四日はバレンタインということで学校ではチョコを持ってきている女の子が沢山居る。そして、男の子はそのチョコをもらえないかと期待していた。

 当然、私もチョコを持っていって大切に鞄にしまってある。そう、しまってあるから問題なの。
 私が好きな男の子。それは同じクラスのうちはサスケ君。サスケ君は勉強も出来て運動も出来る上に容姿もいい。はっきり言って学校で一番人気があるんじゃないかっていうくらい。だからきっと多くの女の子からチョコを貰ってる。というより、貰ってないわけがない。

 だが時は既に放課後。チャイムが鳴ればみんな帰ってしまう。教室を見回してもサスケ君の姿は見当たらない。きっともう帰ってしまったのだろう。
 はあ……。渡せなかったなんて情けないけど仕方ない。渡せなかったのは私に勇気がなかったからだ。みんなも帰っていることだし私も帰ろうか。いつまでも学校に居たところでやることもないんだから。


「サクラ」


 玄関を出ようとした時。聞き慣れた声がどこからか聞こえてきた。いつも近くで聞いている、私の大好きな人の声。そう、それの声の主は……。


「サスケ君!?」


 声のした方を振り返れば、そこにはサスケ君が立っていた。これは幻ではなくて現実。だけどサスケ君はも帰ったんじゃ……いや、私が勝手にそう思っていただけだったかもしれない。
 でも、どうしてこんなところに居るのだろうか。サスケ君に会えた嬉しさと同時に疑問が生まれる。


「えっと、どうしたのサスケ君……?」


 何よりも一番に気になったことを尋ねる。するとサスケ君は特に悩んだ様子もなく「待ってたからだ」と返してくれた。
 待っていた、というのは私のことを? ついそんな疑問を抱いてしまったけれど、この場面でそう考えるのが普通だろう。だって、サスケ君はわざわざ私のことを呼び止めたんだから。それで私のことじゃなかったら逆にショックだ。でもサスケ君に限ってそんなことはないだろう。


「私を……?」

「お前以外に誰が居るんだよ」


 確認するように聞いてみれば肯定を返された。やっぱり私の勝手な勘違いではないみたい。
 けれど、何で私を待っていたのかという疑問がまだ残っている。次々に生まれてくる疑問は終わりを知らないかのよう。しかし、聞かずにはいられないのもまた事実。


「何か私に用でもあったの?」


 バレンタインだからって一人で浮かれてるわけにもいかない。出来るだけいつも通りに話すように努める。大丈夫、きっと変な風にはなっていないはずだ。
 そんな私の気持ちとは裏腹に、サスケ君はなんだか言いづらそうにしている。何かを言おうとしつつも言い出せないような。一体なんだろうと思いながらサスケ君を見ていると、暫くしてからゆっくりと口が開かれた。


「今日は女が騒がしかったが、お前はそうでもなかったな」


 その言葉がどういう意味なのかと考えるが、答えはそれほど考えずとも見つかった。今日はバレンタイン。サスケ君は女の子にモテるからそれを知らない訳がない。同じクラスのナルトは一日中騒いでたし、嫌でも知ることになっていただろう。
 女が騒がしかったというのはバレンタインのことを指していると考えて間違いないだろうが、やはり色んな子からチョコを貰ったのだろうか。予想通りといえば予想通りなんだけど、その後に続けられた私はそうでもなかったというのはどういう意味なのか。そんなにサスケ君は私のことを気にしてくれてたってこと?
 都合の良い解釈をしている自覚はあるが、どうしてと思うより前に今はチャンスかもしれないという気持ちが先にくる。私の鞄の中には渡しそびれたそれが入っているから。


「あ、あのねサスケ君。私、サスケ君に渡したい物があるんだけど……」


 言いながら鞄の中を開ける。昨日、必死で作ったチョコの箱を見つけると手に掴んでサスケ君の前に差し出す。
 それがどういう意味なのかはなんとなく気付いていると思う。だって、今日はバレンタインだから。そのチョコを受け取ってもらえるか不安だったけど、サスケ君はそれをちゃんと受け取ってくれた。


「有難うな」


 そう言ったサスケ君は笑みを浮かべていた。その様子に安心や嬉しさが沸き上がる。受け取ってもらえて良かったと思っていると、ふいに唇に今まで感じたことのないような感覚がした。
 えっ…………?
 突然の出来事に頭の中が真っ白になった。一瞬だけ触れたそれがサスケ君からのキスだったことに気付くのには少々時間を要した。そして気付いた途端、嬉しさと恥ずかしさから顔が赤く染まる。


「じゃぁな」


 たった一言だけ言い残して去っていく。私はただ赤く染まった頬を隠すように下を向いた。
 今のって、サスケ君の……。
 そう考えるだけでまた頬が熱くなるのを感じた。もしかして、それはさっきのチョコの返事だったりするのかと思うと嬉しくなる。どうしたらいいのか分からないような感情が心を占めている。ただ分かるのは、その感情が沢山の嬉しさからくるものだということ。

 さて、明日からどんな顔して会おうか……?










fin