変わらぬ日々。変わらない日常。いつも通りに流れる時。同じような毎日。
そんなのつまらないと言う人がいる。それこそが幸せなのだと話す人がいる。
今日も一日が始まった。
僕等の日常
朝起きて支度をして、集合場所に向かう。相変わらずの遅刻をしてくる上忍が、今日はいつになったら姿を表すだろうか。退屈そうにただ待つのはいつものこと。
漸く来て言い訳を聞いて、ナルトとサクラが二人で突っ込む。それをヒラリと交わしては、本日の任務の説明をされる。
そして、任務が始まったのはつい先刻のこと。
「カカシ先生ってば、相変わらずだよな」
「いつものことだろ。アイツの遅刻癖は」
そうだけどさ、と言いながらも不満はある。待たされるだけというのは辛いものだ。どうせなら、集合時間を遅くしてくれと思うのも無理はない。
こんな風に話してはいるが実際、ナルトだけでなくサスケだって出来ることならやめてもらいたい。それは、ここにいないサクラだって同じ意見だろう。三人が三人ともそう思ってしまう。
どうしてこの場にサクラがいないかというと、今回の任務は二人ずつに別れて行っているからだ。最初の頃は文句ばかりの二人もこれだけ同じ班を組んでいればそれも少なくなる。元々、互いに相手が嫌いだったわけではないのだ。
「学習能力っつーの? そういうのがカカシ先生にはねぇのかな」
「アイツのその癖は、直らないような気もするけどな」
「いえてるってばよ」
どうしたら直るかというより、どうやって待ち時間を過ごすか。そう考える方がずっと早そうだ。
前に一度、あまりに遅刻するからとカカシの家に三人で行ったことがある。起こしにいけば遅刻もしないだろうと考えたのだが、それは失敗に終わった。それから数回、諦めずに挑戦したけれど全て失敗に終わったという結果だ。
それからというもの、カカシに遅刻をさせないという考えはどこかに消えてしまった。考えても無駄なのだから、考えても仕方ないというやつだ。
「それより、早く任務をやるぞ」
そう言われてナルトは元気よく「おう!」と返事を返した。カカシの遅刻癖はどうにかしてもらいたいが、今は目の前にある任務だ。あの癖は本人に直す気がない限りはどうしようもならないだろうから。
今日の任務内容は、とある大名の娘の首飾りの捜索。どうやら出掛け先から国へ戻る移動をしている時に、どこかに落としてしまったらしい。大切な物だからどうしても見つけてもらいたい、ということで木ノ葉に依頼がやってきたというわけだ。
「でもさ、そんな小さい物を見つけるのなんて大変だってばよ」
「文句を言う前に手を動かせ」
首飾りといえば、それほど大きい物ではない。けれど、この広い範囲で探すことが大変なのだ。だからこそ、忍に依頼しているわけなのだが。その範囲の広さにとりあえず二手に別れて捜索することになったというわけだ。その大名達が通ったと言っていた場所を端から探していく以外に方法はない。変に四人がバラバラに動くよりも二人ずつで別れて探す方が効率が良いと考えたのだ。
任務を始めてから早数時間。全く見つかる気配のない依頼品に、空から降り注ぐ太陽の熱もあり疲れ始めてきていた。サクラ達の方に連絡をしてみてもまだ見つからない様子。思ったよりも時間のかかりそうな任務らしい。
「サスケ、あとどれくらい残ってるってばよ……?」
出来ることならあと少しであって欲しい。そう願いながら尋ねるが、世の中はそう思い道理にいくようなものでもないようだ。
「まだ半分は残ってるだろうな」
「嘘だろ!?」
いくら此処が森の中とはいえ、太陽の光が刺して来ないわけではない。この気温の中で小さい物を探す集中力は段々と切れてきてしまう。これが任務だと分かっているからこそ、依頼品を探さなければいけないのは分かっているけれども。せめて、少しでも場所が特定できていればと思ってしまうのはこの際仕方がない。
「大切な物ならさ、なくさないように気をつけるよな……」
「気をつけていてもなくなったんだろ。依頼内容からして」
「だよな」
大切な物だからどうしても見つけて欲しい。そうやって依頼してきたのだ。それほど大切な物をなくさないように気をつけなかった、などということはまずないだろう。それでも何かの拍子に外れたのか、または外した時になくしてしまったというのが妥当だろう。
この道のどこかに落としたという首飾り。ただひたすら見落とさないように気をつけながらそれを探す。気がつけば、時間はどんどん過ぎていく。
日も落ちてきて、辺りが少しずつ夕焼け色に染まっていく。早く見つけないと、と思ったそんな時だった。
木々の間に一瞬だけ光る物を見た。それが何かは分からないけれど不思議そうに近づいてみる。一歩、また一歩と近づいたその先に輝いていた小さな石。
「これって、もしかして依頼の首飾り……?」
手に取って光に当ててみると、それは透き通った蒼をしていた。綺麗だな、とつい思ってしまうようなその輝き。確か任務を始める前にカカシに見せて貰った写真にも、こんな色の石のついた首飾りが写っていた。
「サスケ! あったってばよ!!」
その声にサスケはナルトの元へ行く。「見つかったのか?」と聞かれて「これのことだろ!?」と手に持っていた首飾りを見せる。その色にこの形、紐の形状からしてもこれが依頼品であることは間違いなさそうだ。
それを確認すると「やっと終わったってばよ!」とナルトは喜んでいる。そんなナルトを見ながら、サスケはカカシに依頼品が見つかったと連絡を入れる。一度始めの場所まで終業するようにと言われ、二人で来た道を引き返す。
「それにしてもさ、これってば凄い透き通った色だよな」
集合場所に向かいながら依頼品を片手にナルトはそう呟いた。手元にあると、それほどまでには感じない透明さ。けれど、これを光に当ててみればすぐに分かる。透き通った綺麗な蒼色の輝きを放つ。大名の娘の大切な物というだけあって、きっと値の張るものなのだろう。
あまりにも首飾りを見ているから「無くすなよ」と一言声を掛ければ「無くすわけないってばよ」と返ってくる。これだけ任務もやっていれば、そんなミスはなくなるというものだ。けれど、首飾りにばかり集中している様子は気にならないといえば嘘になる。
「サスケも、綺麗だと思わねぇ?」
ナルトがそう聞いた時、首飾りを持っていた手を掴まれた。どうしたのかと思いながら、ナルトはサスケのことを見た。その時、一瞬だけのキスをされた。
驚きながらも「いきなり何するんだってばよ」と声を上げれば、サスケの瞳と目が合う。
「オレは、そんな首飾りよりお前の蒼の方が綺麗だと思うけどな」
そう言ってサスケは掴んでいた手を離した。言われた方のナルトは頬を赤く染めている。先を歩き出すサスケに走って隣までやってきて並ぶ。
「オレの蒼って、なんだってばよ!?」
何を指しているのかは分かっている。分かっているけれど、突然すぎる言葉につい聞き返してしまう。ナルトが持っている蒼、それはただ一つしかない。
サスケは微笑みながら、ナルトのその質問に答えた。
「お前の目の色だ。その蒼なんかよりも、綺麗な蒼をしている」
優しい声でそう言われて何だか恥ずかしくなってしまう。でも、素直に嬉しいと言えるわけでもなく、だからといって何も伝えられないのも嫌で。視線を逸らしながら「ありがとう」と一言だけ呟くように言った。その声はサスケにちゃんと届いていたようで、微笑みながら「さっさと戻るぞ」と言われた。
空いている手で首飾りを持つ手とは反対の手を握る。その行動に、恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに「分かってるってばよ」と言いながらナルトもその手を握り返す。
いつもと変わらないこの日常。
そんな日常がつまらないと言う人がいる。それが幸せだと話す人がいる。
僕等の日常もいつも同じような繰り返し。いつもと同じだからこそ、大切な人との時を刻める。同じ時間を歩いていける。
だから、僕等のこの日常はとても幸せ。これからもこんな日常が続いて欲しい。
そう、思うのだ。
fin