「だから、絶対こっちのが良いってばよ!」

「何言ってんだよ。こっちのが良いに決まったんだろ!」


 ナルトとキバの二人が対立している。数分前にこうなってからずっとである。人間なのだから意見が合わないことくらい誰にでもあるだろう。その意見が纏まらず、真っ二つに分かれてしまうことがあるのも仕方がない。
 だが、少しくらいは譲ろうという気持ちがないのだろうか。ないからこうなっているのだろうが、これでは一向に進まない。そんな二人をサスケとシカマルは呆れながら見ていた。








 どうしてこうも話が纏まってくれないのだろうか。ナルトとキバの言い争いを眺めながら二人が思っていたことは同じだった。
 すんなりと意気投合する時もあれば今回のように意見が正反対になることもある。似たような性格をしているのだから仕方がないといえばそうかもしれない。二人とも、元気が良くて色々なものに興味を示す。意気投合されて巻き込まれるのも大変だが、こうしていつまでも譲らずに対立されるのもまた大変だ。

 とはいえ、これでもナルトとサスケの二人がぶつかり合うよりはマシかもしれないとシカマルはこっそり思っていたりする。今ここでそれを口にしたなら逆に騒ぎを大きくするだけだろうから絶対に言わないけれど。それこそ面倒なことになりそうだ。
 ちなみにナルトとサスケの場合、今回の二人のように性格が似ているから対立するのではない。性格が正反対だからこそぶつかり合って喧嘩にまで発展するのだ。些細なことでも喧嘩になるのだから厄介であり面倒でもある。勿論、これも今は言わないけれど。


「お前やっぱ馬鹿だろ。そっちのが良いなんてよ。絶対にこっちだ!」

「オレは馬鹿じゃねぇってばよ! 馬鹿なのはキバだろ!?」

「違ェよ! オレのがお前より成績良いだろうが!!」

「体育ならオレの方が上だってばよ!!」


 一体いつになったら終わるのだろう。終わりの見えない言い争いに溜め息が零れた。最初はどこに行くかという話だったはずなのに今は成績の話へとすり替わっている。その話さえ今はもう体育というよりスポーツの話題に進み始めているところだ。もはやいつ元の話まで戻ってくるのかも分からなければ、目的地が決まるのは当分先になりそうである。

 どうして二人が言い争いになったのかといえば、次の休みは何もないから出掛けようという話になったからだ。最初はスムーズに進んでいたのだが今はその跡形もない。
 元々はナルトとキバの二人で計画を立てていたのだが、どうせなら人数が多い方が楽しいからと殆ど強制的にサスケとシカマルも誘われた。行くとも答えないうちに有無を言わさず話は進み、仕方がないと二人が諦めるのはいつものこと。


「ったく、めんどくせー奴等だな」


 口癖を零しながら二人の様子を見守るシカマルは、そう思ってもあえて間に入ろうとは思わない。そちらの方が面倒だからだ。ここで口を出して片方につけばそれでまた言い争いは大きくなるし、そうでなくても下手に口を挟めばややこしいことになりかねない。
 正直なことをいえば、サスケもシカマルも場所などどこでも構わない。そもそも勝手に行くという話にさせられただけなのだ。面倒事を避ける為にもここは傍観に徹するのが一番だろう。


「この様子だと、いつまで経っても決まりそうにないな」

「だな。上手い具合に折り合いがつけば別だろうけどよ」


 果たしてそれはいつのことになるのやら。まだ当分先であろうことは十分承知している。すぐに話が纏まるくらいならとっくにこの話題は終わっているだろう。
 そんなシカマルの言葉にサスケは二人を見ながら「無理だろ」と零せば、同じくこちらも「無理だな」と返す。時刻は放課後であり、こうなったら言い争っている二人を置いて先に帰ってしまおうかとさえ思う。だが、それをしたらまた後々何か言われそうだからこそこうして残っている。しかし、こうして待っているだけというのも退屈なものだ。


「コイツ等の話が終わるまで何してるか」


 どうせ暫くは決まらねぇだろうし、とシカマルは付け加える。教室で特にやることもなくただ待っているのは暇であり時間の無駄でもある。宿題でもあればやっていた方がまだマシだろう。
 それはその通りだが、今日はどの教科でも宿題が出ていない上に現在出されている宿題も特にない。予習や復習はいつやっても良いものだが、それはあえて今やろうとも思わないといえば良いだろうか。普段は何でも人に押し付ける担任も今日は特に何も言ってこなかった。それについては正確にいうと既に終わらせてしまったからだが、何にせよ今やらなければいけないことは珍しく何もなさそうだ。


「やらなくちゃならないことはなさそうだが……」

「…………宿題も今日はなかったな」


 どうやら二人とも同じ結論に辿り着いたらしく、揃って溜め息を吐いた。
 やらなければいけないことがないのなら後はどうやって時間を潰すかだ。ただ時間が流れるのを待つよりも何かしながら過ごす方が有効的だろう。といっても、こちらもぱっと思いつくようなことはないのだが。


「そういやサスケ、お前はどこか行きたいトコとかねぇのか?」


 現在進行形でそれをナルトとキバが話し合っている。もとい、言い争っているわけだがその中に二人の意見は入っていない。それも特に希望がないからではあるが、特にやることがあるわけでもない。何もないと返されそうだとは思ったけれど話題の一つくらいにはなるだろう。
 案の定、サスケは「別にない」とだけ答えて「お前はどうなんだよ」と同じ問いを返した。こちらの返答も予想通り、これといって行きたい場所はないとのこと。

 普段から二人が気になるような場所はあまりなく、あったとしてもその都度二人で一緒に行ったりしているから改めて考えてもない時は何もないのだ。二人で出掛けるのは気になる場所が重なっていることも多いからである。
 サスケはあまり人混みが得意ではないが、自分やシカマルが行きたい所がある時にそういった場所に行くのは嫌ではない。むしろたまにはそうやって過ごすのも良いかと思っているくらいだ。理由は単純。


「あ、でも今度近くで小さい祭りがあるらしいぜ?」


 思い出したように言いながら「もう夏だしな」と晴天の空に視線を向ける。つられるようにサスケも視線を外に向けながら「祭りか」と呟く。別の場所では大きなお祭りもあるのだが、やはり夏というだけあって規模に差はあれどどこでも祭りが開かれる。


「ま、お前が人混み苦手なのは知ってるしオレもわざわざ行こうとは思わねぇけどよ」

「面倒という以前にお前もあまり好きじゃないだろ」

「まあな」


 その理由こそが面倒だからでもあるのだが、あの人混みの中に好き好んで行こうとはあまり思わない。きっと目の前の友人二人は喜んで祭りに行くのだろうけれど。


「つっても、せっかくの夏祭りだし一回くらい行くのも良いかもな。木ノ葉でやる一番大きな祭りは屋台も多いし、花火も結構な数上がるだろ? 何だったら花火だけ見るとかな」


 ナルト達のように進んであちこちのお祭りに行こうとは思わない。けれどせっかくの夏休み、沢山あるうちの一つくらい見に行ってみるのも悪くないかもしれない。
 そんなシカマルの言葉にサスケは少し考える。祭り自体は珍しいものでもなんでもないが、夏休みの予定が一つくらいあっても良いかもしれない。大規模なお祭りは疲れそうだが近所のお祭りくらいならほどよく楽しめそうだ。


「それなら予定を空けておかないとな」


 そう答えたサスケにシカマルは微笑む。まだ先の話だけどなと返せば「忘れるなよ」とこちらも小さく笑みを浮かべた。たまにはこうやって出掛けるのも悪くはない。


「さてと、んじゃいい加減コイツ等の話も纏めるか」

「面倒だから放っておくんじゃなかったのか?」

「このままだと見回りの教師が来るだろ。そっちの方がめんどくせーよ」


 おいお前等、と声を掛けたシカマルを見ながらサスケも立ち上がる。実際、シカマルの言うようにそろそろ帰らないと見回りの教師に怒られそうだ。
 だってと言い始めた二人をちらりと見て「決まらないなら中止で良いだろ」と鞄を手に取って歩き出すと、すぐに後ろから「あー! すぐ決めるから待てってばよ!」なんて声が聞こえてくる。追い掛けるように「あ、おいナルト!」とキバがナルトを追い掛け、そんな彼等の後を溜め息を吐きながらシカマルが歩いてついていく。

 帰り道。並んで歩きながら今度の休みに出掛ける場所を決め、それからは適当に雑談をしながら歩いていく。その中でやはりというか当然夏休みの話題も持ち上がっていた。
 夏休みはどこへ行く? その次はどこに行こうか?
 勝手にあれこれ決めて行く前の二人を眺めながら、ふとした瞬間に隣と目が合って微笑む。せっかくの、そうせっかくの夏休み。お祭り以外にも二人で出掛ける予定を立てようか。










fin