外は太陽が昇り、明るい日差しが窓から入ってくる。時計を見て時間を確認しながら学校へ行く準備をする。ふと、カレンダーに目をやった。そこには、今日の日付である六月九日という日にちが書かれていた。



どこにいても 貴方を祝う




「六月九日、か……」


 オレはカレンダーを見ながらそう呟いた。呟きながら、今此処に居ない奴の事を考える。考えた所でどうなるわけでもない。だから途中で考える事を止めた。考えたって仕方がないんだ。ソイツは此処に居ないのだから。
 ソイツというのはオレの兄――うちはイタチの事だ。勉強も運動も何でも出来る、所謂天才っていう奴だ。オレは学校での成績は良い方だが、それでも兄貴には追いつけない。必死で追いかけても兄貴には全然追いつけないが、それでも少しでも追いつけるように努力している。そして、そんな兄貴はオレの憧れでもある。小さい頃から何でも出来る兄貴が羨ましくて、いつかオレもそうなりたいと憧れていた。


「帰ってくるわけないからな……」


 考えるのをやめようとした所で結局はやめきれずに考えを続けてしまう。そんな事を考えたって仕方がないと分かっているのに。分かっていてもやめきれないのはオレが兄貴の事が好きだからだろうか。だから帰ってこないと分かっているのに帰ってきて欲しいと心のどこかで思ってしまうんだろう。
 オレは今、一人暮らしをしている。親と兄貴は別の所に住んでいる。単純に親の仕事の都合だ。オレが小学生の頃だっただろうか。親や兄貴と別れて一人暮らしを始めたのは。最初は当然反対された。けど、最終的には認めてくれた。だから、今こうして一人暮らしをしている。親たちは今どこの国で仕事をしているだろう。何度も移動しているから覚えても居ない。だから、今兄貴がどこで何をしているかも分からないわけだ。


「とっとと学校行くか」


 家に居ても余計な事ばかり考えるだけだ。それなら早く学校に行く方がいいだろう。いつもより少し早いが、早い分には問題もないだろう。
 元々家を出るのは早い方だ。家がこれだけ学校から離れていれば当然なわけだが。オレの言えは電車通学の中でも遠い方だ。中学校や小学校の時も学校から離れていた。それも学校が同じような場所に固まっているのだから仕方がない。

 学校ではいつも通りに過ごした……つもりだ。ナルト曰く、今日はいつもと少し違う気がしたらしいがオレ自身はそんなつもりはなかった。
 とはいえ、ナルトとは長い付き合いだ。好きでそうなっているわけじゃないが、幼稚園からずっと同じでクラスまで一緒とくれば嫌でも相手の事が分かる。とりあえず学校は何事もなく、とは言い切れないがいつも通りに終わった。そして、いつものように家へと帰った。



□ □ □



「何でアンタが此処にいるんだよ……」


 家に帰って思わず零れた言葉。今起こっている事が理解できない。理解するよりも前に疑問が浮かぶ。
 何でアンタがこんな所にいるのか。全く見当がつかない。大体、アンタは今もどこかに国に居るはずだろ。こんな所にいるはずがないんだ。
 けど、今目の前にいるのは紛れもなくアイツだ。だが、それならどうして今此処に居るのか。その理由が全くといっていいほど分からない。


「久し振りだな、サスケ」


 やっぱりコイツは本物。久し振りに聞いた声。それは前に会った時と変わっていない。そんな数ヶ月や数年で声は変わらないだろう。会えた事自体は嬉しいけれど、何でコイツが……。


「兄貴…………」


 コイツは今、両親と一緒に暮らしているはずだ。それなのにこんな所にいるなんて。連絡をとっていたわけでもない。急に帰ってきたんだ。驚くのも当然だろ。
 会えた事は素直に嬉しいけど……なんて、そんな事は決して本人には言わないが。言ったらなんて言われるか分かったものじゃない。


「何で兄貴がこんな所に居るんだよ」


 一番最初の疑問を兄貴に問う。本当なら居ないはずの奴が居るんだ。まず最初に気になることはこの事だろう。
 明日が休みだから今日、此処に来れるのは分かる。だけど連絡の一つぐらい入れても良いだろう。急に来られても何も出来ない。たまにしか帰ってこないんだから、帰ってきたら何かしたいと思うのは間違ってないだろう。次は何時帰ってくるかも分からない相手なのだから。


「こっちにちょっと用があってな。そのついでに寄っただけだ」


 用があったから、か。大学生である兄貴はこっちの学校に在籍しているが、金曜に来るようなんてあるだろうか。本当は他の理由があるんじゃないのか。そうは思っても思いつかないから分からない。それにこれ以上聞くつもりも無い。
 兄貴は親と一緒に暮らしてても学校はずっとこっちだ。全部通信教材でテストを受けて満点をとっている。勉強してるわけでもないのだからやはり凄い。


「ついでってな……」

「ダメだったか?」

「そういうわけじゃねぇけど」


 駄目なわけない。兄貴が着てくれたことは嬉しいし、会えた事だって嬉しいんだ。その気持ちは否定しない。今日はいつも以上に兄貴に会いたいっていう気持ちがあった。だから尚更だ。
 そういう兄貴だって今日此処に来たんだろ? わざわざ来たのは会いたかったからとかじゃないのか? 兄貴の言動からもそんな感じだと思える。それはオレの勝手な想像だけど、そう思ってくれれば良いっていう願いかもしれない。


「だったら良いだろう」


 本当はこう言っていても来てくれる事は嫌じゃない。それに、いつだって来ていいと思ってる。此処はオレだけの家ってわけでもないんだ。兄貴や親が帰って来れる場所なんだから、いつどんな時に来たって構わない。
 それでも、どうして帰ってきたのかとか、連絡をいれて欲しいと思ってしまうのはせっかく来てくれる兄貴に少しでも何か出来る事があればしたいからだ。


「けど、連絡の一つくらい入れろよ」

「あぁ。次からはそうする」


 そう言っても入れないで来る事は度々ある。今までだってそうだから。兄貴はあまり連絡をとったりしない人なのだ。


「とりあえず入れよ。こんな所にいられても困る」


 何で兄貴はいつもこう外で待っているのだろうか。鍵だって持ってるんだから入れば良いのにな。そう言っても、家主が居ないのに入るのはなんて言う。
 家主っていうが、兄貴だってこの家の人だ。今は他の所で暮らしてるからオレがこうして一人で住んでるだけ。兄貴の家でもあるんだからオレの許可なんて必要ないのにな。


「それと……誕生日、おめでとう」


 今日という日に一番言いたかった言葉。伝えたいと思っていたけど言えないと思っていた言葉。
 だけど、今日こうして兄貴に会う事が出来たから伝えたかったこの言葉を伝える。今日は兄貴の誕生日だから。おめでとうという言葉を送る。他にあげられる物なんて今はないけれど、この気持ちだけは偽りなく兄貴に伝えたい。
 誕生日おめでとう。今日、兄貴に会えてオレは嬉しい。











fin