任務を終え、火影の元へ報告を済ませると一週間の休暇を言い渡された。そうして部屋を出ようとしたところで「そうそう」と聞こえた声に足を止めれば、六代目は「アイツらによろしくな」とにっこり笑った。
 アイツら、という言葉が誰を指しているのかは何となく予想ができる。だが、ソイツらと会う予定は別にない。もし会ったらという意味だとしてもオレよりもアンタの方が会うだろうと思いながらサスケは今度こそ火影室をあとにした。それが十分ほど前のこと。


「サスケ! 久しぶりだってばよ!」


 火影邸を出て間もなく、聞こえてきた声に顔を上げる。するとそこには、見慣れた仲間の姿があった。


「……どうしてお前たちがここにいる」

「偶然だってばよ、偶然。なあサクラちゃん」

「私も今さっきナルトとここで鉢合わせたの。まさかサスケ君にも会えるなんて」

「やっぱさ、同じ七班の仲間としての運命ってヤツだよな!」


 本当にこの再会が偶然である可能性はゼロではない。どんなに確率が低くとも同じ里の忍だ。こういった場所で偶然顔を合わせることもあるだろう。
 しかし、あまりにタイミングがよすぎる。さっきのカカシの発言も相まって、偶然よりも必然に感じられるのは決して気のせいではないだろう。


「あの、サスケ君」


 思わず頭を抱えたくなるこの状況で控えめにサクラが声を掛けた。


「長期任務から帰ってきたばかりで疲れてるとは思うんだけど、よかったら少しだけみんなでご飯に行かない?」


 私たちがこうして揃うのも久しぶりだし、と。提案したサクラに真っ先に反応したのはナルトだった。


「お、賛成! サスケもちょっとくらい付き合えってばよ。別にこのあとは予定なんてないだろ?」

「……確かに予定はないが、どうしてお前がそれを知ってる」

「え!? いや、えっと……ほら! 長期任務のあとって大抵休暇がもらえるだろ? だからサスケも暫くは里にいるんだろうなぁって」

「ね、サスケ君! 本当に少しだけでいいから!」


 ナルトの話を遮るようにサクラが言う。やはり、この二人はサスケが里に戻ってきたことを知ってこの場所で待っていたのだろう。それはこの反応を見れば明らかだ。
 だが、その目的は未だに見えてこない。サクラが言ったようにサスケが里に戻ってくるのは四ヶ月振りになる。単純に久しぶりに一緒に過ごしたいというだけの話なのか。


「少しだけだぞ」


 疑問は残るが、かといって二人の誘いを断る理由もない。
 たった一言、そう返しただけで二人は嬉しそうに笑う。そんなかつてのチームメイトたちを見たサスケの口元も自然と綻ぶ。


「ありがとう、サスケ君!」

「それじゃあ早速一楽に……」

「バカ、なんで一楽なのよ!」


 この暑い日にラーメンを食べるつもりかと尋ねるサクラにだからこそラーメンが食べたくなるのだと答えるナルトは昔から変わらない。
 そういえば前にも似たようなやりとりをした覚えがあるな、と何かが頭の片隅に引っ掛かる。
 あれはいつのことだったかと記憶を手繰るより早く、仲間たちがサスケを呼んだ。どうやら目的地はサクラが決めることになったようだ。太陽が燦々と輝く中、久しぶりに仲間たちと木ノ葉の里を歩き始めた。



 □ □ □



「あれ、こんなところで会うなんて偶然だね」


 昼食のために移動した先で出会ったのは三十分ほど前、火影室で話をしていたその人だった。
 ナルトは「え、カカシ先生!?」とここでも偶然を装ったが、誰がどう見ても偶然ではない。分かりやすい三人の嘘にとうとうサスケは溜め息を零した。


「アンタまで何やってやがる」

「何って、見れば分かるでしょ」

「そういうことじゃねぇよ」


 まあまあと笑うカカシに勧められてとりあえず三人は同じテーブルにつく。言いたいことは色々あったがまずは注文が先だとメニューを広げられた。
 その中から適当に選び、店員に声を掛けたところで漸く四人は顔を見合わせる。こんな風に四人で一つのテーブルを囲むのは本当に久しぶりだった。


「それで、三人揃って何を企んでる」


 かつてのチームメイトたちを見回してサスケが言う。
 その言葉に真っ先に反応したのはナルトだった。


「何も企んでなんかないってばよ! 偶然だってばよ、偶然。いやーこんな偶然もあるんだなぁ」


 どこまでも偶然というていで進めていくつもりなのは分かったが、それにしても嘘が下手すぎる。後半になっていくにつれて棒読みなっていったナルトの前でサクラはこほんと一つ咳払いをした。


「細かいことはいいじゃない。せっかくみんなで集まったんだし、楽しく過ごしましょう! 今日は六代目が奢ってくれるって言うし」

「ま、最近はこういう機会もなかったしね」


 ちらっと視線を向けられたカカシは少しだけ考える素振りをしたものの快く頷いた。カカシの奢りという事実に「マジで!?」と顔を輝かせたナルトに「ちょっとアンタは黙ってなさい」とサクラが突っ込む。
 容赦のないサクラにナルトは肩を落とすが、これも七班として一緒に任務を受けていた頃はよく見た光景だ。どことなく懐かしさを感じる。

 それから料理が運ばれてくるまで他愛のない話をする。なんてことのない話をしながら過ごす時間はとても穏やかで、気がつけばテーブルには料理が並んでいた。


「よし、それじゃあ!」


 料理が揃ったところで声を上げたナルトはニッと笑みを浮かべ、大きく息を吸って。


「誕生日おめでとう!」


 それから三人の声が重なった。
 予想外の言葉にぽかんとしたサスケを三人はにこにこと見つめる。


「やっぱり誕生日のこと、忘れてたな!?」

「まあ今日まで長期任務だったんだし仕方ないでしょ」

「長期任務じゃなくてもサスケが覚えていたことなんてないってばよ」


 あとカカシ先生もよく忘れてるよな、と続けたナルトに「オレは誕生日を祝われるような年でもないからね」とカカシは軽く受け流す。それに対してナルトは何歳でも誕生日は祝うものだと主張した。


「サスケ君が今日、任務で帰ってくるって聞いたからみんなでお祝いしようって話になったの」


 サクラの言葉を聞いて少々強引に誘われたわけを理解する。そして火影室で会ったカカシがここにいるのも仕事の合間にわざわざ時間を作ったからだろう。
 そこまでして誕生日を祝う必要もないんじゃないかという考えも僅かに浮かんだが、先程ナルトが口にした誕生日は祝うものだからという理由で元チームメイトたちはこの場を用意してくれたのだろう。偶然を装ってそのために集まった彼らにサスケは小さく笑みを浮かべた。


「……ありがとな」


 一言、お礼を述べたサスケに三人は嬉しそうに笑う。それから誕生日プレゼントを受け取り、漸く運ばれてきた料理に手を付けた。
 美味しい料理を食べながら大切な仲間たちと笑い合う。それはとても幸せな時間だと感じながらサスケもまた箸を伸ばした。






それは仲間たちによるお祝いの日