「ねぇ、サスケ」

「何だよ」

「オレとお前が出会たのっていつだと思う?」

「は? 急にどうしたんだよ」



の出




 今日は任務はない。簡単にいってしまえば休日ということになる。その休みにカカシはサスケと一緒に演習場に居た。どうして演習場なのかといえば、サスケが修行をすると言いそれにカカシが付き合うという結果になったからである。
 その修行を一度中断し休憩している時。ふと、カカシが尋ねてきた。


「どうしたも何も、出会ったのはいつだと思ってるのか聞いてるの」


 突然すぎる内容に「何でまた急に……」とサスケが呟いている。その隣ではカカシが「いいから答えてよ」などと言っている。
 どうしてこんなことを聞き出すのかは分からないが、どうしても答えて欲しいだろうという様子にいつだっただろうかと考えてみる。七班として任務を初めてから一年という月日が経っている。この担当上忍との付き合いも一年は経っているのだ。深く考えずとも、それがいつだったかが分かっていれば出会った日は大体分かった。


「オレが下忍になった時だろ」


 質問に答えれば「はずれ」という言葉が返ってきた。その言葉にサスケは疑問を浮かべる。
 自分達が出会ったのは、下忍になったサスケ達が班編成を発表された日。なかなかやってこない担当上忍を待ち、その担当上忍というのがこのカカシだった。
 どう考えても初めて会ったのはその時のはず。それが違うというのなら、一体いつだというのだろうか。


「だったらいつだよ」


 他に思いつかないといえば、カカシが笑みを浮かべながら話す。


「サスケが言ったのは、オレがサスケの担当上忍として逢った時でしょ?」

「それ以外に何があるんだよ」


 担当上忍として会ったあの日。それ以外に思いつかなかったからそう答えたのだ。それなのに違うと言われ、他に心当たりなどない。もう一度考えてみても特に思いつくものはない。
 見つからない答えにさっさと答えろと言いたげにカカシを見る。質問していたのはカカシだが、今のこの答えが気になるのはサスケだ。自分の考えと違うと言われれば気になってしまうのも仕方がないというものだ。


「オレとサスケは、もっと前に会ってるんだよ」


 覚えてないかと付け足されるが覚えていない。分からない答えに「いつ話だ」と問う。もう一度「覚えてないんだね」などと言っているが「覚えていたら聞いたりしない」と返す。最もな意見にそれもそうかと呟くように言う。結局いつなのかと答えを待っていれば、漸く言葉が続けられる。


「ま、あの時サスケはまだ小さかったからね。覚えてなくても無理ないか。確かサスケが忍者学校に入学して間もない頃だったかな…………」



□ □ □



 時は夕方。カカシは買い物に行った帰りだった。なんとなくいつもと違う道に入ってきたのは少し前のこと。
 歩いて行くと、誰かが向かってくるのが分かった。ここは道なのだからそれは当然だ。特に気にもとめずに歩いていく。段々と距離が近くなっていくことを感じていると、次第にその姿を捉える。その姿を見ると、なぜか互いに立ち止まる。


「おじさん、何してるの?」


 そう声を掛けられ、カカシは目の前の子供の姿を見る。その姿には見覚えがあった。己の頭脳に記憶されている子供であり、偶然今日見掛けた子供でもある。


「ん? 買い物の帰りだよ」


 簡潔に答えれば「へぇ」と納得している。視線は自然と持っている買い物袋に向けられているようだ。
 少しの間は買い物袋に向けられていた視線もいつの間にかカカシの方に戻されていた。そして、次に続けられた言葉にはカカシの方が驚いてしまう。


「そういえば、昼に忍者学校に来てたよね?」


 その問いに思わず「えっ」と言葉を漏らしてしまう。驚いているカカシを見ながら「違った?」と聞かれて慌てて「そうだよ」と答える。するとやっぱりそうだったんだ、と言いながら少年はカカシを見る。
 正直、気付かれているなんて思っていなかった。忍者学校なのだから生徒達に見られていても不思議ではないのだが意外だったのだ。一方的にカカシが彼を見ているとばかり思っていたから。


「よく気付いたね。オレが忍者学校に行ったことに」


 普通なら気付きそうもないんだけどな、と言えば気付くと言われてしまった。遊んでたりすればいくらすれ違っても気付かないだろうと思う。それもこの子だったからこそ気付いたのではないかと思うが、そう言ってもまた同じことを言われてしまうだろう。
 そんなことを考えていたところでまた疑問を投げ掛けられる。それも予想外の質問で驚いた。どうしてそんなことが分かるのだろうと疑問を抱いてしまうほどだ。


「おじさんってさ、上忍なんでしょ? だからオレのことも知ってるんだよね」


 己が上忍ということまで知っているのは不思議で仕方ない。カカシが着ているベストは中忍が着ているものと同じものだ。それだけでは判断しがたい。いくら己が他国にまで名を知られているほどの忍だとしてもこのくらいの子供が知っているとも思えなかった。つい浮かんでしまった疑問をそのまま質問してみる。


「そうだけど、どうしてそんなことも知ってるの?」

「父さんや兄さんが言ってたから」

「あ、それでね」


 納得のいく答えが出てきて素直に納得する。この子の父親や兄が言っていたというのなら知っているのも納得がいくというものだ。カカシ自身、その人達とは面識がある。それも昔の友人が同じ一族の人であったり、その友人から受け継いだ一族特有のものを持っていたりするし、この子の兄とは一緒に任務を行ったこともある。そんなことからカカシは結構うちは一族のある土地を訪ねたりしているのだ。


「そういえば、サスケ君はこんな時間まで何してたの?」


 ふと思いかんだことを聞いてみれば「忍者学校で修行をしてたんだ」と返ってきた。だからこんな時間に帰り道を歩いていたらしい。
 わざわざ残って修行をするというのは相当熱心なのだろう。早く強くなりたいと思って居残りをしていても、ここまで残ってやってくる子供はあまり多くはないのではないだろうか。修行をしていたと言うだけあって服が汚れていることが分かる。


「なんでそんなに頑張るの? いつもやってるみたいだけど」

「オレは、兄さんに追いつきたい。だから、いつも忍者学校に残って修行をしてるんだ」


 兄という言葉を聞いて「アイツにねぇ……」と呟きながらその姿を思い浮かべる。
 彼の兄であるイタチは、本当の天才と言ってもいいのではないだろうかというほどの実力者だ。何でもすぐに出来てしまうほどの優秀さで、聞いた話によれば火遁の基本忍術である“豪火球の術”も一度印を教えただけで出来たらしい。そんなことがあるのだろうか、と思うかもしれないがこれは事実なのである。
 サスケはそのイタチのことを尊敬している。そして、同時に追いつきたいと思う存在なのだ。それが難しいことであるとはいえ、頑張っている様子を見ると応援したくなってしまう。


「それより、おじさん」

「サスケ君、おじさんって言ってるけど、オレまだ二十代なんですけど」

「でも、オレぐらいの人ならそう言うと思うけど」

「そうかもしれないけど、おじさんじゃなくてお兄さん」


 もう一度訂正をすれば「分かった」と返事が聞こえる。二十代なのだからおじさんではなくてお兄さんでも十分通用するだろう。七歳のサスケからすればそう言ってしまうのも無理がないといえばそうなのかもしれないが、それでもおじさんは少なからず傷つくというものだ。せめて三十代に入ってからじゃないかと無駄に考えてみる。
 こんな風に話している間にも時はゆっくりと刻まれている。そういえば、と時間のことを思い出して「そろそろ帰った方がいいんじゃない?」と尋ねてみる。すると「あ」とまるで時間のことを忘れていたようだった。続けるように「もう帰らなくちゃ」と言っている。


「じゃぁね」

「うん。あっ、そういえばおじさんの名前は?」


 別れの言葉を交わし、歩き出したかと思うと振り返って聞かれた言葉。名前を尋ねられることは何度もあるが、こういう場面で聞かれることはあまりない。確認するかのように「名前?」と聞き返せば頷いている。<


「はたけカカシだよ」


 答えると、小さく笑みを浮かべて「また、会えるといいね」と話す。それに同意見だと示すと、二人はそれぞれの帰り道を歩き出す。



□ □ □



「サスケ君、これでいつ会ったのか分かった?」


 疑問系で聞くと「あぁ」とだけ返ってくる。いつもと変わらない言葉に「でも、覚えてないんだよね……」なんて言ってみる。
 あの頃はサスケもまだ忍者学校に通い始めた頃だった。覚えていなかったとしても無理はない。カカシが覚えていたのは、サスケがうちは一族本家の息子ということがあったからだろう。他の子供だったら覚えていなかったと思う。だけれど、サスケだったらうちはだろうがそうでなかろうが覚えていたのかもしれないなんてことも思っていないわけではない。


「……あの時、アンタが他の奴とは違う気がしたんだ。だから、アンタに気付いた」


 突然言われた言葉にカカシは「え」と驚きの声をあげる。覚えていないのであれば、そんなことが言えるわけがないのだ。


「サスケ、覚えてなかったんじゃ…………」


 言えば「覚えてなかった」とそのまま返されてしまった。分からない答えに「それじゃあ何で?」という疑問を投げかければ、少しの間が空いてから答えが届く。


「覚えていなかった……けど、全部じゃない。オレがアンタを見て思ったこととか、そういうことは覚えてる」


 言い終わると「それがアンタのことだって忘れてたわけだけどな」と付け足される。カカシのことだと覚えていなかったとしても、その時のことを覚えていたということに違いはない。
 その事実が何だか嬉しくてつい「本当に?」と聞き返してしまう。


「信じるも信じないもアンタ次第だ」

「オレは信じるよ。サスケがオレに嘘をつくわけないからね」


 その根拠はどこにあるんだと言いたくなってしまうが返ってくる言葉が予想できて止めてしまう。いつも根拠のない自信を持っていて、どこから出てくるのかと聞きたくなるが聞いたときにまともな回答が返ってきたことはない。今回も同じようになることは目に見えている。


「でもさ、凄いと思わない? この世界には何万人、何億人っていう人が居る。その中でオレ達なんてほんの一部なのに、この世界で出会えたことがさ」


 カカシの言う通り、この世には何億人という人が居る。その中では忍の里として大きいと言われている木ノ葉の里でさえも小さなものだ。己が知っている人というのは、この世界に居る人数と比べてみれば本当に僅か。その僅かな人の中で出会うことが出来た。沢山の中から偶然出会うことが出来たこの確立は、どれだけ小さなものなのだろうか。
 全くその通りなカカシの意見にサスケも「確かにそうだな」と同意する。あまり普段は考えないことだが、考えてみれば凄いことだと分かる。


「でしょ。オレ達がこうやって出会える確率なんて何億分の一なんだよね。でも、そんな何億分の一っていう確率で出会えたんだよね」

「そんな数少ない確率でよく会えたな」


 こんなにも少ない確立で出会えること。それは「偶然かな」と聞いてみれば「だろうな」と言われる。偶然でなければ、他にどんな表現をしたらいいのだろうか。沢山あるはずの表現があまりに数少ないように思えてしまう。どう表現すればいいのか、相当するものを見つけるのも大変そうだ。


「でも、オレ達は偶然なんかじゃなくて結ばれて出会ったのかもしれないよ?」


 偶然という話から結ばれていたなどという話になりつい呆れてしまう。どうしたらそんな考えになるのだろうか。つい「何馬鹿なこと言ってんだよ」と言えば「サスケは、どう思うの?」などと返ってくる始末だ。どう思うも何も、結ばれていたのかもしれないと考える方がどうなのかと聞いてしまいたくなる。
 どうしても答えを返してもらいたいような様子に、溜息の一つくらい出てしまいそうな気分になる。とりあえず「どっちもあるんじゃねぇの」と答えれば「それってずるいでしょ」と言う。選択の中に両方という回答はないといいたいのだろう。けど、元よりこの質問に正しい答えなどないのだ。


「偶然かもしれないし、必然かもしれない。逆に、偶然が必然にしたのかもしれない。正しい答えなんて分からねぇよ」


 さっきの答えの理由を述べれば「確かに、サスケの言う通りかもね」とカカシも考える。偶然も必然も、どっちなのかは分からない。この世に生きているうちに答えを見つけることすら出来ないに近い。どちらかだと思うことは出来ても、本当の答えを見つけるのは不可能に近いのだ。


「どうしてそんな確率でオレ達が逢えたのかなんて、オレ達が知ってるわけ無いだろ」


 これからも見つからないだろうというのは既に分かっている。知っているがないからこそこうして考えるのだ。サスケの言うことは間違っていない。
 正しい意見をカカシも頷きながら聞いていると「でも」と言葉を発する。さっきまでとは違う感じに、続けられる言葉に耳を傾ける。


「でも、オレはアンタに出会えてよかったと思う」


 しっかりとカカシのことを見ながら話す言葉には、本当にそう思っているということが伝わってくるものだった。偽りのないはっきりとした言葉にカカシは笑みを浮かべながら同じように話す。


「オレもサスケに会えてよかったよ」


 浮かべられた笑みにサスケも小さく微笑む。この広い世界の中で出会えたことに感謝しながら。

 この世界で人と人が出会える確率は何億分の一。その出会いが偶然かどうかということは分からない。けれど、出会えるということは本当に偶然なんだろう。
 数少ない己が出会う人の中。この世界で誰よりも自分が大切に思える人に出会えることは、本当に凄いことである。そして、嬉しいことでもある。
 これからもこの偶然の出会いを大切に過ごしていこう。










fin