それ終わったら貸してくれない。ちょっとこっち手伝ってよ。
そんな言葉が飛び交う教室内。此処、木ノ葉学園は来週に学園祭を控えている。現在はクラス全員で学園祭の準備中だ。机を端に寄せて、床の上に色々な物を広げて作業を進めている。
只今、学園祭準備中
「よっしゃ! これで完璧だってばよ!!」
大きな声がざわざわとしている教室に響き渡る。その声に周りのクラスメイトも作業の手を一度止め、声の主であるナルトの方を振り返った。右手に刷毛を持っている彼の傍には、完成したばかりの看板がある。その傍までやって来たクラス委員は、それを見て深い溜め息を吐いた。
「おいドベ。もう少し考えて作れなかったのか」
「なんだってばよ、サスケ。良い感じに出来てるだろ」
良く見ろってばよ、なんて言う様子を見ながら二度目の溜め息。そんなサスケの態度にナルトは周りに同意を求めてみるが、みんな適当にはぐらかして特に何も言わない。つまり、サスケと同じ意見なのだろう。
続いてやってきたもう一人のクラス委員も、それを見るなり溜め息を吐いてくれる。どうしてこんな看板になってしまったのだろうか、とは此処に居る全員の意見だ。
「アンタね、原案通りにとはいわないけどこれは流石に使えないわよ」
「サクラちゃんまで…………」
「お前に任せたのが間違いだったか」
二人に散々言われているナルトは「酷いってばよ」と言っているが、これは明らかに人選ミスだ。一体どうしたのかといえば、確かに看板は完成したのだ。しかし、これは少々派手すぎる。カラフルな看板で人目に付きやすいといえばそうかもしれないが、カラフルすぎてちょっと目が痛い。せめて色を抑えるとか何かなかったのだろうか。それが出来ているのならこんなことにはならなかっただろうが。
クラスの出し物が決まった後、誰が何を準備するかは話し合いで決めていった。その中で、ナルトの担当は看板制作になった。原案はクラス委員にも確認して貰っており、その時点では問題はなかったのだ。
「大体、どうしてお前達は止めなかったんだ」
そう言ってサスケはナルトの周りに居た、同じ看板制作を担当していたクラスメイト達に視線を向ける。自分達にも話が来ることは分かっていたのだろう。だってよ、と言いながらキバが口を開く。
「オレに任せておけって、ナルトの奴が好きに始めちまうから」
「それを言うなら、キバだってこれで良いかって聞いた時に良いって答えたってばよ!」
「そりゃ言ったけど、こんな風になるとは思わなかったっつーの!」
言い争いを始めた二人は放っておいて、次はその隣に視線を投げる。向こうも気付いたようで、溜め息を吐きながら状況を説明してくれた。
「看板なんてある程度完成は予想出来るだろ? めんどくせーし、ナルトがやりてぇならそれで良いと思ったんだけどよ」
その判断が間違ったらしい。そう話してくれたシカマルが取った行動も悪いとは言い切れないだろう。シカマルに限らず、ナルトをこの担当にしたこと自体が不味かったのだというのはサスケも理解している。キバにも非はないし、ナルト自身にも非がある訳ではない。しいて言うなら、こういう役割分担で始めてしまったことこそがいけなかったのだろう。
「どうやったらああなるんだ」
「あー……途中でちょっと失敗してよ。それを修正する為に色々やったら、取り返しがつかなくなったつーの?」
「もっと別の修正方法とかなかったの? それこそ、シカマルがどうにかすれば良かったじゃない」
「オレが口出すより前に、アイツ等がこうすれば平気だろってどんどん進めていったんだよ」
アイツ等、というのはアイツ等のことだろう。今もそこで言い争いを続けている二人。その現場を見ていた訳ではないが、どんな展開だったのかは容易く想像することが出来た。
このまま話をしていても埒が明かない。駄目になってしまったものは今更どうしようもない。学園祭までの日程も迫っているのだから、少しでも作業を進めることが優先だ。
「とりあえずもう一度作り直せ。これを使う訳にもいかないだろ」
「だよな……。おいナルト、キバ。そういうことだから、めんどくせーけどやり直しだ」
「ええ!? これもなかなか上手くいってると思うってばよ、サスケ」
「いいからさっさと作り直せ、ウスラトンカチ」
「ナルト、次は絶対間違えんなよ」
「いざ書くとなったら緊張するんだってばよ! それならキバが書けよ」
一度は納まったと見えた言い争いがまた再開しそうな雰囲気だ。しかし、早くしろというクラス委員の一言により何事も起こることなく作業に戻ることとなる。クラスメイト達もこのやり取りを作業をしながら見守っていたのだが、これで漸く作業の方に集中出来そうだ。
「心配だったら、サスケ君も看板作りを手伝ったら?」
「流石に二回目は大丈夫だろう。オレにはこっちがあるからな」
「それもそうね」
クラスの出し物なのだから、クラス全員で準備をしている。当然、クラス委員であるサスケやサクラにもそれぞれの仕事があるのだ。彼等はクラス出店の会計役を担っていて、そちらの計算をしている途中だったのである。こちらの作業が一段落ついたら様子を見に行くとしても、まずは自分の役割を進める。
先にサスケの言ったように、流石に二度目となれば同じことを繰り返したりはしないだろう。ドベだウスラトンカチだと散々言われているが、ナルトもそこまで馬鹿ではない。それに、周りもどうにかしてくれるだろう。
「とりあえずさ、この色とこの色を合わせたら良い感じになるんじゃね?」
「なんでわざわざんなことすんだよ。そのまま使えば良いだろ」
「こっちの方が絶対良いってばよ!」
「本当、めんどくせー奴」
そんなやり取りが聞こえてくれば心配にはなるが何とかなるだろう。
学園祭まで残り一週間。果たして、どんな学園祭になるのだろうか。
fin