木ノ葉隠れの里を訪れていたとある大名の娘の護衛を任された七班は暫し里を離れる短期任務に就いていた。護衛任務といえど特に何者かが襲ってくることもなく無事に依頼を達成した四人は現在、里に戻る途中の山道で野宿の準備をしていた。
任務で何度か野宿を経験していることもあり、それぞれ作業を分担して夕飯を済ませた頃にはすっかり太陽が西の空へと沈んでいた。代わりに東の空には月が昇り、頭上は無数の星で溢れていた。
「にしてもさ、ここってスッゲー星が綺麗に見えるよな」
沢山の星を見上げながら思わずナルトはそう口にした。気のせいかいつも部屋の窓から見える星よりも一段と輝いているように見える。そんな風に話すナルトに「ここは山奥だからね」とカカシも空を見上げる。
だがそのカカシの言葉に「どういうことだってばよ?」と疑問が返って来たのにはナルト以外の三人はそれぞれ呆れや驚きの表情を浮かべた。
「アンタね……それくらい忍者学校でも習ったでしょ?」
「そうだっけ?」
はあ、と溜め息を吐きながらもここは里の中と違って光が少ないから星の明かりが見えやすくなるのだとサクラは説明をした。そういった光があると小さな星の光は掻き消されて見えにくくなってしまう。この場所のような山奥では星に影響を与えてしまうような光がないため、いつものより星がよく見えるわけだ。
「へえ。流石サクラちゃん!」
「んなもん常識だろ、ドベ」
物知りだとサクラを褒めた横で呟いたサスケに「んだと!?」とナルトはすぐに突っかかる。だがそれを「まあまあ」とカカシが宥めた。
日常茶飯事となっている二人の喧嘩の間にサクラやカカシが入るのは最早お決まりである。とはいえ、正直なところこれくらいのことは常識だと思っていたわけだが、この際だからとカカシも一つナルトに教えておくことにする。
「けど、星は道標にもなるから知っておいて損はないよ」
「みちしるべ?」
「北極星はいつでも北にある。それを目印にすれば方位は分からなくならないからね」
へえとまたナルトは感嘆の声を上げる。他にも季節の星座を覚えておけば時間や方位を星で知ることが出来ると付け足したが、それについての詳しい説明はまたの機会だ。一度にあれこれ説明しても覚えられなくなってしまうだろう。
だが、星というのはただ空にある綺麗なものというだけではなく忍にとっては重要な役割を担っているものでもある。星を目印にすることは大切なことであり、そのために忍者学校でもそのような授業があった。尤もナルトはその授業を寝ていたかサボっていたかして全く覚えていなかったわけだが、これは忍としてやっていく上で大事な知識だ。
「ほら。あそこに一際目立つ星があるでしょ? あれが北極星」
「えっと、あれかってばよ?」
「その近くにある七つ並んでいる明るい星が北斗七星ね。それを目印にするのも良いわよ」
「またはカシオペア座だな」
次々と出てくる星の名前にナルトの頭上には幾つもの疑問符が浮かぶ。
北斗七星? カシオペア座? と明らかに理解が追い付いていない様子のチームメイトに「ほら、あそこの柄杓の形をしている星が北斗七星よ」とサクラが。向こうのWの形をしているのがカシオペア座だとサスケも星を指して補足する。
「でもさ、どうしてその二つが北極星の目印になるんだ?」
「どっちも北極星から一定の距離にある分かりやすい星だからよ」
それ故にこれらの星が目印になるのだと言われて成程とナルトも納得する。本当に分かっているのかとサスケに聞かれて「分かってるってばよ!」と答えたのは嘘ではない。ここまで丁寧に教えられればこれくらいは覚えられる。
けれどこれ以上の説明をされてもそれは少し厳しいかもしれない。しかしその辺りのことは七班のチームメイトとして短くない時間を共に過ごしている彼等も分かっている。とりあえず北極星は北の目印になるということでこの話を纏めようとしたのだが。
「じゃあさ、もしみんながバラバラになっても北極星の方に進めば会えるんだよな?」
いつでも北に見えるから道標になる。そのことからナルトが口にしたそれに周りはきょとんとした顔を浮かべた。そんな周りの反応にあれとナルトも首を傾げる。その中で一番先に口を開いたのは彼等の担当上忍であるカカシだった。
「んー……ま、いつかは会えるかもしれないね」
「北に進むだけで会えたら苦労はしねぇだろ」
「カカシ先生は会えるって言ってんじゃん!」
「会える“かも”しれないだろ」
つまり会えるのだろうと何やらまた言い争いでも始まりそうな雰囲気に「もう、そのくらいにしておきなさいよ」と今度はサクラが間に入る。それから北といっても範囲は広いのだから北極星を目指すだけでは難しいのではないかと自分の意見も述べた。
それを聞いたナルトは「ええー」と落胆するが、でも絶対に会えないわけではないんだよなとまだ諦めきれない様子だ。会えるか会えないかでいえばほぼ会えないだろうと言いたいところだが、確率が零であるかと聞かれれば。
「そうね……絶対とまでは言いきれないのかもしれないけど」
「だよな! だって同じとこ目指してるんだし!」
「北極星に向かって進むことは同じところを目指していると言えるのか」
「良いんじゃない? 信じてれば本当に会えるかもしれないよ」
少なくとも何の目印もなく闇雲に進むよりは会える可能性は十分あるだろう。いくら星が遥か彼方にあるとしても全く別の方向へ進むことにはならない。
自分の主張を他のメンバーも認めてくれたところでそれなら今度からもし何かあったら北極星を目指そうと言い出したナルトには、それはまずインカムで連絡を取るなりするべきだろうと突っ込む。でもいざという時はと話すナルトにまあその時はということで今度こそこの話は終わりとなった。
一つの星を目指して
進めばいつかは再び会える
それはそこまで単純な話ではないのだろうけれど
仲間を信じて同じ星を目指せばきっと、僕等は出会えるだろう