デスクワークが苦手な火影様が仕事に打ち込むようになって早数週間。今までが今までなだけにその行動に驚く仲間達は多かった。その理由を知っているサスケは楽しそうにその様子を見守っていたが。
そして、その頑張りが報われて念願の休暇を手に入れた。そうはいっても、火影が長期間里を離れる訳にはいかずに僅かな時間しか取れなかった。こればかりは仕方がないが、これで漸くあの日の約束を果たすことが出来るのだ。
光溢れる世界に夢を乗せて 番外編
「久し振りだってばよ!!」
波の国に着くなり大はしゃぎする火影様に溜め息を漏らす。ナルトらしいといえばらしいのだが、だからといってこのまま放っておく訳にもいかない。
「少しは落ち着け、ウスラトンカチ」
「だってさ、なんか懐かしいじゃん。あの頃はまだオレ達下忍だったんだぜ?」
この地に任務に訪れたのはもう何年も昔のことだ。下忍になったばかりの頃、まだまだ未熟だった自分達。あの時はまだ喧嘩ばかりで、強敵達に立ち向かうべく必死になって修行をした。今となっては懐かしい思い出だ。
とりあえず騒ぐナルトを抑えて、日中は波の国を見て歩いた。あの任務で完成した橋は『なると大橋』と名付けられ、今も立派に役目を果たしている。治安のあまり良いとは言えなかった町中も今ではすっかり変わり、八百屋には色んな種類の野菜が並んでいる。
各所を見て回り、一通り回り終えた頃には日が落ちてきた。宿に向かって荷物を置くと、太陽が完全に沈んだのを合図に二人はある場所へと向かった。
「やっぱ海は広いってばよ」
第一声にそう言ったナルトにまたそれかと思ったのはサスケだ。此処は、かつて二人が任務に来た最終日の夜、こっそりタズナの家を抜け出して来た場所。変わってしまっただろうかと心配していたけれど、そこはあの頃のまま此処に残っていた。
「お前は海を見に来たのか。それとも星を見に来たのか?」
「そりゃぁ、両方見に来たに決まってんだろ!」
海は広い。どこまでも続く海を見ながらナルトが言った言葉に、それ以上広くて大きいものがあると教えたのはサスケ。それが彼等の頭上に広がる空。
どちらを見に来たのかといえば、それは両方を見るためにここに来たのだ。この光景が気に入ったから、また見たいと。そう思って約束をした下忍の頃。
「あの時はさ、火影になることが夢だって話をしたんだよな」
あの日のことを思い出しながら、ナルトはそんなことを話す。空一面に広がる星達を見ていると、やはり願いが叶うのではないかと思ってしまう。そう思うだけだということは分かっているけれど。あの時語った火影になるという夢は、ナルト自身が頑張ったからこそ手に入れることが出来たのだ。
そして、だからこそ今二人は此処に居る。
「また星に願いでもするか?」
「そうだな。もう火影にはなったし、今度は別のお願いでもするかな」
「本当にやるのか」
冗談で言ったつもりだったのだが、ナルトは本気で捉えたらしい。それから真剣に悩む様子に、サスケは空の星を見上げた。色んな星座が並んでいるのを眺めていると、隣から「よし!」と声が聞こえた。その声に反応して振り向けば、青い瞳と目が合う。
「これからもずっとサスケと一緒に居たいってばよ」
ニカッと笑ってそう話した。予想外の言葉に驚いたが、その反面でナルトらしいとも思う。火影の補佐になって欲しいと頼まれたり、ナルトには驚かされることも少なくない。
「それがお前の願いか」
「うーん……。願いたいっていうか、やっぱり叶って欲しいことだってばよ」
以前と同じようなやり取りを繰り返す。それに、こういうことは願って叶っても意味はないだろう。火影になりたいという夢と同じ、互いにそうでありたいと思って叶うのが一番だ。だから叶って欲しいと願えど、何かの力で叶うのでは本来の意味からは外れてしまう。
ナルトの言いたいことは、サスケも分かっている。もう何年もの付き合いだ。今更わざわざ口にしなくてもその意味くらいは伝わっている。
「オレもお前とは一緒に居たいと思う」
ただ一言。けれど、ナルトが願っていたもの。一人だけでは叶うことが出来ない、二人がそう思わなければ叶わないこと。サスケのこの言葉で、ナルトの願いは叶って欲しいものから叶うものに変わった。
「本当かってばよ!?」
「お前が言い出したんだろ」
聞き返されてすぐに肯定を返す。するとナルトは嬉しそうに笑みを浮かべるものだから、サスケの方もつられるように微笑んだ。
「じゃぁ、改めてよろしくな、サスケ」
「あぁ」
ライバルとして、仲間として。火影と補佐、様々な関係の二人。忍者学校の頃からの長い付き合い。今までずっと近くに居た存在。
それはここまでではない、これから先も。互いに支え合いながら、共に過ごしていこう。
「なぁ、サスケ。またオレが休みの時には波の国に連れてきて欲しいってばよ」
またこの海を、星を見たいから。それだけではない。此処には沢山の思い出が溢れている。他の誰も知らない二人だけの記憶。
いずれまたこの場所で、こんな風に二人でゆっくり過ごしたい。ナルトはそう思うのだ。
「考えておく」
そう答えたサスケは柔らかな笑みを浮かべていて、その言葉が肯定であることを教えてくれた。サスケもナルトと同じだ。時間がある時に二人で一緒に来るのも良いかもしれないと考える。
一度目は火影になりたいと。二度目はこれからも一緒に居たいと。
さて、三度目は何をお願いしようか。
聞こえてくる波の音は遠い昔に聞いたのと同じ。夜の世界に二人。
また訪れるだろう未来を楽しみに、目の前の景色を眺める。
fin