任務で国外まで行った帰り道。忍であれば何事もなく帰れると思うわけではなく、いつ何が起きてもおかしくないと考える。それがその通りになり、里へと向かう途中で敵襲にあった。
 今回、この任務は上忍が二人で行っていた。その二人の実力は里でもトップに数えられる。だからこそ、二人で任務についていたのだが突然の敵襲。それも実力者揃いのようで、一筋縄では行かない様子だった。
 二人――ナルトとサスケは、一度敵に見つからないように姿を隠す。いくら里でトップといえど、その実力と敵の数には苦戦の色が見られた。






「これから、どうする?」


 偶然見つけた洞窟に身を潜めながらこれからの事を話し合う。此処が死角である事と気配を消している事からすぐに見つかる事はないだろう。
 ナルトが尋ねれば、サスケは外の様子を確認しながら話す。


「どうにかしないといけないだろ」

「じゃぁ、突破方法を考えねぇとな」


 最初は、通に戦っていた。だけど、敵の実力は思った以上で少しずつ体力とチャクラの消耗を感じた。そこまでの人数ではないが、実力が実力なためにすぐには倒せなかった。それでもどうにか戦いを終わらせようと戦い続けた。
 けれど、事態はそう上手くは進まなかった。戦っていくうちに、体力やチャクラの消耗だけでなく傷を負うようにまでなってしまった。これ以上は流石に危険だと感じ、一時この場へと移動したわけだ。この様子からして、向こうは最初から自分達の事を狙っていた相手と見て間違えはなさそうだ。


「こっちのが分は悪いとはいえ、正面突破しかねぇよな」


 一番単純な考え方。正面突破するのが大変とはいえ手っ取り早いやり方だ。その分大変であり消耗や疲労もかなりの大きさになるのだろうが。それだけのリスクを伴っても、他の方法をするにはそれ相応のものが必要となってくる。それぞれ何らかの事があるにしろ、正面から行く方法が遠回しな事がないのも事実なのだ。


「敵は思った以上にやるってばよ。だから効率よくやらねぇと意味がない」


 効率よくやるためにはどうすればいいか。ナルトはそれを考えていく。二人の体力やチャクラ、それに忍術や身体能力を含めてどうすべきかの答えを探す。長い付き合いであれば、お互いに相手の動きも理解してくるというものだ。
 その隣で、サスケは少し別の事を考えていた。それを考えながらナルトの様子を窺っている。サスケ自身もそうだが、これまでの戦いで少なからず負傷もしているし消耗もしている。自分の事は分かるにしても、相手の事は予想は出来ても実際の事は分からない。そうはいっても、その予想というのは大方当っているだろう事は分かっている。


「やっぱりさ、ここは……」

「ナルト」


 言葉を遮られて「何だよ」と言おうとしたが、サスケの表情を見て止めた。その表情はいつもと違い、その瞳が見ている先が目の前にある敵ではないように思えた。だから、何も言わずに次の言葉を待った。


「お前は、此処に残れ」


 一瞬、言葉の意味が分からなかった。
 此処に残れという事は、このままこの場に居ろという事なのだろうか。どうして急にそんな事を言うのか、何でそう思ったのか。ナルトには理解出来なかった。
 でも、サスケが真剣にこの話をしているのは分かる。分かるけれど、素直に受け入れられるような事ではない。この場合、二人で一緒に行くべきなのに一人で行ってどうするというのか。敵の腕はいい方だという事くらい、さっきの戦いで分かっているはずなのに。どうしてなのかと問い詰める。


「何でそんな事言うんだってばよ! お前にだって、この状況は分かるだろ!?」

「分かってる。だから、お前は此処に残れと言ってるんだ」


 何が言いたいのか理解出来ない。それをそのまま呟くような投げ捨てるように言えば、聞いていたサスケは説明するようにして答えた。


「このまま正面突破をするにしても、戦闘による負傷は避けられない。敵の目的は、大方オレかお前のどちらかが持ってるものだ。それならいっそ、敵の目を一つに向ければ一方はこれ以上負傷をする可能性は低い」

「どっちかなら、ソイツを狙ってくるはずだろ。それに、一方を狙ってるにしても二人居ればサポート出来るってばよ」

「無駄に戦闘を増やす必要はないだろ。なら、オレ一人が出て戦えばお前がこれ以上傷を負う可能性は減る」


 サスケが言い切った時。ナルトはその考えへの驚きと込み上げてくる感情に体の動くままへと身を任せた。
 しっかりと聞き取れるような音が鳴る。肩で呼吸をする。動いた右手に軽い痛みを感じるがそんな事は気にしてられない。
 その拳を避けずにそのまま受けたサスケは、殴られた頬を気にするようすもない。本当なら、ナルトの本気の攻撃でもサスケが本気を出せば避けられない事はないのだ。だけど、あえて避けるような事をしなかった。ナルトが抱いた感情は、これまでの付き合いで大体分かっているから。


「ふざけんな!! オレがよくてもお前がよくなきゃ意味ないってばよ! 何でオレだけが無事じゃなくちゃいけないんだ。二人で一緒じゃなきゃ意味ないって分からないのかよっ!!」


 敵の存在にも構わず、思いっきり叫ぶ。そんな考え方は間違っているのだと。それが正しいはずがなく、どうして正しい答えが分からないのかと尋ねる。
 一人だけが助かって、一人だけが傷つく。
 そんな事が正しいわけがない。正しいなんていう世の中だったらそれこそどうかしてる。仲間を見捨てるなんて、仲間を大切にしないなんて。その行動が間違っている事は、分かっているはずだ。下忍の合否を判断するサバイバル演習でも、それからの数々の任務の時にだって分かっていたはず。なのに、なんで今そんな事を言うのか。


「前にも、お前はオレに言った。大切な仲間を失いたくないからサクラちゃんを連れて行けって。カカシ先生は、仲間を大切にしろって、仲間を殺させたりしないって言った」


 さっきよりも少し落ち着いた様子でゆっくりと話していく。中忍選抜試験の時、サスケから聞いた言葉。サバイバル演習の時、波の国でカカシから聞いた言葉。ナルトは、その言葉たちをしっかりと覚えている。
 その言葉に含まれているのは、仲間。それが大切な存在になり失いたくないと思い殺させたりしないと言う。仲間という存在の事は、互いに理解しているつもりだ。


「お前がオレを傷つけたくないなら、オレにとってはそれがお前だ。そんな事も分からないわけじゃないだろ!?」

「確かに、それはお前の言うとおりだ。けど…………」


 言葉を区切った瞬間。ナルトは体の自由がなくなった事に気が付いた。そしてそれが忍術であり、サスケが発動させたという事に気付くまでにあまり時間を必要としなかった。


「けど、お前はオレとは違う。ナルト、お前はこれからも必要とされる忍なんだ。太陽のような光でどんなものも明るく照らす……。里にも必要な火影になる存在。その光に、どれだけの人が救われたか知っているか?」


 それは、ナルト本人は知らないかもしれない事だ。今までに何人もの人がナルトに救われた。その真っ直ぐに進む様子が人を変えていったのだ。ナルトに出会う事によって見えてくるものが変わった、見るものが変わった人は少なくない。
 そしてサスケもまたその一人だ。最初は喧嘩ばかりだったが、ナルトの姿に少しずつ変わっていく事はサスケ自身も感じていた。
 一緒に居るだけで、触れ合うだけで変わっていく。まるで太陽の光のように導きどんな場所でも照らしていく。そう、それは太陽のような存在だ。


「今まで、お前と出会ったたくさんの人が変わっていった。オレもその一人だ。お前には、もしもでも何かあったら困るんだよ」

「だからって、それは違うってばよ。オレだって、お前に憧れてずっとお前を目指してた。オレにとったら、サスケは誰よりも大切なんだってばよ」


 今まで抱いてきた思いをぶつけ合う。その台詞が恥ずかしいなんて思っている暇はない。とにかく、相手を説得させる方が先だ。
 互いに相手の事がとても大切なのだ。だから、相手を傷つけまいと思い必死で話す。なんとかこの思いを相手に伝えようと、ただ真っ直ぐに気持ちを向ける。


「それで十分だ、ナルト。その気持ちだけで」

「よくねぇってばよ、サスケ! 一人で行くな! オレは、お前と…………」


 新たに発動させられた術に意識が遠のいていく。まだ伝えなければいけない言葉も、言いたいと思うのに声になって発する事が出来ない。


「            」


 段々と薄れていく意識の中で小さな声を聞きながら、そのまま意識を失った。



□ □ □



「んっ……ここは…………?」


 ゆっくりと目を開けると、そこには白い色が目に入ってきた。清潔感のある色に、独特の匂いは知っているものだった。隣から「病院よ」という声が聞こえてくると、視線をそちらに向ける。
 そこには、昔同じ三人一組を組んでいた仲間。サクラが椅子に座ってナルトを見ていた。
 此処が病院という事は、木ノ葉の里に戻ってきたのだと納得する。どういった経緯で、という事は全く覚えていない。それも、此処に来るまでの間は意識を持っていなかったのだから仕方がない。そこまで考えると、あの時の出来事をナルトはしっかりと思い出した。


「サスケッ!!」


 飛び起きてその名を呼ぶが、体に走った痛みに顔を歪める。隣にいたサクラは立ち上がって「まだ怪我は治ってないのよ」と注意をする。その表情は心配そうだったけれど、ナルトはそんな事を気にしてなどいられなかった。


「サクラちゃん、サスケは!?」


 顔を上げてすぐに尋ねる。何よりも先にそれが知りたかった。あの時、ナルトはサスケの発動させた術によって気を失った。その後サスケが何をしたのかは大体予想がつく。予想というよりそれは確定事項で、サスケは敵に一人で向かって行ったに違いない。
 気を失ってから今までの出来事をナルトは知らない。知らないけれど、なんとなく予想が出来るからこそサスケがどうなったのかとにかく知りたいのだ。一人で敵に向かい、無事なのかと。

 ナルトの必死の表情を見ながら、サクラは曇った表情を見せた。その表情の色をナルトはしっかり見ていた。次に出てくる言葉が何なのか、と胸が鳴るのを感じながら待つ。


「サスケ君は、無事よ。命の別状はないわ。だけど怪我が酷くて……。治療は終わって今は病室に居るけど、意識はまだ戻ってないの」


 それを聞いた瞬間。いてもたってもいられなくなり、サクラに病室を聞くとそのまま飛び出して行った。そんなナルトをサクラが止めなかったのは、ナルトの気持ちが分かっているから。怪我は治っていないとはいえ、ナルトはサスケの元へ行きたい気持ちを抑える事は出来ない。それが分かっているからこそ、サスケの病室を教えたのだ。
 その病室はどこかと病院内を走り抜ける。病院で走るなという注意の言葉にも耳を傾けることはせず、一直線にその場所へと向かった。

 ――――ガラッ。

 思いっきりドアを開け、その姿を見つけるとすぐそばに行きたい気持ちになるが現状を考えてその気持ちを抑える。
 開けたドアを閉め、ゆっくりとサスケの元まで歩く。隣までやってくると、周りにある医療器具に一通り視線をめぐらすとサスケの方を見た。


「サスケ…………」


 静かな声でその名を呼ぶ。いつもなら返ってくるはずの返事も今はない。ナルト以外には何もないかのように静かな病室。
 あまりにも静かな病室に胸が痛むのを感じる。此処が病室だから静かなのは自然なのだけれど、サスケの意識は戻っていないとサクラに聞いている。たった一人だけでこの場所に居るような気がして、それを感じる度に胸が痛む。


「なんで、お前はたった一人で……」


 ポツリと呟いたそれはすぐに静寂へと消えてしまった。だけど、この気持ちだけはすぐに消える事はなかった。消えるどころか、どんどん増えているようだ。


「どうして一人で行っちまったんだよ、サスケ」


 あの時、どうしてたった一人で行ってしまったのか。一緒に行けばいいと言ったのを断わったのか。ナルトだけはこの場に残れと言ったのか。二人で一緒に行かせてはくれなかったのか。
 浮かぶ疑問の答えは既にあの時に聞いていた。大切だから、もしもでも死んだりしてはいけない存在だから。一人で敵に向かっていくと決めてしまった。いくらナルトが話しても、それを受け入れようとはしないまでに。固く、強い決意をしていた。


「オレだって、お前が大切だって言ったのに」


 それはサスケにとってナルトなら、ナルトにとってはサスケだった。互いに相手の存在が誰よりも、何よりも大切なものとなっていた。それも伝え合って分かったはずだった。
 けれど、サスケは強引に自分の意見を貫いた。ナルトの体の自由を金縛りを使って封じた。それから、別の術を発動させる事によって気を失わせた。ナルトに意見を聞き入れる事なく、自分の意見だけを通したのだ。


「オレは、こんな結果を望んでなんかいない」


 ナルトは、サスケを失いたくはなかった。その気持ちはサスケと同じだったはずだ。相手を傷つけたくない、だから一緒に行こうと言ったのだ。こんな結果になるのが嫌だったから。こんな結果にしないためにも、一緒に戦おうと。
 もう、サスケを失ったりなどしたくはない。ただ失いたくないと思うのではなく、誰よりも、何よりも失いたくないと強く思う。それは今までに失いそうになった事が、失った事があったからだろうか。もう絶対に失うというあの気持ちを感じたくはないと願っていた。


「お前を失いたくないんだってばよ……!」


 二度と失いたくない。その強い思いが、命に別状はないと分かっていても不安になってしまう。もしかしたら、もう目を開けることはないのではないかと錯覚してしまうまでに。
 そんな感情が集まり、増えていくうちに目が熱くなってきているのを感じた。それから少しして、頬を伝う温かいものがあった。一筋の雫は重力に逆らう事をせずにゆっくりと落ちていった。


「なんで、いつも自分の事しか考えてないんだよ。どうして、オレの気持ちは聞いてくれないんだよ……!」


 いつもそうだ。サスケは自分の事しか考えていない。自分の気持ちを、その考えを貫こうとする。ナルトが自分の気持ちを伝えても優先するのはサスケ自身の気持ち。今までにナルトの気持ちを聞いて行動した事はどれだけあっただろうか。
 自分自身の気持ちを通す事が悪いとは思っていない。だけど、サスケの場合はいつもそれで一人で進んでしまう。だからこそ、ナルトは自分の気持ちも聞いて欲しいと必要以上に思ってしまう。
 けど、上手く交わらない考えは正しい道へと導いてくれない。その結果がこの現状である。分かってもらいたいのに分かってもらえない。それがこの結果を残した原因の一つであるとナルトは思っている。自分への苛立ちや悔しさと、サスケへのたくさんの感情が混ざり合って複雑な気持ちになっている。


「オレは……オレだって……!!」


 一筋の涙が数を増やし次々に流れてくる。止まる事を知らないかのように溢れ出てくる。どうにか止めようとしても、逆に涙は溢れるように流れる。
 止まらない涙が、ナルトの頬を伝い落ちた先からサスケの頬を伝った。まるで、ナルトだけではなくサスケまでもが涙を流しているかのよう。
 溢れる涙を止めるのをやめ、出てくるままに涙を流す。どうしようもないこの気持ちが、感情までもが一緒に流れて溢れているようだ。何もかも、ストッパーが外れてしまったようだった。

 どうしようもなくなったそれは、どんどん溢れるばかり。
 そんなナルトを温かく包み込むかのように、人の体温を感じた。それは、頬の方から伝わってきて、溢れる涙を拭っていた。


「なに泣いてるんだよ」


 聞こえた声に一瞬耳を疑った。でも、これが現実である事を理解してすぐにサスケを見ると柔らかな表情がナルトを見つめていた。涙を拭うようにして頬にやられた手はあまり温かくはなかったが、そこからはとても温かいものが伝わってきた。
 嬉しさに名前を呼べば、また涙が流れた。けど、今度の涙は悲しみからではなく嬉しさからのもの。そんなナルトを見ながら「泣くなよ」とサスケは言った。その声があまりにも優しいものだから、つい涙が溢れてくる。


「だって、サスケが悪いんだってばよ。勝手に一人で行っちまうから」


 涙を気にせずにただ思いをぶつける。涙がまた溢れたように、この感情も気持ちも全てがまた溢れてきた。
 これを止める術をナルトは持っていない。だから、このまま身を任せてそれを溢れるままにする。


「オレはサスケが大切で、もう失いたくなんてないのに、サスケは…………」


 ナルトの言葉をサスケは静かに聞いていた。それがナルトの本心である事は分かっている。だからこそ、何も言わずに聞いているのだ。
 あの時にナルトから聞いた言葉、今までに言われた言葉から彼が今何を言いたいのかは知っている。ナルトがそれを伝えようとしているのなら、サスケはそれを聞く必要があるのだ。


「今までだって、死にそうになったり里を離れたり……。命に別状はないってサクラちゃんに言われてたけど、でももしかしたらって思ったらどうしようもなくて。オレはもうお前を失いたくないんだ」


 失う。その辛さを教えてくれたのはいつだってサスケだった。
 一度目は波の国でナルトを庇って白の攻撃を受けた時。ナルトを庇ったサスケの体は、とても冷たくなっていた。力を失った様子に、死んでしまったのではないかと思ってしまうほどだった。だけど、その攻撃が致命傷を外れていたためにサスケは助かった。その時に死というものを知り、失う事は嫌だと感じた。
 二度目は、サスケが復讐のために里を抜けた時。小隊を組み、みんな必死でサスケを止めようとした。中でもナルトは誰よりもサスケに行かないで欲しかった。けど、その願いは虚しくサスケは大蛇丸の元へ行ってしまった。その時に仲間を失う辛さを知ったのだ。


「サスケがオレをって言うならオレも同じだってばよ。それなのに、お前ってば全然オレの話を聞こうとしなくて、本当に自分勝手」


 自分の意見を貫くためにナルトの意見は聞き入れなかった。同じ気持ちなはずなのに受け入れようとはしなかった。それも、全くといっていいほどに自分の意見だけを通した。
 それを自分勝手というのかは分からないけれど、間違ってはいないと思う。自分勝手といいつつもそれがナルトを守る事だとも分かっている。でも、やっぱり自分勝手なのには変わりないのではないだろうか。


「……お前も自分勝手だろ」

「そうかもしれねぇけど、サスケだって同じだってばよ」


 サスケの事を自分勝手と言いつつもナルト自身も自分勝手だろうということは分かっている。真っ直ぐ自分の言葉は曲げないという言葉を忍道に今までやってきた。その中で自分勝手といわれるような行動がなかったとは言い切れないと思う。だからその言葉を否定はしない。


「お前の気持ちは分かった。オレが悪かった。けど、お前はオレだけじゃなくてもっとたくさんの人にとっても大切な存在だ。オレとは比べられない」

「そんな事ないってばよ。オレにとっては、サスケが一番なんだ。あの時も、言っただろ?」


 あの時、ナルトはサスケに今と同じような言葉を言われた。そして、ナルトも今と同じように答えた。あの時と同じ言葉たち。だけど、今度は少し違っていた。


「……何で分からないんだろうな。オレと関わってもいい事はないのに」

「オレからすれば、サスケと一緒にいられればいいんだ」

「今更、後悔しても遅いからな」


 そう言った二人の表情には笑みがあった。いつの間にか涙も止まっていた。この場にあるのは、二人を包む温かい空気だけ。どこを見ても温かな一色に染まっている。それは、二人の気持ちが通じた事を示していた。
 やっと通じた思いに、互いに異論はないようだ。元々、同じように思っていたのだ。それが通じて何かがあるわけがなかったのだ。


「後悔なんてしないってばよ。それに…………」


 途中で口篭もったナルトに疑問を浮かべる。何が言いたいのかと見ていれば「あの時」と小さく呟いた。たったそれだけの言葉だったけれど、ナルトが言いたい事が予想出来た。そして、その言葉からナルトがあの時の言葉を最後まで聞いていた事を知った。
 あの時、ナルトが気を失う寸前。サスケは届くか届かないか分からない言葉を伝えた。それは、届かない可能性の方が高かった。だけど、この様子を見ると伝わっていたようだ。
 続きをなかなか言えないでいるナルトに、サスケはもう一度あの時の言葉を伝えた。


「ナルト、オレはお前が好きだ」


 今度ははっきりと、その言葉を告げた。真っ直ぐなその思いは、ナルトの心の奥底までに響いていた。
 それを聞いて、さっきまではなかなか言えなかった言葉がすんなりと出てきた。素直に、純粋に、その言葉への返事が。


「オレも、好きだってばよ」


 伝えた気持ち。その気持ちまでも抱いているものは同じだった。その気持ちの答えが同じだった事を知ると、嬉しくなる。
 通じた気持ちに自然と抱く思いは同じ。今までも大切な人といえば互いの存在だった。けれど、この先は今以上に大切な存在になるのだと。誰よりも、何よりも一番大切な人。

 触れた手がとても温かかった。手の温度というより、手を通じて伝わる気持ちが温かかった。その思いを全て感じる事が出来たようだった。
 もう、この手を離したりはしない。一人ではなく、二人。これからは二人で一緒に歩いていこう。

 どんな道でも、必ず二人一緒に。










fin