学校の終わりを知らせるチャイムが鳴り響く。帰りの支度を済ませた生徒は次々と教室を出て行く。いつものように友達が声をかけてくるが今日は一緒に帰ることが出来ない。それを友達も知っていたようで、かけられた言葉は「じゃぁな」「頑張れよ」というもの。
 いつのまにか静かになった教室に残っているのは不思議な感じだ。これからやらなければいけないことを、静かな教室は表しているようだった。



補習




「何度説明したら分かるんだよ…………」


 夕焼けを知らせるようにオレンジ色の光が差し込む教室の一角。一人の生徒が教室に残っていた。自分の席につきながら、今やるべきものを手元にあるもののなかなか進まずにいた。目の前には担任である教師が、前の席の生徒の椅子に座りながら生徒に問題の解き方を説明していた。
 説明していた、と一回でいいのなら楽なのかもしれない。これで何度目かと思う同じ説明につい言葉を漏らしてしまう。


「だって、難しいんだから仕方ねぇじゃん!」


 まるで分からないことが当たり前かのようにいう生徒。彼は学年でもドベということで名が知れているうずまきナルトだ。そんなことで名前を知られても嬉しくないのだが、いつもテストでドベといえる成績を残しているのだから仕方がない。
 それに加えてこの元気な性格は普段にも十分すぎるほど出ていて学年で知らないものは居ない。全校生徒で考えたとしても殆どが知っていると答えるだろうというほど知られている。


「オレだってやらなくちゃいけない仕事があるんだ」

「じゃぁさ、こんなことやらなければいいんだってばよ」


 やらなければいいと言われてやらないわけにもいかない。それを分かってるのか分かっていないかと思ってしまうのはナルトの担任であるうちはサスケ。
 この二人は、実は兄弟だったりする。兄弟といっても、血の繋がっている実の兄弟というわけではない。それには家庭の事情というものが大きく関わっている。ナルトの親は忙しく、サスケはナルトが生まれた時からずっと面倒を見つづけている。その親というのは仕事の都合で今は海外に居るらしい。年は十六歳と二十四歳で八歳差。血は繋がっていないとはいえ、小さい頃から一緒だった二人は兄弟同然だ。


「そうもいかないだろ。大体、お前がもう少し真面目に授業を受ければいいことだ」


 真面目に授業を受けていれば少しくらいは分かるのではないかと思う。ナルトが真面目に受ける授業といえば体育と理科の植物についてだけだ。自分の好きなことはやれるのだが、他はどうも難しいらしい。体育に取り組む姿勢を少しでも他の教科に向けて欲しいものだが、なかなか出来ないもののようだ。


「そんなこと言われても無理だってばよ。サスケには出来たかもしれないけどオレには無理!」


 こんなにはっきり無理と言っていいものなのだろうか。その発言にサスケはつい溜め息が出そうになってしまう。ナルトらしいといえばナルトらしいのだが、少しは努力してもらいたいと思ってしまう。


「はっきり言うな。それと、学校では“先生”だろ」

「先生って言いづらいんだってばよ。いいじゃん、誰も居ねぇんだし」


 兄弟として身近に居る存在。だからこそ先生とは呼びづらい。先生と思う以前に兄であるという印象の方が強いのだ。先生と呼べといわれてもすぐになれることは出来ない。
 ついでにいうと、ナルトは先生と呼ぶように心がけてもいない。けれどやはり兄弟であるサスケのことはサスケと呼ぶ。先生であっても兄であることに変わりはないということだろう。サスケもそれが分かっているから、注意はするものの絶対にそうしろとは言わない。


「そういう問題じゃない。それより、問題を解く努力をしろ」

「つってもさぁ……。解く努力をしても解けねぇんだってばよ」

「それは、お前が分かろうとしないの間違えじゃないのか?」


 なかなか埋まらない問題。それが問題を解けないことをしっかりと示しているかのようだ。
 とはいえ、あくまでも紙の上での話。解く努力をしているかというのは本人の問題である。実際にナルトがその努力をしているかといわれれば、どちらとも言えないのかもしれない。補習として残っているのだから解く努力を全くしていないわけではない。だけど、補習なんて終わって欲しいと思っているし面倒だと思っている辺り努力をしているといいきれないといったところだろう。


「そんなことないってばよ。それよりサスケ、補習なんてもう終わりでいいってばよ。一時間も残ってやってるんだからさ。後は家でやればいいし」


 もう帰りたいからと言うように話すナルトを見てサスケは呆れてしまう。一時間も、というがどれくらいやったのかといえばそれほどやっていない。一枚のプリントに書かれている問題には、答えの書かれていないものがまだ残っている。


「お前な……。家でもやらないから今こうしてやってるんだろ」


 家に帰ってからやらないだろうという結果は目に見えている。宿題を出されてもやらないことが多いのはサスケも知っていた。だからこそ、補習としてナルトを放課後に残して勉強していたのだ。
 家でも学校でも勉強よりも遊びが優先されてしまう。それは今に始まったことではないが、少しくらいは姿勢をかえて欲しいものだ。


「大丈夫だってばよ。サスケだって仕事あるんだしさ。それでいいじゃん!」

「いつもやらないのは誰だよ」

「だから、大丈夫だってばよ。それじゃぁ、オレってば先に帰ってるってばよ」

「おい、待て! ナルト!!」


 結局、話をまとめて帰ってしまったナルト。そんな姿を見ながら、仕方ない奴だと思いながらも窓から見えるナルトの姿を温かく見つめる。ナルトの勉強嫌いというのは困ったものだが、友達を大切にしたりいつも前を見ているところはナルトの良いところだ。

 補習をする生徒も帰ってしまったのでサスケは教室を後にする。職員室に向かう途中、家に帰ってからどうするかと考える。流石にすぐに勉強なんていうのも気の毒かと思う。とりあえず、職員室の自分の席につくと仕事を終わらせる為に手を動かす。
 帰り道を歩いていたナルトは、ふと学校の方を振り返る。家に帰って勉強をするつもりはない。だけど、何かを感じたのか。ふと笑みを浮かべて家に向かって走り出す。そこにあるものを掴むため、前に進んでいく。

 秋の空の下。オレンジ色の夕日に照らされて。
 もうすぐ終わる今日から明日に繋がる光を目指して走り出す。










fin