「なぁ、サスケ」


 今日もいつものような任務を行った第七班。何事もなく無事に終了し、明日の連絡を聞いたのはつい先ほどのこと。そのまま解散を言い渡され、それぞれが自分の行く方へと向かっていった。
 そんな中、ナルトはサスケの後を追い掛けた。



の贈




 解散を言い渡され、カカシは報告の為に忍者学校へ。サクラは家への帰り道を。そして、サスケも今日は家へと向かった。けれど、ナルトだけは家に帰るわけでもなく、修行をするわけでもなかった。ただ、サスケの後を追い掛けた。
 こっそり追い掛けるのではなく、普通に追い掛ける。そうすれば、ナルトが追ってきたことをサスケも気付くから。何も隠れて追いかけようなどと思ってはいない。むしろその逆だった。


「なぁ、サスケってば」

「何だよ」


 一定の距離を開けたまま歩く。ナルトが後ろから何度か名前を呼べば、やっとサスケも振り返ってくれた。少しばかり苛ついているようにも感じる声だったが、ナルトは気にする様子もない。振り向いたことを確認すると、サスケの隣まで走ってきて話を続けた。


「あのさ、今欲しいものとかねぇの?」


 突然の質問に、サスケは急に何だと言いたげな視線を送る。いきなり欲しい物はないのかと聞かれても訳が分からない。それも相手はナルトだ。いくら同じ班を組んでいて昔よりは仲が良くなったとしても、急にそんなことを言われる理由はさっぱりだ。
 その視線の意味を悟ったナルトは、何の躊躇いもなく言葉を付け加える。


「今日って誕生日なんだろ? サクラちゃんも言ってたしさ」


 それは今朝のこと。集合場所に集まっていた三人。その場に三人だけが来ていて、いつものように遅刻をしている担当上忍を待っている時だった。
 今日、七月二十三日はサスケの誕生日だとサクラが話していたのをナルトも聞いていた。サクラは誕生日プレゼントといってサスケに何か渡していたのも知っている。それを受け取ったサスケは礼を言って、サクラも嬉しそうだった。
 その時に、ナルトは何か用意したのかとサクラに尋ねられたのだ。サスケの誕生日なんて知らなかったナルトが何かを準備出来るわけがない。だから適当に答えれば、サクラに軽く怒られたのが今朝の出来事だった。


「欲しい物なんてない」


 たった一言。それだけを言い捨てるように言うと、歩くペースが少し上がったようだった。それに気付いたナルトもペースを上げて隣を歩けるようにする。再び、隣に並ぶとナルトは疑問を投げかける。


「本当にねぇの? 何でもいいんだぜ」

「何もねぇよ」


 どう見ても最初とは態度が変わっている。最初もナルトがずっと名前を呼ぶから聞いてやったという話なのだろうけれど。それでも今とは纏っている空気が違った。
 何かがある。そう思ったもののその何かが分からない。それが分からなければ解決の仕様がない。だからといって、どうしようかと考えるようなナルトでもない。


「じゃぁさ、サスケん家行ってもいい?」

「はぁ!?」


 出てきた言葉がまた突然で驚かされる。どこをどうしたらそういう考えになるのかと聞きたくなってしまうほどだ。聞いたところで、本当にそのまま思っただけなのだろうから無駄だろうが。
 答えを求めては「行っていい?」と聞いてくるものだから、早く答えた方がいいのだろう。断わる理由があるわけでもないと思うと、良いという返事を返してやった。途端に喜ぶ姿はとても明るくて、自然とサスケも温かくなるような気がした。


「なら早速行くってばよ!」


 どうしてそんなに喜ぶのかは分からない。けれど、ナルトがいいのならいいということにしておこう。聞いてみたい気がしないわけでもないが、あえて聞こうとはしない。早く行こうと言い出すナルトにサスケの方が分かったと言う。


「これからサスケん家行って、祝ってやるってばよ」


 前を歩きながら後ろを振り向いて話す。その表情は嬉しそうで温かかった。
 それが、人の温かさ。サスケが失っていたものであり、七班として過ごしていくうちに少しずつ思い出していったもの。その中心にあったのはいつでもナルトだった。太陽のように明るい光が、暗い闇の中を照らしていくのを感じた。
 今も同じだった。ナルトの光は明るい輝きを放っている。その光に手を伸ばす自分がいることに気付いた。


「祝うって、何するつもりだよ」


 さっき感じた空気ではない。いつものサスケと同じだとナルトは感じた。それと同時に、いつものサスケに戻ってくれてよかったと安心する自分がいた。
 何をするか、具体的に決めていたわけではない。サスケの誕生日なのだからサスケに喜んでもらえるようなことをしたいとだけ考えていたのだ。抽象的なものばかりで具体的ではないけれど、ナルトは笑顔を向けて答えた。


「サスケが喜んでくれること」


 抽象的な言葉のままの答え。それでも、気持ちだけは充分伝えることが出来たようだった。サスケは小さく笑みを浮かべて話す。


「抽象的だな」

「いいんだってばよ。サスケが何もないって言ったんだから」


 何もないというなら、自分に出来る限りのことを。精一杯のことをして、彼を祝おうと考えた。喜んでくれるかは分からない。否、喜んでくれるようにする。それが、ナルトの考え方だった。そんな言葉の意味をサスケも理解していた。


「何言ってもいいんだよな」

「あるなら何でもいいってばよ。そうするつもりだったから」


 元々はサスケの欲しい物を渡すつもりだった。ないと言われたけれど、何かあるというのならそれはそれで構わない。サスケが喜んでくれればいいとナルトは思っている。今日はサスケの誕生日なのだから。
 何を言ってもいいということを確認したサスケは、真っ直ぐナルトの方を見た。笑みを浮かべたまま、それをナルトに伝える。


「今日一日、オレの言うことを聞け」

「えー! 何だってばよ、それ!」

「何でもいいんだろ?」


 確かにそう言ったけど、とナルトは小さく呟いている。ダメなのかと問えば、いいけどと返してくる。結局は、それがサスケの欲しい物、願いであるなら構わないのだ。


「それで、サスケはオレに何しろって言うんだってばよ」


 聞かれて少し悩む。だけど、最初に言うことは決まっているようなものだった。それをそのままナルトに伝える。


「オレと一緒に居ろ、ナルト」


 一瞬、何を言われたのか理解できなかった。けれどそれも一瞬のことで、すぐに何が言いたいのか分かった。そして、それを理解すると何だか嬉しくなった。


「分かったってばよ」


 それだけを言うとまた家へと向かって歩き出す。今度は二人で隣に並びながら、同じ歩調で。自然と一緒に並んで歩く。

 今日というこの誕生日。君にとっての一番の贈り物を届けたい。
 誕生日おめでとう。
 君にとって素敵な一日でありますように……。










fin