一番最初を君と一緒に
十二月三十一日。一年最後の日。サスケはカカシの家へとやって来ていた。これも今では二人にとって日常のことで、彼等はよく一緒に過ごしている。いつもと違うことといえば、今日が大晦日だということだろうか。
「今年も色々あったね」
夕飯も済ませてのんびりと過ごしていた時だった。ふとカカシが呟いたのを聞いたサスケは、黒の双眸をそちらへと向けた。
「何だよ、急に」
「だって今日は大晦日でしょ? 一年を振り返ったら色々あったなと思ってね」
今年も残り僅かとなり、どんな一年だったかと振り返ってみた。そうしてこの一年のことを思い出してみると、本当に色々なことがあったと思ったのだ。
カカシがサスケ達第七班の担当上忍になったのは去年の秋のことだった。そういう意味では去年もカカシにとっては大きな変化があったのだが、去年は二ヶ月しか教え子達と過ごしていない。たった二ヶ月でも様々なことがあったとはいえ、やはりこの一年も色々なことがあった。
「……確かに、そうだな」
少し考えるようにした後、サスケもまたカカシの言葉に同意した。この一年を振り返ってみると、様々な出来事があったと思う。一つ一つ挙げていこうとしたらどれくらいかかるのかというくらいには、記憶に残っているものも多い。
「お前等、最初は全然チームワークがなってなかったよね」
「別に忍者学校で親しかったわけでもないしな」
七班を結成したばかりのことを思い出しながらカカシが零せば、サスケはさらっとそのように返した。忍者学校時代、特に親しかった訳でもなければどちらかといえば逆で。カカシの言うように最初は全くチームワークなんてなかった三人だった。
けれど、それも七班として任務をこなしていくうちに徐々に変化していった。バラバラだったチームも今では一つになり、三人はこの一年で大きく成長したといえるだろう。
「今はあの頃ほど喧嘩もなくなったし、オレも安心して見ていられるよ」
「アンタは少しくらい手伝っても良いと思うがな」
「オレだって必要な時は手伝ってるでしょ」
それはそうかもしれないが、大抵は少し離れたところで見守っているのがこの担当上忍である。愛読書である例の本を広げながら。ナルトやサクラにも指摘されるが、当の本人は頑張れと応援するだけで手伝う気がないことは全員が理解している。勿論、カカシの力が必要な時にはちゃんと手を貸してくれるけれども。
「ま、それは置いといて」
アンタから振ってきたんだろうとか、分が悪くなってきたからって勝手に終わらせるなだとか。言いたいことがないでもなかったが、続けられた言葉にサスケは眉間に皺を寄せた。
「オレにとって、この一年で一番大きかった出来事はやっぱりサスケとのことかな」
何を言い出すんだ、と思ったのが顔に出ていたのか。だってさ、とカカシは更に言葉を続ける。
「お前がオレと付き合ってくれるなんて思わなかったから」
告白したのはカカシの方だった。そして、それをサスケは受け入れた。
正直玉砕は覚悟していたし、そもそも初めは言うつもりもなかった。男が男を、しかも自分の部下を好きになるなんて。普通ではないそれを内に秘めるつもりでいたけれど、あまりに大きなそれを抑えきれずに告白に踏み切った。
断られると思っていたそれは意外なことに受け入れられ、二人は晴れて恋人という関係になった。当然それを公にはしていないものの、二人が恋人であることは事実だ。
「……告白してきたのはアンタの方だろ」
「そうだけど、振られると思ってたんだよね」
だから意外だったのだとカカシは話す。
そんなカカシに、サスケははあと深く溜め息を吐いた。何だよそれ、と言いたくなるのを抑えてカカシを見た漆黒は、呆れたように口を開く。
「それを言うなら、オレもアンタに告白をされるとは思わなかった」
というよりも、普通は考えられないだろう。同じ男に、しかも自分の上司に告白されるなんて。
それはそうだろうねと返したカカシに「だからオレも同じだ」とサスケは話した。同じ、という言葉に一瞬疑問を浮かべたかカカシだったが、すぐにその言葉の意味は理解した。それは二人が今、付き合っているという事実が全てだ。
「オレが告白しなかったら、サスケ君が告白してくれた?」
「さあな」
好きという気持ちは同じだった。言葉にしたのはカカシだった。だけどもし、カカシが言葉にしていなければサスケの方から言葉にしてくれたのだろうか。
その答えは曖昧にされたが、どっちにしろもしなんて仮定の話をしたところで何かが変わるわけでもない。それならやはり、その一歩を踏み出してみて良かったのだろう。その結果、こうして今を一緒に過ごせているのだから。
「ねえ、サスケ。来年も一緒に居てくれる?」
なんとなく聞きたくなって、そんな問いを投げ掛けた。
忍はいつだって死と隣り合わせだ。来年も、なんて約束が叶えられる保障はない。ずっと、という言葉を交わすことも出来ない。けれど。
「…………ああ」
暫しの間を開けた後にサスケは肯定で答えた。忍が未来の約束を叶えられる保障はないけれど、それでもそう在りたいと思うのは自由だろう。相手のことを想っているのなら尚更。
約束だと笑うカカシに忍がこんな約束をして良いのかよと返せば、今回は特別だなんて言われて甘い口付けを落とされた。何が特別なんだと思いもしたが、今回はそういうことにしておこうとサスケもそっと瞳を閉じてそれに応えた。
そんな約束を交わしてすぐのことだ。長針と短針、全ての針が十二を指し示した。
どちらともなく離れて、視線を向けた先の時計で時刻を確認したカカシは笑って告げる。
「明けましておめでとう、サスケ」
それを聞いたサスケもまた、同じ言葉をカカシに返した。
一月一日、新年になったばかりの挨拶を。
もう去年となってしまったつい先程までの時間。そして新しい年になったこの時間。一年が移り変わるその時を共に過ごすことが出来た、それもまた一つの幸せ。
きっと二人は、あの約束を守れるようにこの一年を過ごしていくのだろう。この一年だけでない。来年も再来年も、ずっと隣に居られるように。
fin